序章:劣等感
『お前も少しは姉上を見習いなさい』
もう何度、言われたのじゃろうか?
物心が着いた時から両親から言われ続けた言葉。
何でも卒なく熟す姉上と対象的に不器用な童。
社交的で金の髪と海の瞳を持つ姉上と紫の髪と瑠璃の瞳を持つ童。
両親の愛を受けて育つ姉上と愛を得られない童。
何故、同じ母親の身体から生まれたのに、こんなに違うのじゃ?
そして何故、童はこんなに惨めなのじゃ?
ただ、姉上より不器用で容姿が違うだけで・・・・・
童だって好きでこんな髪と瞳で生まれたくなかった。
姉上のように金の髪と海の瞳で生まれたかった!?
容姿は変えられないけど不器用さなら何とかなると思って頑張った。
和歌も頑張って覚えたし舞の稽古も歯を食いしばって耐えた。
琴より琵琶の方が得意だったから琵琶を頑張った。
これで父上も母上も童を認めてくれると思った。
だけど、それは単なる童の願望でしかなかった。
幾ら頑張った所で童は姉上に勝てなかった。
綺麗な和歌を詠んでも姉上より褒めれなかった。
舞で姉上より美しく舞っても綺麗な演奏をしても無駄だった。
童は永遠に姉上に勝てないのだ。
どんなに頑張っても勝てないのだ。
それを痛感してからは全てにおいて、やる気を無くし何十、何百、何千年と憂鬱なまま過ごした。
しかし、ある時の宴で“あの方”と運命的な出会いを果たしてから童の生活は一変した。
つまらなかった毎日が面白おかしくなって憂鬱な気持ちにならなくなった。
初めて童を理解してくれて自分を必要としてくれた男。
この世の何者にも代え難い愛しい男。
“あの方”が童にとっては今の全て。
どうしようもないこの想いは、恋。