逸話:親馬鹿軍神
娘を思う父親を書いてみました。
夜叉王丸と黒闇天が屋敷を去ってからの毘沙門天の屋敷では騒然とした。
「なに!!黒闇天が家出した!?」
屋敷の主人、毘沙門天の怒鳴り声が響いた。
「家出ではなく嫁いで行ったのです!!」
毘沙門天の妻、吉祥天がヒステリックな声で怒鳴り返した。
「と、嫁いだだと!?まだ千八百歳の生娘だぞ!?」
毘沙門天は愕然とした。
『まさか!!変な男に誑かされたのでは?!』
嫌な予感が頭を過ぎった。幼い頃から出来の良い姉の白明天と比べてしまい何かと冷たくしてしまった黒闇天。
母親の吉祥天も同じであった。
それが幼い黒闇天には敏感に分かったのだろう。
八十歳の時に与えた部屋で一人、ご飯を食べるようになり宴にも顔を出さなくなり、ついには両親である自分たちに暴力を振るうようにまでなった。
これには困り果て黒闇天の好きなようにさせたが、どうしても姉の白明天と比べたりしてしまった。容姿が違うだけで疎んじてしまった。
影で頑張っていたのに正当な評価をしなかった。
今更ながら自分達が娘にしてきた愚かさを目の辺りにした。
昨夜の宴も嫌がる黒闇天を無理矢理に出席させた。
それも人付き合いの苦手な黒闇天の為を思ってした事だった。
しかし、その努力も虚しく終わってしまった。
すぐに席を立ち消えてしまった。
宴が終わり叱った。
しかし、優しく叱るつもりだった。
だが、思いとは裏腹に厳しく叱り付けてしまった。
そして昨日の事を詫びに行ったら家出騒動だ。
「相手の男は誰だ?!わしが直々に成敗してくれるわ!?」
三叉の槍を片手に猛然とする毘沙門天。
『きっと黒闇天の心に付け込んだに違いない』
もし、黒闇天に傷の一つでも付けたなら
『そいつを殺す!!』
と心に決めていた。
「誰なんだ?!黒闇天をたぶらかした男は!?」
「そ、それが、飛天夜叉王丸だと名乗ったのです」
「なんだと!?」
妻の言った男の名前に目を見張った。
飛天夜叉王丸と言えば天竺一の剣神、摩利支天が“夜叉”の棟梁に推薦した悪魔だ。
更に白明天の婿候補に入れていた。
その男が黒闇天を誘拐したのか?
『いや、幾ら何でも摩利支天殿が推薦した男が人攫いなど・・・・・・・』
直ぐに考えを否定した。
だが、拭い切れずに
「馬を引け!!」
下男に命じた。
『この眼で確かめる』
もし黒闇天をさらったのが夜叉王丸なら
『摩利支天殿には申し訳ないが生かして置けぬ』
誰だろうが娘に手を出す男は許しておけない。
毘沙門天は下男が引いてきた馬に跨がると颯爽と屋敷を出た。
シリアスからコメディーになったかも