ミステリにしたかった何か。
ミステリを書こうとして結局失敗してしまった結果出来上がった産物です。
「中は思ったより綺麗かな?」
「だな。こんなとこに泊まれるなんてワクワクするぜ!」
「おいおい節度は守れよ?他人の家なんだから。」
「あはは、いいよいいよ。どうせここらへんには家はここしかないんだから。」
大学で同期の4人でやってきたのは小高い山の麓に立つ一軒の家、いや、屋敷だった。
俺たち4人、仮に俺、A、B、Cとしよう、は夏休みを利用して金持ちの親を持つAの家の持っている屋敷に泊まるためにやってきていた。
自分と冷静沈着でやや口調も丁寧なA、ガタイもよく口調も少々乱暴なB、そして紅一点のCは同期ということもあってか不思議と仲が良く、よく4人で行動していた。
「持つべきものは友達、ってやつだな!」
「こら、そんなこと言ったら失礼でしょ!」
そしてBとCはお互い付き合っており、明らかに体育会系なBと中身はともかく見た目が文学少女然として読書も好きなC、一見不釣り合いにも見えるがうまくいっているらしく俺たちのからかいの種になっている。
「さあ、入って入って。ここらへんは山で夜暗くなるのが早いんだから。早くしないと日が暮れちゃう。」
というAの声に急かされるように荷ほどきをして今日はそのまま就寝…とは言っても大学生だ、寝るわけでもなし4人一緒の部屋のベッドで騒ぐ。
そんな中、「怖い話でもしようか?」とのAの発言で一同は色めき立った。
「えっとね、詳しくは自分でもよくは教えてもらってないんだけれどここらへんの地元では結構有名な話。かなり昔の話なんだけどうちのご先祖様についての話。そのご先祖さまは愛妻家として有名でね、妻が病気にかかった時療養のためにこの景色も空気もいい山にあったこの屋敷を買い取り、妻に与えたそうなんだ。
けれどね、いざ妻がそこでお手伝いさんと2人で過ごそうという段になって事件は起こったんだ。いきなり妻がご先祖様のところに詰め寄ったのさ。「私のほかに女がいるでしょ!」とね。
そのまま半狂乱になって暴れ出してやっとの事で屋敷に押し込めたらしいんだ。けれどそのままお手伝いさんはやめてしまい。代わりの人を探している最中、誰の目もない隙に首を吊って自殺したらしい。
愛妻家として有名だったご先祖様がショックを受けないようにと、そのことはご先祖様には秘密にされていた。けれどその日からご先祖様は魘されるようになり、次第におかしくなっていったんだ。実務のほとんどはもう息子に任せていたから外への露見はほとんどなかったんだけどね。
けれどね、ある日ご先祖様はぷいと消えてしまったんだ。跡形もなく。そして一族総出で探したけれど見つかったのはくだんのお屋敷。それも妻が自殺したその部屋で死んでいたそうだ。…誰も妻の自殺を伝えていないのにね。
ちなみにだけど死後に調査したところ、ご先祖様がほかの女性と通じてたというのは事実だったみたい。お手伝いさんとして妻と暮らす予定だった人もお手つきだったらしい。その人ものちに自殺してるみたいだね。」
「そんな屋敷に俺たち泊まって大丈夫なのか?」
「しばらくは幽霊の噂とかあったみたいだけどしばらくするとそれもおさまったし、何よりそれから一度改装したんだから大丈夫だと思うよ。多分。」
「多分って…まぁ確かにそういうのの対象になりそうな人はいないしな。」
「なに私たちがカップルじゃないとでもいうつもり?そこの独身二人はともかく。」
「いやいや浮気性の人はいないでしょって意味だから落ち着いて。」
下手すれば手を出してきそうなCを必死でなだめる。彼女は見た目よりも力はあるのだ。とはいええらく細身である見た目よりもというだけであって一般的なか弱い女性の範疇には十分入る程度なのだが。
そんなこんなで騒ぎながらも一晩を過ごした。
そして次の日。朝食を食べ、前日には調べられなかった屋敷探索をすることにした。各自バラバラに探索することになったのだがAと二人朝食の片付けをしていた。じゃんけんに負けたのだ。いやAは自分から引き受けたのだが。
「それにしてもB大丈夫かな?完徹してたけど。」
「…多分寝溜めするんじゃないかな?これから。」
彼はガタイに似合わず十分に寝ないと身体が耐えられない体質なのだ。
「ここら辺は涼しいから適当に陽当たりの多少あるような部屋の床で寝てるんじゃないかな。出るときも何か考えながら欠伸してたみたいだし。」
などと雑談しながら片付けを終え、すでに間取りを知っているから残って昼食の用意でもしていると言うAと別れ自分も屋敷を探索することにした。
一度外に出てぐるっと屋敷を回る。多少古びてはいるもののそれがこの建物にしっかりとした重量感を感じさせた。とはいえしっかり整備はされてはいるようだ。
「あれ?」
偶然、草が生えているが整えられた花壇の中に縄が落ちているのを見つけた。
「誰かの忘れ物か?」
切り口も新しいように見えるしおそらく掃除の人が忘れてしまったのだろう。
あとでAにでも渡しておけばいいや、と放っておくことにした。
ぐるっと一周回って戻って来たところ、ちょうどCも帰ってきたところのようだった。
「あれ?Bは?」
「まだ帰ってきてないみたい。これだけ大きいんだからどこかで迷ってるんじゃないの?」
「かもしれないね。でももうそろそろ帰ってきてもいいんじゃないかな……」
「もう少し待って帰ってこなかったら探しに行くか。どこかで寝ているだけかもしれないし。」
「確かにありそうだな。」
などと談笑しつつ暫く待った。しかし、Bは帰ってくることはなかった。
さすがに不安になったのでAを先頭に3人揃って探しに行くことにした。部屋を一つ一つ周り最後に残った部屋。食事をとった部屋から一番遠い、南側に面した部屋だ。何故かそこのドアがやけにかたい。よいしょっ、と男二人で力を合わせて開ける。ズサササ…と何かが崩れる音がしてドアが少し開いた。そのまま押し広げる。
そしてそこにあったものを最初は信じることができなかった。一生見ることなんてないだろうと思ったもの。それは、Bの首吊り死体だった。
図書室だろうか、床一面に本が散らばっており、本棚さえもたおれていたりかたむいていたりするものさえある。
「ひ、ひぃ…うわあああああ」
耐えきれなくなったのかAは駆け出していった。
「お、おい、待てよ!」
たまらず追いかける。
そう労せずして一番最初の部屋で震えながら何かを呟き続けるAを見つけた。
「大丈夫か?」
「ありえないありえない幽霊なんているわけないんだ騒霊なんてありえないなんでだ部屋は改装したしお祓いもやったって聞いてたのに…」
茫然と何かを呟き続けるA。
廊下の奥から遅れて追いかけてきたらしいCの姿が見えた。
平和で騒がしい日常は一転し、俺たちはありえないと思っていた非日常へと叩き込まれたーーーーー