第十七話:涙を止める胸
デパートという所で買い物を済ませた足でバイク店に向かった。
店に行くと店の主人が出迎えて店の奥へと案内してくれた。
奥に進むと布を被った物が見えた。
「待たせしてすいません」
主人が布に覆われていたバイクに手を掛けながら謝った。
バサッ
布が取られると黒と灰銀で彩色された大きな物が出てきた。
「これが、バイクか?」
小声で飛天に尋ねた。
「あぁ。ハーレーっていう大型バイクだ」
飛天は説明を終えるとバイクに近づいた。
「相変わらず見事だな」
バイクに跨がり感覚を確かめる飛天。
「恐れ入ります」
主人は頭を下げる。
「それでは、これで・・・・・・・」
主人は童に一礼して部屋を出て行った。
童も慌てて頭を下げた。
「・・・・黒闇天」
童に来いと促す飛天。
「何じゃ?」
近づくと黒い兜のような物を渡された。
「このヘルメットを被って俺の後ろに乗れ」
言われるままに被って飛天の後ろに乗った。
「しっかり掴まってろ」
すると急に大きな音を出して走り出した。
「ひ、飛天!!」
童は慌てて飛天の背中に強く抱き着いた。
「行くぞ」
飛天は閉じられたドアに向かって走らせた。
「ま、前はないぞ!?」
「心配するな」
飛天の声を合図にドアが開いた。
ドアから出ると車道と呼ばれる道に出た。
「これから何処に行くんじゃ?」
背中越しに尋ねた。
「少し海を見に行く」
飛天は更に速度を上げたので童も強く飛天の背中に抱き付いた。
大きくて逞しく温かい背中。
幼い頃、姉上が父上の背中に抱き付いているのを見て自分もやりたかったが結局は出来なかった。
しかし今は飛天の背中で実現している。
女である童や凛などの背中と違う男の背中。
飛天の温かい背中に抱き付きながら童は心地よさで意識を失い始めた。
「・・・・黒闇天」
飛天が呼ぶ声がして目を覚ます。
「着いたぞ」
ヘルメットを取るように言って横を顎でしゃくる飛天。
言われた通りにヘルメットを脱いで横を見る。
「・・・・・・・・」
目の前に広がる景色に童は目を奪われた。
広大な水と、それを美しく照らす太陽。
姉上や父上の容姿と同じ色。
その美しさに童は心を奪われる反面で所詮は自分では姉上に勝てないと事実を突き付けられた気がした。
このような美しい景色の容姿を持つ姉上に対して童は悲しく地味な紫と紺の容姿。
とても勝てる見込みがしない。
飛天は何で、こんな場所に連れて来たのじゃ?
「着いて来な」
バイクから降りると飛天は歩き始めた。
「ま、待ってくれっ」
童も慌てて後を追った。
歩いて十分くらいすると飛天は立ち止った。
「一体なんなんじゃ?」
立ち止まった飛天に尋ねた。
「ここなら、誰も居ないから泣いて良いぞ」
一瞬だけ何を言われたのか分からなかった。
しかし、直ぐに理解して真っ赤になって怒った。
「な、何で童が泣かなくてはならんのじゃ!!」
「お前が泣きそうな顔をしていたからだ」
「・・・・ッ」
言葉に詰まった。
「お前は意地を張り過ぎだ」
「凛から聞いたぞ。餓鬼の頃から泣いた事が無いらしいな」
過去に一度だけだったな、と訂正する飛天。
「迷子になった時も泣きそうな顔をしていたのに泣きもしないで我慢していただろ?」
「・・・・・・・・」
言葉に詰まる童を飛天は優しく抱き締めてくれた。
「・・・泣け。女一人くらい慰める胸はある」
皮肉気に言う飛天の言葉が、その時はとても優しい言葉に聞こえて童は大声で泣き出した。
誰も居ない所で童は大声で泣いた。
今まで泣いた事など過去に一度だけしかなかった。
一人で泣いて溢れ出す涙は床に落ちて弾けるだけで誰も受け止めてくれなかった。
だけど、今は飛天の胸で童の涙を受け止めてくれている。
それが嬉しくて童は暫くの間、泣き止まなかった。