第三話:初めてのデート
「・・・・まだ決まんねぇのか?」
「まだだじゃ」
夜叉王丸の嘆息を聞きながらたくさんの色鮮やかな羽衣や着物を手に取りながら童は答えた。
今いる所は天竺でも指折りの呉服店。
童の着物と花嫁衣装を買いに来たのじゃ。
姉上や母上も買いに来たが童は出掛けられなかった。
何時も母上が選んで来た着物しか着れなかった。
それか姉上の気を引こうとした男が童を手なずけようと送ってきた着物。
しかし、色は何時も黒か紫の二種類しかなかった。
だから今、目の前にある色鮮やかな着物に目を奪われて選ぶのに時間が掛かっていた。
「そんなに選ぶのに迷ってるなら全部買うか?」
夜叉王丸の言葉に驚いてしまう。
「な、何じゃと?!」
こ、この着物を全部買うじゃと?
「別に要らないなら返品すれば良い」
そう言って店の者に値段を尋ねた。
「し、少々お待ち下さい!?」
店の者は急いで奥に消えて行った。
「・・・・・大丈夫なのか?夜叉王丸」
童は心配して尋ねた。
「心配するな」
ニヤリと笑う夜叉王丸。
暫くすると若旦那風の男が出て来た。
「この店の若旦那です。お客様には申し訳ありませんが、当店の着物はとても高価な品物です」
胸糞悪い口調で若旦那は話しながら一度、言葉を切った。
「失礼ながらお客様のような貧相な方には売れませんな」
夜叉王丸を見ながら侮蔑の眼差しを送る若旦那。
『こ奴、夜叉王丸の足元を見ておるな』
直感で感づいた。
「さぁ、早く帰って下さいませ」
若旦那が催促してきた。
「小僧。お前じゃ話にならん。大旦那を出せ」
しかし、夜叉王丸は気にした様子も見せず食ってかかった。
「なっ・・・・・」
「聞こえなかった?お前みたいな餓鬼じゃなく話が解る大旦那の左衛門を出せと言ったんだ」
ア然とする若旦那に命令口調の夜叉王丸。
「ッ!か、畏まりました!?」
若旦那を呼んだ店の者は何かを察したのかまた奥へと消えた。
「き、貴様ッ。幾ら客でも無礼だぞ!?」
若旦那は憤怒した。
「ほぉう。じゃあ客を馬鹿にする若旦那は無礼じゃないのか?」
「・・・・・くっ」
夜叉王丸の怒りを含んだ低い声に押し黙る若旦那。
「夜叉王丸様!!」
奥から白髪の老人が出て来た。
「よぉ。左衛門。身体に障りないか?」
若旦那の時とは打って変わり優しい声色になった。
「有り難きお言葉」
老人、左衛門は平伏した。
「呼び出して悪いが着物を売ってくれないか?」
「喜んでお売りします。これ早く布に包まぬか」
呆然とする若旦那に命じる左衛門。
「な、何で若旦那の私がしなく・・・・・」
「黙らっしゃい!!」
「ひっ!?」
「わしの大切な客を馬鹿にしおって!!」
左衛門の怒りに怯えながら若旦那は着物を布に包み始めた。
「愚息がやり終えるまで隅で茶でも飲んで下さい」
左衛門に進められ隅っこに移る童と夜叉王丸。
「・・・・・お、お待たせしました」
一時間かけて全ての着物を布に包み終えた若旦那が夜叉王丸に渡した。
「ん?ご苦労」
キセルを蒸しながら夜叉王丸が労いの言葉をかけた。
「代金だ」
夜叉王丸が狩絹の中から小判を五つ袋とり出して渡した。
「ありがとうございます」
左衛門が恭しく頭を下げ代金を受け取るのを茶を飲みながら童は眺めていた。
「ほれ、行くぞ」
着物の山を片手で持つと童を促す夜叉王丸。
「う、うむ」
促されるまま店を出る。
「さぁ次は何処に行く?」
馬に乗りながら童を見下ろす夜叉王丸。
「少しデートでもするか?」
「で、デートじゃと!?」
「嫌か?」
驚く童に人の悪い笑みを浮かべる夜叉王丸。
「い、嫌ではないっ」
慌てて答える。
「なら行くか?」
「う、うむっ」
童が頷くと夜叉王丸は馬を走らせた。
「・・・・・で、何処に行きたいんだ?」
「・・・・そう、じゃな」
扇で仰ぎながら考える。
仰がないと赤面しているのが知られてしまう。
それが恥ずかしかった。
年頃の娘なのにデートをした事がないと知られたくなかった。
正直、男とデートなんて一度も経験がない。
自分から屋敷の部屋に閉じ篭っていたからじゃが・・・・・
だから、初めて誘われて嬉しさと驚きで一杯だった。
「主の進める場所は・・・・何処じゃ?」
「俺か?俺は特にないぞ」
夜叉王丸の言葉にがっかりする。
こ奴なら歳も童より上だし女慣れしてると思い尋ねたが無駄だった。
「まぁ、見てる内に行きたい所が見つかるだろ」
がっかりする童に優しく語りかける夜叉王丸。
「・・・・そうじゃな」
夜叉王丸の低く、優しく落ち着きのある声に童はうっとりした。
そんな童を夜叉王丸が優しく見下ろしていたのを知らなかった。
これまた誤字脱字がありましたので、書きなおしました。(汗)