第十話:女中の策略
父上を追い出してから童は飛天、凜と朝食を取っていた。
皆で食事を共にするなど何百年振りか?
前いた屋敷では童が一人だけ自分で作った飯を食べていた。
普通なら嬉しいのじゃが今朝の事もあり何時も以上に童は食が喉を通らなかった。
多少、言い過ぎたかも知れない。
・・・・・いいや。あれで良いのじゃ。
幼い頃から童が受けた罵詈雑言に比べれば父上に放った言葉など軽いものじゃ!!
童はただ父上に返しただけじゃ。
童は悪くない。
「・・・・・どうした?」
変な言動をする童に飛天がギロリと睨むように見てきた。
本人は否定して睨んでなく見ているらしい。
凜から聞いたが飛天は朝が弱く低血圧で目付きが破滅的に悪い。
だから、あの時に童を後ろから抱き締めたのか。
一人で納得した。
「・・・・おい」
飛天の低い声で、はっとした。
「・・・・さっきからどうかしたのか?」
「な、何でもないっ」
慌てて取り繕う。
「・・・まぁ、良い」
どこか不服そうな口調の飛天。
「俺は二時間くらい寝るから後は凜を頼れ」
朝食を済ませた飛天は部屋から出て行き童と凜だけが残った。
「・・・大丈夫ですか?姫様」
凜が心配そうな表情をして尋ねてきた。
「・・・・うむ。大丈夫じゃ」
「・・・・・姫様」
凜が真剣な声を出した。
こうなっては凛は何としても童に話させるだろう。
「・・・・実は・・・・・・・・・・」
茶碗と箸を置いて童は父上との会話を話した。
「・・・・左様ですか」
凛は黙って聞いていた。
「姫様は何も悪くありません。毘沙門天様や吉祥天様が姫様にしてきた事に比べれば、大したことはありません」
童を弁護するように凛は言ってくれた。
「姫様は、毘沙門天様が諦めると思っているようですが・・・・毘沙門天様の性格からして姫様を連れ戻すのを諦めないでしょう」
冷静な表情で指摘する凛。
指摘を受けて童も満更ではない気がした。
帰り際の父上は落ち込んでいたが、凛の言う通り童を連れ戻すのを諦めないだろう。
一度でも決めた事は絶対に果たす父上を童は何度も見てきた。
「・・・姫様。私に考えがあるのですが」
頭を悩ませていた童に凛が近付いてきた。
「お耳をお貸し下さい」
耳を近づける。
「・・・・・・・・・」
凛は童に策略を話し始めた。
「・・・大丈夫なのか?」
凛の策略に些か不安を感じた。
「はいっ。旦那様も喜んで協力しますよ。しないならさせてみせます!?」
ぐっと拳を握り締める凛。
「・・・・で、では、そうしよう」
凛の気合いに圧されて童は策略を受け入れた。