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雨の桜  作者: ドラキュラ
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逸話:諦めない

夜叉王丸の屋敷を出て帰りの道を馬に乗りながら走る毘沙門天は落ち込んでいた。


初めてだった。


あそこまで娘に、黒闇天に手酷く言われたのは初めてだった。


いつもは自分が怒れば直ぐに従ったのに、さっきは違っていた。


断固として逆らった。


最初は唖然としたがすぐに怒りが湧いた。


怒鳴ろうとしたが、黒闇天が先手を打ってきた。


“お前などわしの娘ではない”


そう言ったのは父上です。


先ほど黒闇天から言われた言葉が耳から離れなかった。


自分が黒闇天に放った言葉。


その言葉で黒闇天がどれだけ傷ついた事だろう。


今更になって自分に返ってきた言葉の重さに気づいた。


大人の自分でさえ、これほど傷ついたのだ。


幼い黒闇天はどれほど傷ついた事だろうか?


計り知れない程に心を傷つけられただろう。


そして追い打ちを掛けるように


『・・・・童は、もう父上の娘ではありません。もう童に関わらないで下さい』


決定的な決別の言葉を送られた。


直ぐに否定したかった。


お前は自分の娘だと言いたかった。


だが、出来なかった。


黒闇天の瞳から動けなかった。


自分を睨む黒闇天の瞳に強い憎しみが出ていたのだ。


自分を心から憎む瞳に言葉が出なかった。


「・・・わしが、わしがいけないのだ。黒闇天をあそこまで追い詰めたのは・・・・・」


自分があんなに黒闇天を傷つけたのだ。


あそこまで実の娘を追い詰めてしまったのだ。


ほんの少しで良かったのだ。


少しでも黒闇天を可愛がってやれば褒めれば良かった。


姉の白明天に掛ける愛情を少しでも黒闇天に分けてやれば良かった。


本当に、少しでも、黒闇天に愛情を掛けてやれば・・・・・・・・


「・・・もう、手遅れなのか?」


黒闇天に宿った憎しみの瞳を思い出す。


何所までも憎んでいた。


だけど、本心ではない。


まだ、大丈夫だ。


・・・・・まだ、娘と仲直りできる。


本当は娘も自分と仲直りしたいのだ。


そう思いたかった。


否、思いたかったのだ。


きっと仲直りできる。


仲直りすれば娘も自分の元に帰ってきてくれる。


その時は力の限り抱き締めてやろう。


そして謝ろう。


土下座して謝ろう。


今までしてきた非道な行為を心から謝罪しよう。


「・・・わしは、諦めないぞ。・・・・わしは必ずお前を連れ戻す」


馬に乗りながら毘沙門天は決意したが、その背中はどこか悲しく弱弱しかった。


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