逸話:幸せな夢
少し、儚い想いを書いて見ました。
「飛天!!あれは何じゃ?」
「あれか?あれは鯛焼きだ」
童が指差した屋台のを馬の手綱を握りながら答える飛天。
店を出てから市場を見て周り初めて見る光景に童は終始、質問を浴びせ夜叉王丸の事を何時の間にか飛天と呼んでいた。
「鯛焼き?」
「あぁ。鯛の形をして中にアンコが入ってる甘い菓子だ」
「ふぅむ」
「食べたいのか?」
思案する童に尋ねる飛天。
「う、うむ。食べた事が無いからな」
「分かった。それじゃ買うぞ」
あっさりと童の願いを聞き入れて馬から降りて屋台に向かう飛天。
童は馬上で見ていた。
何やら店の主人と親しげに話す飛天。
「うぬの主人は随分と民衆に人気があるな」
黒馬の漆黒の毛を撫でる。
馬は小さく鳴いた。
まるで主人は自分の誇りだと言っているようだった。
少しすると飛天が鯛焼きを持って帰ってきた。
「ほれ。鯛焼きだ」
童に一つ、馬に一つ渡して飛天は二つじゃった。
「主、一つ多くないか?」
「俺の金で買ったからな」
童の非難も気にせずにしれっと答える飛天。
「文句よりも食え。熱い時が美味い」
あっ、話を逸らしおったな。
そう思いながら鯛焼きを一口たべた。
口の中に甘さが広がり身体が温まった。
「・・・・美味いっ」
思わず大声を上げてしまった。
これが母上なら
『年頃の娘が大声を出すものではありません!?』
と怒鳴り散らしていたじゃろうな。
「店の親父が特別にお前の鯛焼きに特製アンコを入れたからな」
笑いながら飛天は一口でたべた。
「うんっ。美味い」
あっ、口元にアンコが付いている。
「これ、子供みたいに餡を口元に付けるでない」
童は未だに寝巻き姿だったが、寝巻きの裾で飛天の口元を拭いてやった。
「あんがとよ」
礼とばかりに半分にした鯛焼きを渡してきた。
「童は主の妻じゃろ?これ位は当然じゃ」
「そうだな。妻なら当たり前か」
飛天の言葉が嬉しい。
「なんじゃ?もう忘れたのか?主が今朝、童を屋敷から連れ去ったのじゃぞ?」
「いやー、ただ夢かと思ってな」
苦笑する飛天。
そんな飛天を見て童は願った。
頼む。これが夢なら、どうか・・・どうかまだ覚めないままでいて・・・・・・・・・・・
「・・・・・うむ。当たり前じゃ」
「そろそろ行くか」
「・・・うむ」
童の様子を感じ取り飛天は馬を走らせた。
飛天が前を向いているお陰で童は俯く事ができた。
『例え、何時か覚めるのが分かっている夢幻でも、童は幸せじゃ』
そう、夢でも童は幸せじゃ。




