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雨の桜  作者: ドラキュラ
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第二話:有言実行者

俺様夜叉王丸とヒステリックな吉祥天です。

夜叉王丸と他愛もない話をしている内に宴が終わったのが遠くから分かった。


「・・・・やれやれ。堅苦しい宴もやっと終わりか」


特等席から立ち上がり腕を伸ばす夜叉王丸。


「魔界に帰るのか?」


初めて童の話に付き合ってくれた夜叉王丸を不安げに見る。


「いや、暫くは天竺の屋敷にいる」


その言葉を聞いて安心する童。


「何だ?嬉しいのか?」


「う、嬉しくなどない」


素直に頷けない自分に嫌気がする。


何故、素直になれないのじゃろう?


「まぁ、明日の朝にお前を迎えに来るから直ぐに会える」


しかし、夜叉王丸は気にした様子も見せずに笑いかけた。


「ふ、ふんっ。た、楽しみに待っておるぞ」


そっぽを向いて答える。


どうせ、迎えになど来ないと分かっていながら何処かでは期待していた。


「楽しみに待ってろよ」


愉快そうな笑みを浮かべながら夜叉王丸は離れを出て行った。


後に残された童は夜叉王丸が座っていた特等席に座り雨が止んだ庭園を見た。


雨で台無しになったが、それでも何処か美しかったのは錯覚だろうか?


それから母上が離れに来るまで童は特等席で何時の間にか眠っていた。


母上から


『何て場所で寝てるの!!』


と怒られたが童は気にせずに自室へと戻った。














「・・・・・はぁ」


童は自室で一人、自分で作った夕食を食べているとため息が漏れた。


これで何度目のため息じゃ?


夜叉王丸の言葉が頭から離れなかった。


『明日の朝、お前を迎えに来る』


夜叉王丸は確かにそう宣言した。


童をこの籠の中から連れ出してくれると言った。


「・・・ふ、ふんっ。どうせ迎えになど来ないんじゃ」


そう決め付けると白米を口に放り込んだ。


夢や希望など所詮は一時の慰めのような物じゃ。
















翌日、まだ朝早くから大きな音がするので目が覚めた。


「んー、朝から何事じゃ?」


煩わしく布団から起き上がる。


「・・・・って、下さい!!まだ話は!?」


「・・・・後で話しますから」


「・・・何じゃ?」


声から判断するに母上の声じゃな。


もう一人の声は男の声じゃな。


最近、父上が可愛がらないから母上も愛人でも作りおったか?


まぁ、それはそれで家庭崩壊して良いかも知れぬ、な。


そんな事を思い再び布団の中に入ろうとした。


しかし、足音がだんだん童の部屋に近づいてきた。


そして勢いよく襖が開かれた。


「黒闇天。迎えに来たぞ」


「や、夜叉王丸っ」


襖を開けたのは昨夜、童を嫁に貰うと宣言した夜叉王丸だった。


昨夜とは違い動き易い紺色の狩衣に武骨な黒鞘に収まった太刀を下げていた。


「・・・なんだ?その間の抜けた顔は?」


呆れた顔で見られた。


「昨日いっただろ?明日の朝に迎えに来ると」


「い、言った。じゃ、じゃが本当に来るとは思ってなかったっ」


「生憎と俺は有言実行者でな。ほれ、行くぞ」


呆然とする童を肩に担ぎ上げる夜叉王丸。


「や、夜叉王丸殿っ。これはどういう事ですか?!」


母上が怒り心頭の顔で夜叉王丸に怒鳴ったのが分かった。


「行き成り屋敷に来て『黒闇天を貰いに来ました』と言って上がり込んで?!」


母上が怒るのも頷けた。


誰だって、そんな事をされたら怒る。


「昨夜、黒闇天が私の妻になると言ったので娶りに来たのです」


「だ、だからと言って行き成り、こんな・・・・・」


「私の知人などは恋をしたその日の内に彼の女を連れ去りましたが?」


「そ、そういう問題ではありません!!」


ヒステリックな母上に夜叉王丸はため息を吐いた。


「仕方ないですね。ではこうしましょう。黒闇天に今から私と来るか日を改めるか決めて貰いましょう」


童を肩から下ろすと尋ねた。


「お前が決めろ」


行き成りの事で唖然としていたが、直ぐに童は頷いた。


これを逃しては二度と童を娶る男など出ないかも知れない。


それにこの男に付き合うのも一興じゃな。


「・・・主の屋敷に参ろう」


「・・・承知した」


その瞬間、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべたのを童は見逃さなかった。


「本人も承諾したので、連れて帰らせて頂きます」


そう言って再び童を担いだが、今度は横抱きにしてくれた。


「では、これにて失礼します」


呆然とする母上を置いて童を抱きながら夜叉王丸は屋敷を後にした。












「お前の母上はヒステリック過ぎだ」


童を馬に乗せて抱き締めるような形で走らせながら夜叉王丸は愚痴を漏らした。


「母上は昔から神経を使い過ぎなのじゃ」


母上を弁護する気もないので相槌を打つ。


「まぁ、毘沙門天殿がまだ眠っていたのは助かったがな」


「確かに、そうじゃな。父上が起きていたら屋敷が破壊されておったわ」


あの父上の事じゃ。どうせ童が夜叉王丸を誘惑したんだ!!と決め付けて暴れるのは目に見えている。


「それでこれから何処に行くのじゃ?主の屋敷と反対方向ではないか」


夜叉王丸の屋敷が東にあるのに今、向かっている方角は西。


「お前の着物とか花嫁衣裳を買うんだよ」


そう言われて今の姿を見る。


紫の寝巻きに扇だけ。


母上が見たら、またヒステリックに叫んで失神しそうじゃな。


「今頃、気付いたのか?」


呆れ果てる夜叉王丸。


「生憎とまだ覚醒し切れていない」


笑って答える。


「はぁ。しょうがない妻だ」


ため息を吐きながら夜叉王丸は馬を走らせた。



誤字脱字の指摘がありましたので、改めて直しました。

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