逸話:親子喧嘩
「・・・何を汗かいてるんだ?お前」
「・・・・姫様」
汗だくの童を呆れた眼差しで見る飛天と凛。
「・・・・び、毘沙門天殿がっ、童の後を追って来るから走ったのじゃ!?」
後ろで同じく汗だくの父上を指さす。
「お、お前が逃げるからだ!?」
肩で息をしながら父上も負けじと怒鳴り返してきた。
「誰だって断りも無しに部屋に入ってきた男などと一緒に居たくありません!!」
「本当なの?貴方!!」
今日は珍しく母上も一緒に来ていて十八番のヒステリックな叫び声を上げて父上を見た。
「ち、違うっ。わ、わしは何も・・・・・」
父上は弁解しようと必死だった。
まぁ、童には関係ない事じゃが・・・・・・な。
扇を取り出して扇いでいると飛天が近づいてきた。
「汗をちゃんと拭け。風邪を引くぞ」
手拭いで童の額を拭いてくれた。
無骨な、それでいて逞しい顔が間近に迫っていて童は額から再び汗を流した。
「もう一度、風呂に入って着物を着換えて来い。凛」
飛天は童を凛に預けた。
「さぁ、姫様」
凛は童の手を掴むと引き擦りだした。
「後の事は俺に任せろ」
父上と母上は何かを言おうとしていたが飛天が先に口を開いた。
「行きましょう。姫様」
凛は止めた足を再び動かして童を部屋から連れ出した。
「・・・・申し訳ありませんでした」
童を湯殿に連れて行くと凛が謝ってきた。
「なぜ童に謝るのだ?凛」
童は首を傾げずには入られなかった?
「私が不甲斐無いばかりに姫様を危険な目に合せてしまって・・・・・・・・」
「危険?父上が部屋に来ただけの事じゃ・・・・・・・・」
童が最後まで言う前に凛が遮った。
「とんでもない!!毘沙門天様も男です。それに年頃の娘の部屋に無断で入るなど親でも許されません!?」
額から二本の角を出す凛。
「わ、分かったっ。分かったから・・・・・・・・」
凛の姿が段々、般若になるのを察知して童は焦った。
「・・・・本当ですか?」
疑いの眼差しを向ける凛。
「ほ、本当じゃ!!それより早く湯に浸からぬと汗臭くなってしまう!?」
一気に捲くし立てた。
「・・・・・分かりました」
どうやら凛は納得してくれた。
「さぁ、凛は着物を持って来てくれ」
凛を部屋に行かせると童はため息を吐いて着物の帯を解き始めた。