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雨の桜  作者: ドラキュラ
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第二十二話:安堵からの眠り

意識を失ってからどの位の時間が過ぎたか分からなかった。


しかし、その間に額に冷たい布を置いてくれたりする優しい手と童が無意識に彷徨わせた手を握り締める力強い手が感触で分かった。


・・・・きっと飛天と凛じゃ。


二人が童を屋敷に連れ戻して看病してくれているに違いない。


飛天が童の手を掴んでくれて凛が布を額に置いてくれたに違いない。


そう思うと心地よい気持ちになった。


どのくらいまで眠ったか分からないが不意に目を覚ました。


「・・・・・う、ううん」


重い瞼を開けながら部屋を見回してみた。


飛天の屋敷じゃと思っていたのに現実は


「・・・・・父上の屋敷」


飛天の屋敷ではなく父上の屋敷じゃった。


「そんな・・・・・・・」


童は唖然とした。


飛天の屋敷だと思っていたのに父上の屋敷だったのだから落胆は隠せなかった。


じゃあ、童の額に濡れた布を置いてくれた優しい手は?


童の手を握ってくれた力強い手は?


「・・・・・まさか」


・・・・・父上と母上が?


いや、そんな筈がない。


すぐに自分の考えを否定した。


童のような親不孝娘の為に手を握ったり布を被せたりなどしない。


使用人任せにして放っておくに決まってる!!


どうせ、童が見た夢じゃったのじゃ。


「・・・・下らん夢じゃ」


だんだん怒気が溢れて来て布団を乱暴に払うと立ち上がって傍にあった扇を寝巻きの帯に差すと部屋を出た。


「・・・・・・・」


外はまだ朝になっておらず皆は寝静まっていた。


念のために辺りに人気が無いのを確認してから塀に近づいて一気に飛び越えた。


しかし、寝起きと闇でよく眼が見れない為に着地に失敗してしまった。


「きゃっ」


尻から着地してしまい思いっ切り腰と尻を痛めた。


「・・・・・痛い」


尻を擦りながら立ち上がると一目散に飛天の屋敷に向かって走り出した。


いつ追手が来るか分からなかったし早く飛天の逞しくて温かい胸に飛び込みたかった。


月も出ておらず慣れない夜道をがむしゃらに走ったため石に躓いて転んだりしたが記憶だけを頼りに童は飛天の屋敷を目指し走り続けた。


どのくらい走ったか分からないが、やっとの思いで飛天の屋敷まで辿り着く事が出来た。


屋敷の門に近づくと童は力の限り叩いた。


「・・・・飛天っ。童じゃ・・・・・黒闇天じゃ。開けてくれ!!」


何度も門を叩いた。


暫くすると自動的に門が開いた。


「きゃっ」


予想できなかった事で童は倒れそうになったが途中で何か硬い物にぶつかった。


その硬い物の鼓動が聞こえて上を見上げると


「・・・・飛天」


眠たそうな眼をする飛天がいた。


童は飛天の胸にしがみ付くと力が抜けたように身体を支えられなくなった。


飛天は童を軽々と抱き上げると屋敷の中に入ると童の寝室へと連れて行ってくれた。


「・・・・・・」


童を静かに敷かれた布団に寝かせると自身も横になり童を抱き締めたまま眠ってしまった。


普通なら悲鳴を上げる所だが、今は疲れと安堵から童はそのまま意識を放りだして飛天に抱き付いたまま眠った。


朝になって飛天を起こしに来た凛の


「姫様!!そんな格好で何を寝ているのですか!?」


という大声で童も飛天も驚いて目を覚まし何故か飛天と一緒に二人で凛に怒られた。


「・・・・まったく。姫様ったらあんな汚れた寝巻きで寝ているなんて・・・・・・・!!」


凛は童を恨めしそうに睨んで来た。


「・・・・・すまん」


凛に睨まれて童は身を縮めた。


幼い頃からの刷り込みで凛にまったく童は頭が上がらない。


童が父上の屋敷に連れ去られていたのは二人とも知らないようじゃったので敢えて心配を掛けたくなかったので言わなかった。


言ったら凛が父上の屋敷に怒鳴りこんで来そうじゃからな。


どうやら凛は昔馴染みと顔を合わせて遅くまでいたそうで童は寝たと判断して部屋に近づかなかったらしい。


寝巻きの汚れは寝惚けて中庭で転んだと嘘を吐いた。


飛天も寝惚けていたのでよく覚えていなかったのも幸いした。


「・・・まったく旦那様も旦那様です。汚れた姫様を湯にも入れずに布団に寝かすなど・・・・・・」


ブツブツと文句を凛は言った。


「しゃーねぇだろ?寝惚けてたんだからよ」


童の隣で飛天は煙管を蒸かしながら弁解した。


「もうっ。お二人方、共にしっかりして下さい!!」


童は神妙に頷いたが飛天はどうでも良さそうに煙管を蒸かしていた。


「特に旦那様は屋敷の主人としての自覚をもっと持って下さい!!そうじゃないと姫様に示しが付かないじゃありませんか!?」


凛は怒鳴り声を上げたが飛天はまったく気にせずに煙草を蒸かし続けた。


それから昼になってから父上と母上、更に姉上が屋敷に怒鳴り込んで来るのを童たちは知らなかった。


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