第七話:湯上りなのに
父上が帰ってから童は湯殿に案内された。
ここでも童は驚きの声を上げた。
「おぉ!!何という湯殿じゃ!?」
目の前に広がった風呂は大広間並の広さで檜木で出来ていた。
童がいた屋敷などよりも風呂は充実してそうじゃな。
「ゆっくり疲れを癒して下さい。姫様」
凜は一礼して湯殿から出て行き童だけが残った。
「・・・・・・・」
後に残された童は着物を脱ぎ始めた。
布で身体を隠すとゆっくりと湯殿の中に入った。
中に入ると湯気で身体が温まり竹林に揺れた風が身体を冷やした。
「・・・・・良い湯じゃ」
湯に浸かると適温で疲れが一気に取れた。
「・・・・気持ち良い」
目の前に広がる竹林を見ながら童は時間を忘れて湯に浸かっていた。
どうやら疲れが溜まっていたようじゃな。
「・・・・ま、姫様。大丈夫ですか?」
凜の声が聞こえてきた。
「大丈夫ですか?姫様」
眼を開けると凜が心配そうに見下ろしていた。
「・・・・童は、どうしたのじゃ?」
「風呂ん中で上せてたんだよ」
飛天が童に冷えた水が入った椀を渡した。
「上せてた?」
椀に入った水を飲みながら記憶を遡った。
そういえば途中からの記憶がない。
「二時間も姫様が湯殿から出ないので、様子を見に行ったら・・・・・・」
「お前が風呂ん中で浮いていたのを見つけたんだよ」
「まったく。少しは考えて寝ろ」
懐から出した黒の扇子で童を仰ぎながら飛天は叱ってきた。
「・・・・・・・・」
童は何も言えずに押し黙った。
「・・・まぁ、無事で良かったがな」
「なにか言ったか?」
「いいや」
飛天が小さく何か言ったのを聞き取れず聞き返したがはぐらかされた。
「飯を持って来る」
短く言うと飛天は部屋を出て童と凜だけが残った。
「姫様は旦那様に愛されてますね」
凜がクスリと笑った。
「な、何を言うか!?」
童は上せて赤い頬を更に紅潮させた。
「姫様が湯の中で浮いていたのを運んでくれたのは旦那様ですよ」
着物は私が着せましたから安心して下さい。
と凛は付け足した。
「旦那様は姫様に一目惚れしたんですよ」
「・・・・・・ッ!?」
童は更に紅潮してしまい持っていた扇であおぎ始めた。
「ま、まだ熱い!み、水を持って参れ!?」
「はいはい」
凛は笑いながら部屋を出て行き後に残った童は扇をあおぐ事に必死じゃった。
ひ、飛天が童に一目惚れなど・・・・・・・・
飛天たちが来るまで頬が冷める事はなかった。