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異世界は召喚されし者に優しくない  作者: 高橋 聡
第一章 チートなき世界でのあまりモノ義勇兵
2/13

ep2 あまりモノたち

 2話目です。ようやくサトル班の兵種が決まったようです。どうぞよろしくお願い致します。

 様々な説明が歩兵第三分隊長や役人らしき男たちから行われた。義勇兵の兵種や給料、寮舎、ギルドと呼ばれる訓練所、そして魔術の説明も。


 あまりにも説明が多岐にわたるのだが、説明前には少冊子の本が配られたことに召喚された男たち数人はは驚いていたようだ。

 転移ものの定番といえば羊皮紙という知識があったからであろうか、亜麻紙の存在に幾人かの召喚された男たちは目を丸くしていた。


「なんで文字が読めるんだ?」


 そんな声もそこかしこから聞こえてくる。

 違和感なく騎兵長ダーリアや歩兵第三分隊長の言葉を召喚された男たちは理解していたが、それだって不思議だとサトルはつぶやく。

 皆一様に驚いてばかり、疑問に思うことが次々と出てくるので説明はそこまで頭に入らないのも仕方のないことだろう。


 そんな召喚された男たちの様子を見透かしてか、ただ淡々と歩兵第三分隊長や役人は説明をこなしていく。


 冊子の中身や役人たちの説明のおおよそのところはこうだ。

 この世界には人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、竜人族、魔人族、亜人種、魔獣と呼ばれる種族が存在する。

 この中で人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族はイシス神を信仰し、魔人族、亜人種はエヌルタ神を信仰している。

 端的にいえば長々と100年もの間、宗教戦争の様相を呈しているのがこの世界だ。

 竜人族のみ、その始祖といわれる竜神を信仰しているが、もともと彼らは他種族への関心が極端に薄いのだそうだ。


 この主に魔人族と敵対する宗教戦争は100年戦争と呼ばれている。

 イシス神を信仰する人族を中心とした種族は目下、不利な形勢でありアトゥム大陸西側に追い詰められており、防戦一方だということだ。


 兵種についてもいくらかの説明があった。

 詳しくは少冊子を読んでくれとのことだが、重装戦士、軽装戦士、軽歩兵、弓兵、魔術兵の5つの兵種がある。

 それぞれ6人の班を組んでどの訓練所に行くかを決めてほしいとのことだ。班内での兵種の振り分けに制限はないのだそうだ。

 この班で普段やることは魔獣、亜人種などをゲリラ的に討伐して少なくしていくこと。

 そして魔人族が攻めてきた際には義勇兵団が作られ、そこで戦線に参加することになる。


 「剣士や騎士という兵種はないんでしょうか?」なんて質問も出たが、その答えはこうだ。

 騎士は馬に乗るから騎士であり、馬はそれなりに調教、訓練が必要で長い時間がかかるうえに、諸君らはそもそも貴族ではないので騎士にはなれない。

 剣士を気取るのも勝手だが、剣一本で戦場に行けば待っているのは死のみだ、と歩兵第三分隊長はスラスラと答える。


「では3ヶ月の訓練過程を楽しんでもらいたい!

 装備はギルドから訓練過程を終えれば支給される。訓練期間中の衣食住は保証されるし、わずかばかりの給金も出る。

 今から班を月が真上に来る前に組んで、正面テーブルにて手続きを終えるように! 投獄が良いなら、拒否してももちろん構わんがな!」

 ダーリア騎兵長のバカでかい声でフフンと鼻を鳴らして説明が終わる。


 さて、どうしたものか? とサトルは考え込んでいた。

 サトルは身長が165センチしかない。

 この世界では大柄の方なのかもしれないが、召喚された男たちの中では明らかに小柄だ。大柄なほうが力もリーチもあるので当然ながら戦闘では有利になるだろう。なにせ、召喚された男たちの優位性というのは体格だけなのだから。


 必死に周りを見渡し、声をかけてみるもやはり皆一様に、体格を判断基準としているようだ。けんもほろろに断られる。


 この世界に召喚されて最初に「どういうことか説明しろや!」と声を上げた、ガラの悪い男はすでに班を組んだようだった。そそくさと正面テーブルに行き、手続きを6人で終えている。

 30分もしないうちにほとんどの班はすでに組み終わり、残るはたったの6人。


 サトル、ヒナタ、ミナト、ダイチ、ユウイチロウ、そしてツバサ。


 それとなくサトルが「あ、あのすいません……この6人で班を組むしかないんじゃ?」と話しかけるとユウイチロウはゆっくりとうなずいた。ミナトも体格が良くないことで班を組めなかったようだ。それにしてもと、ダイチを見てサトルは思う。

(180センチ以上あって大柄なのになぜ売れ残ったんだろう?)


 一方でヒナタは未だに「異世界とか意味わからんっすわ! ちょい! まじっすか~。でもチートとかあるかもしれんっすよね!」と関西弁口調でブツブツと一人はしゃぎまわっている。きっと残念なのだろう。いろいろと。

 サトルが声を掛けると「えっ? もう班分けって終わったんすか? え? マジで?」と異世界に夢中になって時間を忘れていたようだ。


 ユウイチロウはツバサに声をかけに行く。

「この班でやっていくしかないみたいですから、よろしく」

「あああ、あのっ……えっ、よっよろ、よろしくおねがいします」


 緊張しているのか、それとも吃音なのか。なるほど班に誘われないわけだとサトルは納得する。

 「とりあえず自己紹介をしましょうか、まだ時間もありますし」とユウイチロウが全員を集めると、それぞれが自己紹介を始める。


「サトルです。24歳です。えっと……前の世界のこととか話したほうがいいんですかね?」

「ユウイチロウといいます。いや、前の世界のことは話さなくてもいいんじゃないでしょうか? 29歳です」


 サトルの外見は165センチ、普通体型、美青年というわけでもないが整っていないわけでもない、という程度のルックスだ。

 ユウイチロウはあごひげを生やし、170センチほどのややガッチリした土方系の体格とでも表現するのだろう。


「ヒナタっすわ~! えっ? 俺が一番若くないっすか? 17歳っす」

「ミナトです。花の20歳、召喚された中に女がいないとかちょっとありえないですよね~」

「ほんまないっすわ~! 男だけとかむさ苦しいっすよ!」


 ヒナタとミナトがガヤガヤと騒ぎ始める。この2人はどうも気が合うようだ。

 サトルより少し背が低いミナトは、存外明るい性格のようだ。

 ヒナタはユウイチロウより少々背が高いようなので、170センチ超えといったところだろう。


 サトルはこういう軽い人種とほとんど交わったことがなかったので、思わずしかめっ面になってしまう。異世界への召喚という異常事態、そして命をかけてこれから義勇兵になるという重みが、この2人からは一切感じられない。

(か、軽い……)

 こう思ったのはサトルだけではないだろう。


「ダイチ……です。26歳……」

「つっつっ……ツバサです。17歳でっ、です!」


 ユウイチロウもダイチが班を組めなかった理由を理解できた。

 190センチ近いであろう身長と、がっしりとした肩幅は確かな力と威圧すら感じさせるものだ。しかし先程からダイチは自己紹介以外はうなずくでもなく、その視線をウロウロとさせていた。

 体は大きいが、態度は小動物のそれに近い。


 ツバサに関してはもはや今更だろう。

 吃音なのか、それとも極度の緊張症なのかとにかくコミュ障という言葉がピッタリの態度だ。

 170センチのユウイチロウと背丈は同じくらい。そして何よりそのルックスは日本人形を思わせるかのような美少年で、つやつや、サラサラであろう頭髪、長めの髪型も含めて絵画から出てきたのではないだろうか? と思わせるものがある。

 白くスラリと伸びた細い手足、男のユウイチロウですら思わずハッとなってしまうその容貌に、この性格である。


 ユウイチロウは軽くため息を吐きたくなった。自分が一番年上であり、しっかりしなければならない。

 サトルは常識人と言ってよいだろう。ミナト、ヒナタも軽くはあるがコミュニケーションは成り立つ。ヒナタは性格面がやや心配ではあるが。

 ダイチは良いふうに解釈すれば寡黙なだけ、と言えるかもしれない。

 ツバサは――マスコットというものが許されるのならば、それが一番適任だとユウイチロウには思えた。


 ヒナタ、ミナトが女の話で盛り上がり、その横に立つサトルの表情にユウイチロウが目をやると、サトルも同様に難しい顔をしていた。



 サトルたちの班が手続きを終えて寮舎に入ったときには、すでに夜の10時頃であった。2つの月が真上よりやや東寄りの頃だ。


 兵士2人に案内されて石造りの建物から程なくある寮舎に案内される。

 寮舎は木造の非常に質素な建物だった。

 諍いなどを避けるために、班ごとに部屋が割り当てられる。

 炊事などはこの世界に慣れるためにと、すべて班で行うことになる。1階の扉を開けるとそこは6人一組で座れるテーブルと椅子、そしていくつかのかまどや炊事道具がならんだ土間だ。

 食材は裏手の掘っ立て小屋に保管をしてあるので、そこから適当に使用するようにとのことだった。

 かまどへの着火だけは、最初は見張りについている兵士に頼めばつけてくれるそうだ。


 階段を登ると10を超える扉があり、階段近くの部屋に案内をされる。どうやら最奥の部屋から埋められるようで、それは単に階段近くはうるさいからという理由なのだろう。


 粗末な扉を開けると10畳程度の広さの部屋に、2段ベッドが両方の壁側に2つ、そして窓がある面に1つ置かれている。

 ベッドにはわらがびっしりと敷き詰められただけのものだ。掛け布団は見当たらない。

 この季節なら夜は寒くはないので、掛け布団なんてものが支給されるはずもなかった。ベッドの下にそれぞれの衣服が3着ずつ入っていると兵士は説明する。

 窓は当然ながら木製で、雨が降ったときは締めるようにと兵士から告げられる。


 サトルたちの班は明日、どの班員がどの兵種を選択するか?を申告しに行かねばならない。

 太陽が落ちるまでにとのことだったので、まだ余裕がある、などとは言っていられない。誰がどの兵種をこなしてどんな班にするのが一番最適なのか? を考えなければならない。

 少なくともサトルとユウイチロウはそのように考えていた。

 ここで選択を間違えれば、訓練期間を終えた3ヶ月後すぐに命を落とすこともあり得るのだと。


「それぞれの兵種を決めていきましょうか。体格、性格などを考慮して話し合わないといけません」


 ユウイチロウがそのガテン系の外見からは想像できない、穏やかな口調で話を始める。3つの2段ベッドの1段目にそれぞれ2人ずつ腰を掛けて少冊子を取り出す。


 重装戦士や軽装戦士は班の盾役であり、最も重要なポジションである。通常は前衛に戦士2人を配置し、中衛に軽歩兵、軽装戦士、後衛に弓兵と魔術兵を配するのが一般的だと書かれている。

 もちろん配置や兵種は班に任されているものの、大きく外すとバランスが悪くなるだろうとサトルは内心で考える。そして一番の目的はまずは生き残ることだ、とも思い口にする。


「あの……まずは目的を決めませんか? 生き残る、がいちばん重要なんじゃないかなと」


 その言葉に以外なことにミナトはウンウンとうなずき、ヒナタは「大丈夫っすよ~! なんとかなりますって!」と根拠のない明るさで笑っている。

 重くなりかけた空気の中で、ヒナタの明るさは救いなのかもしれないとサトルは表情を柔らかくする。不安がないわけではない。煌々と照るランプ1つの明かりの中で、サトルもユウイチロウも、いや班員すべてが不安に思っている。

 だからヒナタの底抜けの明るさが、ほんの少しの救いとなった。


 月が沈み、太陽がのぼりかけた頃には話し合いは終りを迎えていた。

 生き残ることを目的に、防御を厚くすることが最善だろうとの結論に達したのだ。そのうえでそれぞれの希望を聞いてすり合わせ、兵種を決めていった。


 最初に決まったのは重装戦士だ。ダイチ、ユウイチロウがこれを受け持つ。170センチながらガテン系の筋肉質な体格のユウイチロウ、190センチ近い恵体を誇るダイチならばという積極的な理由からではない。

 ツバサは身長はあっても細く白い腕で重装戦士がこなせるとは思えない。

 ミナトは165センチのサトルよりもやや小柄なくらいだからミナト、サトルも論外。

 ヒナタは性格が慎重ではないということと、やはりいちばんの理由は前衛は危険がかなり多いので17歳のヒナタにさせるのはしのびない、ということだ。


「がんばるよ……僕……」

 これまでダイチは頷いたりしていただけだったが、この日はじめて自己紹介以外でダイチが喋った。その瞳の奥には少なくない量の覚悟が宿るようであった。


 中衛にはサトル、ヒナタがつくことになった。

 サトルは軽装戦士として前衛の補佐的に動ければ良い。前衛の1人が倒れるようなことがあれば、前衛に繰り出す役割だ。

 ヒナタは軽歩兵として訓練することになった。どうやら陸上部だったそうだ。いろいろと装備するよりも、身軽さを生かしてというのが理由だとユウイチロウから言われた。

 軽歩兵は武器の選択肢がかなり多い。槍、弓、短槍、小盾、剣などから選べる。この選択肢の多さにヒナタはご機嫌になったのか、ふたつ返事で引き受けた。


 最後までもめたのは以外なことに後衛だった。

 どうやらミナト、ツバサともにアニメオタクであったらしく魔術兵は絶対に譲れないとお互いに譲らない。

 話し合いの最中にユウイチロウは片手で額を抑えてため息を吐き、サトルはそれぞれの希望をなんとか調整できないかと頑張った。

 その結果はミナト、ツバサともに魔術兵という恐らくこの世界では非常識な選択肢かもしれないものになった。


 この世界の魔術兵は鎧を当然のごとく装備する。

 杖はいらないらしく、大抵の魔術兵はメイスや場合によっては大盾を装備することもある。主に回復、攻撃支援、中距離攻撃が任務であり、遠距離攻撃の可能な弓兵などから身を護るためには、鎧などの武具は必須だ。

 アニメや漫画のように、服のみで戦場に立つというような風景はこの世界ではありえないとされている。


 弓兵を1人配置したほうがバランスは良いのだろうが、サトルにはミナト、ツバサの調整は不可能だった。最終的に回復役が2人いれば生存率が上がるかもしれないという理由で、魔術兵2人の配置という結論に落ち着いた。


 夜が明けてきた頃、ようやくサトルたちの班は眠りにつく。まどろみの中でサトルは思う。

(あまりモノ義勇兵の、おかしな編成の班になってしまった……でも、悪い人たちじゃない。きっと生き残らないと……)


 サトルたちはとある重大なミスを、編成で犯したことに気がついていなかった。

 ツバサが魔術兵の話になるとあまりにも熱心に譲らないので、彼が吃音かもしれないという可能性をうっかり失念していたのだった。

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