第四話:後悔、先に立たず
「・・・・・・」
毘沙門天は馬を走らせながら後悔の念に刈られた。
『こんな事になるならもっと黒闇天とちゃんと話し合っておくべきだった!!』
屋敷から後悔に刈られていたのは娘の黒闇天の事だった。
きっと自分と吉祥天が可愛がらず白明天しか可愛がらなかったから男と一緒に家を出たのだ。
『後悔は先に立たずとは昔の人間はよく言ったものだな』
後悔は後になってからするものだ。
と毘沙門天は考えていた。
だが、真実は違う。
黒闇天は自らの意志で屋敷を出たのだ。
『なぜ、あんなに白明天と比べてしまったのだ!!』
黒闇天の姉であり八部衆の筆頭、“天”の一族の棟梁を勤め類い稀なる容姿と才能に恵まれ一族の誇りとして溺愛され育てられた白明天。
かたや邪神として生まれ白明天とは真逆の容姿と不器用さを持った黒闇天は一族の恥として蔑まされながら育った。
まさしく天と地の差ほどあった。
そんな娘を慰める所か追い撃ちをかけるように白明天と比較してしまった自分と吉祥天。
『もっと姉上を見習え』
『お前は一族の恥だ』
『何故できない?』
『もっと精進しろ』
・・・・・・・・・・など数えたらキリがないくらい黒闇天に浴びせた非難の言葉。
幼い黒闇天がどれほどまで心を痛めた事だろう。
しかし、それでも黒闇天は必死に努力していたのを使用人から聞いていた。
琴が駄目なら琵琶で弓術が駄目なら鉄扇術を頑張っている。
使用人から聞かされた時に感動した。
お披露目会の時には思いっ切り誉めようと決めた。
だが、白明天が琴や弓術をそつなく熟すのを見ると誉める気が無くなってしまった。
それ所か叱り付けて黒闇天に決定的な言葉を放ってしまった。
『お前など私の娘ではない!?』
それを聞いた時の黒闇天が初めて流した涙が頭から離れない。
それからだった。
黒闇天が部屋に閉じ篭るようになったのは・・・・・
単なる風邪だと思って様子を使用人に見に行かせたが違っていた。
どう違うのか使用人に尋ねたが答えずに
『お嬢様は旦那様達が壊したんです』
と言って屋敷を出て行ってしまった。
何が何なのか解らずに足を運んでみると部屋にある家具類を壊す黒闇天が目に入った。
部屋に入り止めようとしたが手を振り払われて
『他人には関係ない』
と言われた。
それからだった。
黒闇天が自分達に逆らい始めたのは・・・・・・
そして改めて使用人の言った言葉の意味を理解した。
自分達が黒闇天を壊したのだ。
そして後悔した。
自分達が犯した罪の重さを実感した。
それからは黒闇天と関係を修復しようと努めた。
遅すぎたかも知れない。
しかし、修復したかった。
それからは黒闇天を混ぜて食事をしたり宴に出席した。
だが、黒闇天は固く心を閉じたままだった。
それが癪に障り、つい叱り付けてしまった。
そしてまた後悔した。
何度も失敗を繰り返す内に黒闇天の性格は更に荒んだ。
そして等々、家を出てしまった。
『許してくれ。黒闇天。わしが悪かった』
懺悔する思いで毘沙門天は娘の無事を祈った。