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異世界は召喚されし者に優しくない  作者: 高橋 聡
第一章 チートなき世界でのあまりモノ義勇兵
12/13

ep12 打算と飲み屋と同盟

 おまたせしました……仕事等々で間が空きました。どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

 太陽が傾く頃、市街地の歓楽街は賑わいを見せ始める。ポツポツと飲み屋の明かりが灯り、看板を照らす。娼婦は道に繰り出し男たちを視線で挑発する。宿屋は呼び込みに精を出す。

「安いよ~! 泊まっといで! 料理もサービスするよっ!」

「に~さん? いい男じゃないか……。ちょっと寄ってかない?」


 喧騒の中を銀の誓約は、飲み屋の飄々亭に向かう。ユウイチロウが事前に情報を集めると、なかなか評判のよい飲み屋のようだ。「料理が美味しいのだそうです」とダイチに伝えると、「ほ、本当に!」と食い入る様に近づかれた。

 ユウイチロウの目下の悩みは、飄々亭の料理が本当に美味しいものでありますように、ということだ。


 ダイチは飄々亭に向かう途中、上機嫌だった。料理が美味しいと聞かされたからだ。ミナトはいつもどおり、軽いノリでダイチに「機嫌いいですね~」とかまい、ヒナタ、ツバサは相変わらずじゃれついている。同じ歳なので、互いに気軽に喋れるのだろう。

 ユウイチロウは黄金の林檎の相談を、思考放棄した。行ってみれば分かるだろう、というユウイチロウらしい割り切りだ。

 一方でサトルはずっと考え続けた。どんな相談か? あの状況から導き出される相談内容の選択肢は? 何が考えられるか? すべての可能性を見落としてはいけない、と考え続けた。


 サトルの召喚前の状況は悲惨だった。母子家庭になり、離婚で母は精神を病んでいった。それでも懸命にサトルを育て、家事と水商売をこなす母。いつも母が言っていた。「普通に生きなさい」と。

 そしてサトルが就職した後に、母は自殺を選んだ。きっと疲れたのだろうと、サトルはその気持が分かる気がした。

 この世界に来て自然に、サトルに身についたものがある。常に最悪を考慮し、選択肢を検討し、最悪にならないようにすること。前世と言えるのか? サトルにはわからないが、前の世界では最悪まで追い詰められてしまった。サトル自身も自殺を選択した。


 今は大切な仲間がいる。サトルだけならともかく、銀の誓約を最悪の事態には巻き込みたくない。サトルの思考は回転し続ける。あらゆる事態を想定して。

 サトルは時折、ミナトやヒナタ、ツバサに笑顔で応答しつつ、考え続ける。


 日が沈む頃、銀の誓約は飄々亭に到着する。

 1階と2階に席があり、すでに7割ほど席が埋まっている。街中での喧騒がさらに騒がしくなった。酔客たちも威勢よく酒を注文している。

「うわぁ……美味しそうだね」

 ダイチはすでに、テーブルの上に乗る料理をくまなく注視し、どのように作られているか? を分析し始めたようだ。盛り付けも参考にするらしい。


「飲み屋って、僕らはじめてですよね~」

「そうですね……ミナト、いやぁ広いですね。――ん? ヒナタ、ツバサはお酒を飲んで大丈夫なんでしょうか? 17歳ですよね?」

「ユウイチロウさん、イヤっすわ~! オーケーに決まってますやん!」

「お、おっ……お酒飲んだらだめ? え……? の、飲んだよ?」


 この世界では15歳で成人だ。そもそもこれまで(ねぐら)でヒナタ、ツバサも酒を飲んでいる。どうもはじめてくる飲み屋に、ユウイチロウも圧倒されているようだ。

 サトルはあたりを見回す。2階の席から手を振っているのが見えた。


「おーい! こっち! こっち! 銀の誓約のみなさーん!」

 手を振っていたのは黄金の林檎のリーダーカズキ。切れ長な目に爽やかルックス、そして愛嬌がある仕草にサトルは頬を緩める。すでにエールのジョッキがテーブルに見え、どうやら少々待たせてしまったようだ。


 テーブルに付くとカズキが声をかけてくる。

「わざわざ来てもらってすまない。ありがとう! 今日は好きなものを頼んでくれ! 勘定は黄金の林檎持ちだ!」


 食いついたのはヒナタとミナト。

「え?! いいんですか~! 超食べるし飲むし!」

「マジっすか!? うぉー! メニューが美味そうっすよ! ダイチさん!」

「本当だね……迷うなぁ。ツバサはどれが食べたい?」

「お、お……美味しいやつ! だ、ダイチさん選んでっ!」


 ダイチ、ツバサが会話しているが、ユウイチロウとサトルは黄金の林檎に質問する。

「いいのですか? ご馳走になって。割り勘でもいいのですが……」

 頷くサトルにカズキが応答する。

「いやぁ……世話になったし、駆けつけてくれなかったら全滅もあり得たので……。心ばかりの感謝ってことで、今日は黄金の林檎が持ちますよ!」


 感謝もあるだろう、とサトルは思う。しかしそれだけじゃない。黄金の林檎の他の班員は、にこやかにしているものの、明らかにやや緊張が見て取れる。

 なるほど、これは班同盟の誘いなのかも知れないと、サトルは選択肢の1つとして考えていた要素を有力視する。


 宴は和やかに始まった。眼の前にはカモのコンフィや、見たこともない食材で作られた料理の数々。ダイチはしきりに店員さんに「これはなんですか?」と質問しては、頭の中に叩き込んでいる。

 普段の温和な態度とは異なり、完全に職人の目つきになっている。

 味わい方も、皿に顔を近づけて香りをかぎ、ナイフとフォークで入っているものを分析し、そしてようやく舌で味わい「うん……なるほど、こうか……これはっ?」などとしきりにつぶやいている。

 その正面ではダイチの職人具合に、黄金の林檎の職人肌シンイチが真剣に感心している。ダイチとシンイチの一角は、この2人しか共有できない空間魔術でも広がっているようだ。


 ヒナタ、ツバサ、ミナトは黄金の林檎のリュウイチやタケルと気が合うようだ。

「おー! リュウイチさんって18歳っすか! 1歳違いっすやん!」

「ぼ、僕も17歳!」

「タメ口でいいっすよ~! つーかミナトさんって年上だったんっすね~! 超若く見えるっす~!」

「お! 嬉しいこと言ってくれるね~、リュウイチくん。 あれ? タケルくん20歳だったよね~? 同じ歳?」

「そうですよ。ミナトさんとじつは同じ歳ですっ!」

「がはは! お前たち若いな! ほれ! 飲め飲め! そこの――ツバサといったか? これも美味いぞ!」

「おっ、お……美味しい! うまっ!」

 ダイゴは豪快、快活、ズボラに見えるが面倒見もよいようだ。


 この様子を見ながら、カズキはユウイチロウに切り出す。

「今日は……あまり回りくどい言い方できないので、単刀直入に言っちゃいます。ユウイチロウさん、サトルくん、銀の誓約の皆さんに班同盟を組んでもらえないかと……」

 すかさずノボルも補足する。

「カズキが言うにはですね、班員の安全マージンをもう少し大きく取りたいが、稼ぎは減らせないとのことでして。

 先日の戦闘が突発的トラブルだったとしても、信頼できる銀の誓約と組めたら戦死者も出なかったんじゃないか? ということです。いかがでしょう?

 もちろん……銀の誓約にとってもよい同盟になると私は確信しています」


 ユウイチロウとサトルは顔を見合わせる。

 ゴクリとツバを飲む音が聞こえる。もちろん新しい料理を前にして、真剣な表情のダイチからだ。ユウイチロウやサトルではない。

 ミナト、ヒナタ、ツバサなどにも話は聞こえているだろうが、年若い彼らにとっては難しい話より、はじめての飲み屋と、久しぶりの他班との交流のほうが楽しいようだ。


 状況が状況だけに、ユウイチロウもサトルも即答はできない。そこにカズキが言う。

「も、もちろん今日答えてほしいと、言っているわけではないんだ。銀の誓約にとっては唐突だろうし……せめて検討してもらえないかな? 今日が感謝の宴というのは、本当なんだ」

 ユウイチロウはいつものように目を閉じ、グビッと酒をあおってからサトルに聞く。

「サトルはどう思いますか?」

「……そうですね、少なくとも悪い話じゃないと思います。カズキさん、ノボルさん、1つ質問してよろしいでしょうか?

 率直な話、班同盟だという可能性は低いと思っていました。銀の誓約が救援したがわだったので、主導権を銀の誓約がとる可能性もあるからです。その点はどうお考えなのですか?

 実際に班同盟を広げて、義勇兵からクランと呼ばれる組織もあります。こういった同盟は、1つの班がリーダーシップを取る、という形が多いようですが」


 ノボルが事務的な口調で、髪を少しいじりながら応える。

「サトルさんのおっしゃる通りでしょう。我々黄金の林檎もその可能性は検討しました。――そこでですが……いくつか共同で同盟するための、決まりごとの提案をお持ちしました。聞いて頂けますか?」


 ノボルが淡々と説明をしていく。その内容は簡潔だった。

1 両班の裁量は公平であること。同盟というより協力関係を目指す

2 取り分はどちらが活躍したかに言及せず、半々であること

3 どちらかが協力関係の破棄を申し出た場合、一方は必ず受け入れること


 ユウイチロウは少し顔をしかめ、またも思考するために目を閉じる。サトルもこの条件を1分ほど吟味した後に静かに口を開く。カズキは緊張の面持ちで、その会話を一言も聞き逃さないかのような表情だ。

「ユウイチロウさん、受けてよいのではないでしょうか?」

「その理由は? サトル」

「はい……まず、最初にいろいろと決めてもうまくは行かない、という配慮が感じられます。またルールに束縛が殆どありません。それは、あくまで対等であろうとする意志があるんじゃないでしょうか?

 公平という提案を黄金の林檎がしてきた以上、黄金の林檎の皆さんは救援されたという借りを背負います。

 でないと3の破棄を銀の誓約が選べる、という選択肢まで提示しています」

「……そうですね、サトルの言うことが妥当でしょう。それに……先の戦闘で戦死者を出して、それでもすぐに行動できる黄金の林檎の決意を、私は尊重したいと思いました。

 もちろん……重装戦士3名というのは、銀の誓約と組むにはかなりバランスも取れています」


 「じゃ、じゃぁ!」と口を挟みそうになったカズキを、ノボルが手で制する。先程まで騒いでいたはずの銀の誓約だが、いつの間にかダイチやミナトを筆頭に班員全員が、ユウイチロウの顔を注視している。

 ユウイチロウは視線でそれぞれに「これでいいですか?」と、問う。


「そうだね、いいんじゃないかな? あの不利な状況から、ホブゴブリンを屠ったダイゴさんと盾を並べてみたいしね」

「がはは! ダイチ! おまえもそう思ったか! 俺様もだ! 最強の前衛誕生だな!」

 ダイチの感想に、ダイゴがすかさず合いの手を入れ握手を求める。


「いいんじゃないですか~? 仲良くやれそうですし~?」

「同じ歳がいるとか、嬉しいです!」

 ミナトがいつものように軽いノリで賛同すると、タケルが握手を求める。


「うぉぉ! あれっすやん! 同盟名考えなあかんっすやん!」

 ヒナタがテンションを振り切らんばかりに叫ぶと、リュウイチが「よろしくな~!」と握手を求める。

 ツバサが何かを言う前に、シンイチは無言でツバサと握手をしていた。

「えっ!? え、えぇ? は、はや! に、ニコッとしてる! なんで!」

 ツバサはキョロキョロしながら、無言で微笑む握手職人シンイチから逃げようとしていた。当然ながらツバサの訓練をサボりまくった、スラリとした白い四肢と体力で、真面目に訓練を重ねた魔術兵のシンイチからは逃れられない。

 ジタバタするツバサを、シンイチは両手で離さない。


 この段になってユウイチロウ、サトルは黄金の林檎のカズキ、ノボルに手を差し出す。全員が強く手を握り合い、声を掛け合う。

 ここに2班の熱い友情が生まれたかに見えたが、その後に同盟名の相談で友情にひびが入りそうになったのは、喧嘩するほど仲がよいということなのだろう。


「鉄血同盟っすわ~! 絶対それっす!」

「いやいや、ヒナタくんそれは違うでしょう。そもそも協力条件は……」

「ノボル! お願いだから落ち着いて! お水飲んで!」

「がはは! ダイゴダイチ同盟に決まっとろうが! ん? DD同盟とかもありだな! がははは!」

「ダイゴさん? なんでダイゴさんの名前が前なの? ダイチダイゴ同盟だよ?」

「ユウイチロウさん、ダイチさんが酔ってます……ヤバいです! 緊急事態です!」

「ん~サトル、ほっときなさいって! いやいや、ほっとけほっとけ! サトルも飲みなさいって!」

「シンイチさん! 助けてください! ユウイチロウさんまで酔ってます!」

「……どうせ覚えてないので、大丈夫。班員を持って帰る仕事が……はぁ」

「カズキしゃん! ここはあぁぁ…黄金の林檎に入ってよかったれすぅ……」

「うん、タケル? だめだぁ……同盟結成日なのに……サトルくん、すまない」

「カズキさん、あきらめましょう……同盟名は後日ということで……」

「え~ここはミナトモテモテ同盟で~!」

「じゃ、じゃあ! ……銀翼のツバサ!」

「ツバサぁ~……銀翼のツバサって、頭痛が痛い的な感じが超するんだけどぉ~?」


 後日、カズキ、サトル、シンイチに土下座する銀の誓約と黄金の林檎だった。

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