第十一話:初心な姫君
童と凛が作戦を立ててから二時間後に飛天が再び目覚めて凛が作戦を話した。
凛の話す隣で童は正座して黙っていた。
「・・・・ふーん」
飛天は煙草を蒸かしながら不精髭を撫でた。
「その作戦の勝算は?」
「恐らく、何も問題が無ければ確実に。もちろん問題があっても成功させます」
飛天の質問に凛が真剣に答えた。
「・・・分かった。その作戦に乗った」
飛天は紫煙を吐きながら返答した。
「ありがとうございます」
凛が丁寧に頭を下げた。
凛の立てた作戦はこうだ。
父上に童と飛天が結ばれて幸せに暮らしているという既成事実を植え付ける。
そうすれば流石に父上も諦めざる得ないと凛は見た。
この考えは強ち間違いではないと思う。
いかに父上でも幸せな仲を引き裂くなどと無粋な真似など・・・・・・・・・
「・・・・で、具体的に何をすれば良いんだ?」
「そうですね・・・・・」
童が一人で考えている内に二人の話は進んでいた。
「具体的には、旦那様と姫様が毘沙門天様の前で熱いシーンを見せれば良いんです」
「熱いシーン?」
童は聞き慣れない単語を凛に尋ねた。
「簡単に言えば姫様が旦那様に膝枕をしたり、湯殿で背中を流したりするなどが熱いシーンです」
「ぶっ!?」
童は何も飲んでないのにせき込んだ。
「・・・げほっ、げほっ」
「姫様っ。大丈夫ですか」
凛が優しく背中を撫でてくれた。
「お前も器用な女だな。何も飲んでないのにせき込むとは」
飛天が驚きと呆れた表情で童を見下ろした。
「お、お主は驚かないのかっ?」
ひざ枕や背中洗いなど、母上でさえも父上にしない事じゃぞ!?
そ、それを童にさせるなど!?
「別に。何となく解かっていたからな」
これでも女にもてると付け足す飛天。
「旦那様。姫様に悪影響を及ぼす発言は控えてさい」
凛が怒った表情で飛天を睨んだ。
「紙に包んだだろ?」
「遠回しに女性関係が激しいと言っています」
「そうか?」
「そうです」
ギロリと飛天を睨む凛。
その姿はまさしく娘を心配する親だった。
「分かった分かった。俺が悪かった」
苦笑しながら飛天は謝罪した。
「解れば良いです」
凜は納得して頷いた。
「姫様。これから凜が教えますから、ご安心くださいませ」
にっこりと笑う凜。
こうして父上を撃退する作戦が始まった。