第十五話:人間界に
父上と母上が去ってから童は一人で屋敷の庭を縁側から眺めていた。
目の前の庭には色鮮やかな花々が咲き乱れて幻想的なまでに美しく気高く咲き誇っていた。
花々を見ながら童は先刻の出来事を思い返した。
幼い頃から父上と母上に冷たい言葉を言われて何度、涙を流し傷ついた事か。
父上と母上が童に浴びせた罵詈雑言に比べれば童は一言、二言を口にしただけなのに何故か心に鋭い痛みが走り引きずっている。
・・・・・何故じゃ?
何故こんなに心が痛むのじゃ?
童はただ二人に仕返しをしただけなのに・・・・・・・・
・・・・・分からない。
痛みを感じる自分の胸を抑えながら童は縁側に座った。
瞳を閉じて風の吹く音色や花々の声に耳を傾けた。
風の音色は優しくも時折り激しい音が、花々の音色はどこまでも甘美な音色で眠りの世界へと誘う。
この自然の演奏を聴くと童の心は癒えた。
以前、住んでいた屋敷でも童の心を癒してくれた演奏。
ここでも童の心を癒してくれる自然の演奏。
しばらく耳を傾けていると
「・・・・よほど、ここが気に入ったようだな?」
後ろから声が聞こえて振り返ると黒一色の洋服に身を包んだ飛天が立っていた。
いつも紺色の狩衣か五つ紋付きの袴姿なのに今は洋服を着ていた。
和服姿も良いが洋服姿も中々の男前じゃな。
そんな事を思っていたが恥ずかしくて言わなかった。
「・・・どこかに行っていたのか?」
父上と母上を追い返してから二人は童を気遣ってか部屋を出て行ったので外出していたのか分からなかった。
「あぁ。少し人間界に行ってた」
「人間界に?」
人間界と言えば飛天の元故郷ではないか。
童はまだ行った事がないが、あまり良い場所ではないと聞いたな。
人間を辞めたのに何故そんな所に飛天は行ったのじゃ?
童は首を傾げた。
「まぁ、ただの野暮用だ」
童の考えを読んだように答える飛天。
「ところで黒闇天。今から出かけないか?」
「出かける?何所に?」
「人間界だ」
その言葉を聞いて童は感づいた。
飛天なりに童を気遣って外出に誘っているのだ。
「・・・・そうじゃな。うむ。行こう」
飛天の気遣いを無碍にする訳にもいかない事から童は了承した。
「よしっ。それじゃ凛に外出の準備をしてもらえ」
飛天は童の頭を一撫ですると自分も外出の準備があると言って縁側を後にした。
童も凛に準備をしてもらう為に縁側を後にした。