表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/39

第一二話 Cパート



「サイ次元知性体が人類と最初に接触したのは二〇〇年余り前のことだ」


 真鶴は「そんなに最近なのか」と驚いているが、話の腰を折りはしなかった。


「当時のサイ次元知性体にとって人類は全く理解不能の存在だった。他の動物とは次元の違う高い知性を有しているのに、将来的には自分達に匹敵し得る知的ポテンシャルを秘めているのに、同族でいがみ合い、互いに苦しめ合い、殺し合っている。一体彼等は何を考えているのか? どうして同族で苦しめ合い、殺し合うのか? 当時のサイ次元知性体は人間を理解するために特殊な知性体を作り出した。人間と同じような感情、人間と同じような価値観を与えられたサイ次元知性体……それが僕達のような夢の妖精だ。夢の妖精の力によってサイ次元知性体は人間を理解することができるようになったんだ。


 でも、僕達はそれで満足しなかった。僕達の力があれば人間同士が苦しめ合い、殺し合うのを止めさせることができる。力のある一部の人間が力のない多数の人間を踏みつけにし、食い物にし、犠牲にする――そんな間違った人間社会を正して、より平等な、より幸福となれる社会を作り出すことができる。そう考えた夢の妖精が集まって人間社会への干渉を開始したんだ」


「それがいわゆる『干渉派』の始まりだね」


 とウィリーが説明を補足する。


「干渉派の最初の試みは大失敗に終わった。それは人間の歴史の教科書にも載っているよ」


 真鶴は人類史上最大の事件の一つを想起していた。ギロチンの嵐が吹き荒れ、血が大河のように流れた、ある事件を。


「その後も干渉派は『人間社会をよりよい方向へと導く』と称して人間にちょっかいを出し、そのことごとくに失敗して流される血ばかりを増やしてきた。だから僕達サイ次元知性体は人間への干渉を禁止し、やむを得ず干渉する場合もそれが必要最小限となるようにしてきたんだ」


「確かに今までの活動は全て失敗に終わった、それは認める。でも僕達は過去の失敗から学んでいる。一〇年もの時間をかけ、細心の注意を払い、成功させるための最大限の努力を積み重ねてきたんだ!」


 ロビンの熱弁に対し、ウィリーは肩をすくめるような仕草と冷笑を見せた。一口に「夢の妖精」と言ってもその性格はかなり違っているみたいだ、とことらは感じている。


「あれこそ僕達の研究成果だ!」


 とロビンが上空を指し示す。ことら達の頭上には無数の兵隊型バクの姿が、その中央に鎮座する女王型バクの姿があった。


「兵隊型バクは条件さえ整えば最短三〇分で分裂増殖する。長目に見ても三日あれば世界中の全ての人間に兵隊型バクが取り憑くだろう。そして女王型バクには兵隊型バクを支配する力がある。女王型バクの増幅する感情や思考に兵隊型バクは同調する! 女王型バクの命令に従い、兵隊型バクが宿主となった人間の特定の感情や思考を増幅させるんだ!」


 天馬と龍子とたつみは愕然と目を見開き、真鶴と鷹子とゆたかは慄然と顔色を蒼白にする。そして飛鳥と虎子とことらは憤然とし、歯を軋ませた。そんなそれぞれの反応を犀星は泰然と眺めている。


「バクを使ってそんな真似を……」


 真鶴の口からこぼれ出た呟きにロビンは得々と説明した。


「君達は思い違いをしているよ。バクとは元々こういうものなんだ。寄生した人間の思考を誘導するためにバクは作り出された。精神エネルギーの回収や魔法少女との戦闘はバク本来の役割じゃなかったんだ」


「時代が下がれば精神エネルギー回収を専門とする、あるいは魔法少女との戦いを専門とするバクも作られるようになったけどね。確かに、大規模思考誘導型バクの最新式というだけあって増殖の速度もこれまでとは桁違いのようだ」


 ロビンと敵対する側にあって冷静なのはウィリー一人のようだった。


「その女王型バクに寄生させるのは、そこの金剛崎犀星ということかな」


 ウィリーの確認に犀星は「然り」と頷いた。天馬が声まで蒼白にして犀星に問う。


「……一体、あなたは何をしようというのですか。金剛崎先生」


「夢の妖精の力を借りて世界を支配するおつもりですか」


 同じく真鶴が犀星を詰問した。それに対する犀星の返答は、苦笑だった。


「そんなもの、望みはせんよ。儂が望むのは、正しい社会、正しい世界。ただそれだけだ」


「正しい世界?」


 犀星は一同から視線を外し、ここでないところへ、今でない時代へと眼差しを送る。


「親が子供を虐待しない世界、子供が親を捨てない世界。民族の違いが罵り合いの理由とならない世界。宗教が人殺しの正当化に使われない世界。兵器を売って儲けることが正しいとされない世界……今よりも他者のあり方に対して寛容となり、他者の生命を尊重する。儂が全ての人間に対して望んでいるのはつまりはその程度のことなのだ」


 天馬や真鶴は訝しげな顔を見合わせた。


「大聖寺よ、一里野よ、お前達に儂と敵対する理由があるのか? 儂とともに来るがいい。儂等の力でこの世界に真の平和を実現する。儂亡き後はお前達がこの事業を引き継ぐのだ。子供達に戦争もない、差別も貧困もない、圧政もない、環境問題もない、理想の世界を残すために」


 犀星は二人へと向かって手を差し延べた。天馬も真鶴もその心は大きく揺らいでいる。ちょっとした要因で心の天秤がどちら一方に傾いてもおかしくはなかっただろう。二人が犀星の手を取り、犀星に協力する――そんな未来も充分以上にあり得たのだ。そうならなかったのは、


「……何のつもりだ?」


 投げつけられた戦輪を指で受け止め、犀星が問う。ことらは投げつけた姿勢のまま啖呵を切った。


「見りゃ判るだろ。おっさんに喧嘩売ってんだよ」


「愚かな、貴様は理想の未来を望まないというのか……!」


 苛立ちをにじませた犀星の問いに、ことらは突貫を持って答える。


「そんな未来は望まねぇ!」


 ことらの正拳が、肘打ちが、蹴りが放たれる。犀星はそれを受け止めつつわずかに後退した。自分が押されているという事実に犀星は内心驚愕する。


「おっさんが理想とする社会なんて堅苦しくて息苦しそうなんだよ! それに第一!」


 苛立ちを強めた犀星が正拳を打ち下ろす。全盛期には闘牛にも打ち勝ったというその拳は、


「胡散臭すぎて信用できねぇ」


 ことらによって受け止められた。犀星が全体重をかけて拳を押すが、半分の体重しか持たないことらがそれを受けてその場に踏み止まっている。


「ことりは精神エネルギーを根こそぎにされて寝込んでるんだ。そんな真似を平気でやる連中に味方なんかできるわけねーだろうが!」


「ちっ!」


 舌打ちをした犀星が裏拳を放つが、ことらはバックステップでそれを避けた。距離を置いて両者が仕切り直しをする。


「貴様……」


 ことらの決起は一同の闘志に火を点けたようだった。飛鳥が、虎子が、たつみが、ゆたかがそれぞれの得物を持って構えている。龍子や鷹子もそれに続き、天馬や真鶴もまた戦うことを選択していた。


「大聖寺、一里野よ。お前達もか」


 失望を隠さない犀星の問いに二人は怯みそうになる。が、それでも二人は自分達の選択を覆さなかった。


「あまりに重要な選択ですので、今この場で選ぶことができんのですよ。バクの増殖を中止して、女王型バクも下がらせて、現実世界に戻って腹を割って話し合うことはできませんか?」


 天馬が人を食ったような態度で提案するが、犀星がそれに頷くはずもない。


「この期に及んで中断なり中止なりするくらいなら、最初からこのような計画を立ててはおらんわ」


 犀星の回答に天馬は「ですよねー」と頷いている。


「無念ではあるが、是非もなし。誰にも理解されずとも、世界を敵に回そうと、儂は儂の理想を実現するため最後まで突き進むのみ……!」


 上空を振り仰いだ犀星が「来い!」と女王型バクを手招きし、バクは命令に従い真っ直ぐに降下した。ちょうどその下に犀星がいる。このままなら女王型バクと犀星がぶつかるだろうが、どちらともが相手を避けようとはしなかった。


「まずい……!」


 虎子が野生の勘で危険を察知。犀星と女王型バクの接触を妨害しようとチェーンを飛ばした。だが犀星は煩わしげに手を一旋、手の甲でチェーンを打ち払ってしまう。他の者が妨害する間もなく犀星と女王型バクが接触。両者の身体が重なり、光を放った。


「くっ!」「なんだ!」


 眩しい光にことら達が目を覆う。光が収まってことら達が犀星の、女王型バクの姿を確認しようとした。が、そこには影は一つしかない。女王型バクの姿が、巨大な蜂の姿がどこにもなくなっている。だがその代わり、


「先生、その姿は……」


 犀星が着ている魔法少女のドレスの色が、形が変わっていた。金色を基調していたドレスは金と黒のツートンカラーとなっている。両肩からは大きな角が、背中には昆虫の羽根が生えていた。


「まさか、バクが先生に取り憑いたの?」


「そんな、魔法少女にバクが取り憑くなんて」


 と驚きを隠せない虎子達。それに対して「いや、間違っていない」と言うのはウィリーである。


「魔法少女がバクに取り憑かれないのは夢の妖精が守っているからだ。夢の妖精が守らず、むしろバクが取り憑くよう誘導したならいくら魔法少女だろうとバクに取り憑かれてしまう。ロビンが金剛崎犀星に女王型バクが取り憑くよう誘導したんだ」


「取り憑かれたわけじゃない、合体したんだよ」


 そこにロビンが修正を求めてきた。


「これもまた一〇年間の研究成果だ。一里野真鶴を始めとする大人達は僕達の研究に大いに貢献してくれた。君達の協力と尽力があればこそ金剛崎犀星は魔法少女に変身できるし、魔法少女のままバクと合体できるようにもなったんだ。君達にはどれだけ感謝しても足りないくらいだ」


 ロビンの謝意は真鶴にとって、大人組全員にとっては痛烈な皮肉だった。ロビンは皮肉を言っているつもりはさらさらなく、心から真鶴達の貢献を称えているだけなのだが。

 ロビンの言葉を受けて犀星が「然り」と頷いた。


「儂のこの姿こそ、お前達が子供達を、この町の平和を守ろうとした、その意志の結実。今の儂は金剛崎犀星であり、金の魔法少女であり、女王型バクでもある。儂が全ての人間を平和に導く。理想の世界をこの手にするのだ……!」


 犀星がゆっくりと上昇して一〇メートルほど上空で停止した。犀星は指揮者のように腕を振り上げ、振り下ろす。その命令を受けて兵隊型バクの動きが変わった。内渚町上空に留まっていた兵隊型バクが日本全土へと散っていく。

 その光景にロビンは飛び跳ね、全身で歓喜を表現した。


「さあ、始まった! 世界が変わる、社会が変わる。理想の世界が、平和な世界が、今ここから実現するんだ……!」


 ロビンが大仰な仕草で腕を振り、それを合図にたくさんの四角い何かが空中に出現した。空中に浮遊する何十枚ものそれによりことら達は包囲されている。


「何なの、あれは」


「スクリーンか?」


 飛鳥の言うように、それはまさにスクリーンだった。その四角いスクリーンにはこことは違う場所の光景が映し出されている。たくさんのスクリーン一枚一枚がそれぞれ違う場所を映し出しているようだった。


「それには兵隊型バクの視覚情報が投影されている。理想の世界が作り出されるのを、その目で確認するといい」


 ロビンが得意絶頂に言い放つが、その言葉は半分以上耳に入っていなかった。ことら達は心を奪われたかのように上空のスクリーンに見入っている。そこに映し出されているのは現実世界の様子だった――それが作り替えられる光景だった。

 ――ある中学校で複数の男子生徒が一人の男子生徒を苛めている。苛めている側の男子生徒に兵隊型バクが取り憑いた。


「……俺達、何でこんなひどいことをやっていたんだろう」


「今までごめん、許してくれ」


 男子生徒達はまるで憑き物が落ちたかのように心を入れ替え、苛めた側に謝っている。

 ――ある町中で何十人もの男女がプラカードを掲げて行進している。プラカードには「殺せ」「死ね」等の、見るに堪えない文言が記されている。デモの参加者はやはり「殺せ」「死ね」等の口汚い言葉を発しており、その顔は憎悪に歪んでいた。

 その彼等に兵隊型バクが取り憑き、


「……私達、何でこんな恥ずかしいことをしていたんだろう」


 デモの参加者は夢から覚めたかのように顔を見合わせている。「死ね」「殺せ」等のプラカードは路上に捨てられ、踏み潰されていた。

 ――ある電車の中で一人の老婆の姿がある。その老婆の顔色は優れず、どうやら具合が良くないようだった。だが電車の中はかなりの混雑で、空いている席など一つもない。シルバーシートでは派手な格好の女子高生が何人か座っており、それぞれ化粧をするなどしていた。老婆は意を決して彼女達に席を譲ってもらえるよう声をかけようとするが、


「何、ばーさん。文句あるわけ?」


 彼女達はその老婆を威嚇する。そこに兵隊型バクが出現、その女子高生達に取り憑いた。


「……わたし達、どうしてこんな身勝手なことをしていたのかな」


「どうぞおばあさん、座って。具合は大丈夫?」


 女子高生達が老婆を席に座らせ、その具合を気遣っている。老婆の顔色はそれだけで大いによくなっているようだった。

 ……スクリーンに映し出されるそれらの光景をことら達は見つめ続けていた。


「確かにこれは……」


「本当に理想の世界が……?」


 スクリーンの向こう側は、現実世界は、確かによくなっている。許されないことが、見るに堪えないことが、眉を顰めることが、次々と解消され、改善されている。美しい光景が、誇るべき姿が、褒めるべき行為が、どんどんと広がっているのだ。


「どうだい、ことら? この国が、この社会がきれいに、住みよくなっていく! この国だけじゃない、この光景はもうすぐ世界中に広がるんだ!」


 浮かれきったロビンがその場に飛び跳ねている。だがことらはそれに白けたような目を向けていた。


「……まあ、このレベルで収まってくれるなら大目に見てやってもいいかもしれないんだけどな」


「どういう意味だい?」


「金剛崎のじいさんが暴走したらお前が止めてくれるのか?」


 ことらの懸念をロビンは笑い飛ばした。


「僕は一〇年かけて女王型バクの宿主に相応しい人物を選んだんだ! 自制心の強さで彼に勝る人間なんて一人もいない。その彼が暴走するなんて――」


 獣のような咆吼がその場に轟き、ロビンが絶句する。ことらは自分の予感が正しかったことを理解しながら上空を振り仰いだ。


「GGGUUUGGGAAA……!」


 犀星が、犀星と合体したバクが奇怪なオーラを放っている。犀星の目が面妖な輝きを見せている。犀星の口が異常な雄叫びを上げていた。


「どうして?! どうした?! 金剛崎犀星、一体どうしたんだ?!」


 狼狽するロビンが犀星と呼びかけるが犀星はそれに答えない。その間にもスクリーンの向こう側の光景は今までとは一変しようとしていた。

 ――ある河川敷では大勢の小学生がサッカーを楽しんでいる。そこに兵隊型バクが襲来、彼等に取り憑いた。


「……おれ達、何でサッカーなんかやってたんだろ」


「日本男児なら武道だろ! サッカーなんて軟弱な遊び……!」


 彼等はサッカーボールを川に蹴り捨ててしまう。彼等は一斉に近所の柔道道場、あるいは空手道場へと向かった。

 ――あるライブハウスではロックバンドがライブを催し、大勢の若者がその演奏に耳を傾けている。そこにバクの大群が襲来した。


「……わたし達、何でロックなんて聴いていたんだろう」


「日本人なら演歌でしょ! ロックなんて騒がしいだけの雑音……!」


 そのロックバンドは演歌を熱唱、聴衆はそれに熱狂した。

 ――ある民家では、


「ハアハア、さやかたんprpr」


 ある男がパソコンに向かってギャルゲーを楽しんでいるところだった。男は体重が一〇〇キログラムはありそうな肥満体。肌はニキビだらけで脂ぎっていて、中途半端に伸びた脂っぽい髪の毛は変な形に固まっている。一番アレなヲタクの典型例のような男だった。

 室内には漫画や雑誌やゲームの空き箱が積み上げられ、あるいはアルバイト情報誌が散乱し、足の踏み場もないくらいだ。本棚に入っているのも漫画やゲーム雑誌のどちらか。あるいは美少女フィギュアが陳列されている。本棚のごく一部に公務員試験の問題集が何冊か入っているが何年も前のもので、開らかれた形跡は皆無である。

 モニターには幻想的な、可愛らしい服装の少女の画像。ゲームの中で少女は何かの魔物と戦っているようだった。だがそのとき、


「日本男児がこのような軟弱な……」


 モニターからごつい身体のおっさんが沸いて出てきた。ヲタク男は「ななななな」とくり返すことしかできない。しかもただのおっさんでなく、長髪をツインテールにし、魔法少女のドレスを着た六〇過ぎのおっさんである。


「貴様、それでも日本男児か!」


「お前に言われたくねーよ!」


 ヲタク男のもっともな反論にも犀星は聞く耳を持たなかった。


「問答無用! 働け!」


 犀星の一喝とともにヲタク男にバクが取り憑き――男はこざっぱりしたスーツ姿となって就職活動を開始した。

 ことら達はスクリーン越しにそれらの光景を目の当たりしていた。彼等の上空では犀星が、


「GGGUUUGGGAAA……!」


 とうなり声を上げ続け、ロビンはその場に膝を屈している。


「金剛崎犀星、どうして、どうして……?」


 犀星が暴走しているのはもう誰の目にも明らかだ。そしてそれはロビン達の計画の失敗を意味していた。


「やっぱり今回も失敗だったか。途中まではもしかして、とも思ったんだけど」


 まるで他人事のようなウィリーの物言いはことらを苛立たせた。真鶴がウィリーに「だが、どうして先生が暴走を?」と問う。


「別に難しい話じゃないよ。バクによって悪意や憎悪が増幅されても、人間には正義や思いやりや優しい心もある。それがブレーキとなって最悪の事態だけは回避できた……そういう例は君達も経験しているんじゃないかな」


 ウィリーの言葉に虎子達が、ことら達が頷く。ウィリーは「じゃあ」と続けた。


「正義や思いやりや優しい心、それ自体が暴走したときは何をブレーキとしたらいいんだろうね?」


 ことら達が、その場の全員が「あ」と口の形を揃えた。ウィリーは深々と頷く。


「彼等干渉派は毎回ああやって人間の正義や思いやり、優しい心を増幅し、結局暴走させている。でも、それはブレーキのない自動車を走らせるようなものなのだから、暴走して事故を起こすのは必然なんだよ」


 ウィリーが腕を一振りすると、頭上のスクリーンに違う光景が映し出された。そこに写っているのは日本国内ではなく、今の時代でもない。


「あれは……」


 ある人々が強制収容所へと送られる光景があった。ある人々が極寒の地へ流刑となり、労働を強制されている光景があった。自国民の三割を殺戮し、国土が死体で埋め尽くされた荒野と化した光景があった。


「これが、これが……干渉派の成したことだと言うのか。その結果だと言うのか」


 声を震わせる真鶴の問いにウィリーが「うん、そうだよ」と軽く返答している。


「小さなところではこんなことにもなっていたね」


 とウィリーが別のスクリーンを指し示す。そのスクリーンの中には、密林の奥で集団自殺をする宗教団体が。あるいは州軍と戦争さながらの銃撃戦を演じる宗教団体もあり、さらにはハルマゲドン妄想をこじらせた挙げ句に毒ガステロを実行した宗教団体の姿もあった。

 空気がコンクリートのように凝固した。氷の中に閉じ込められて呼吸ができないでいるかのように、息苦しい。


「冗談じゃないぞ……」


 その中で天馬が辛うじてそう呟き、呪縛が解けたようになった飛鳥がウィリーに確認した。


「このまま放っておけば同じことがくり返されるって言うのか?」


「うん。兵隊型バクの増殖速度からして、あるいは空前の規模になるかもしれない」


 一同が顔を見合わせるが、そこに浮かぶ思いや意志は同一だった――何とかしなければならない。だが、


「一体どうすれば……」


 ゆたかの呟きを耳にしたウィリーが一同に提案する。


「僕に任せるつもりがあるなら、方法がないわけじゃない」


「その方法とは?」


「金剛崎犀星を殺すことだ」


 一同が硬直し、声を出せないでいる。その中で虎子がウィリーに確認した。


「それで問題は解決するの?」


「……金剛崎犀星を殺しても兵隊型バクは死滅しない」


 虎子の問いに答えたのはウィリーではなくロビンだ。


「増殖は止まるし、何年も命令がなければ休眠するように設定されている。でも、それまではずっとバクは人々に取り憑いたままだ。女王型バクが最後に発した命令に従い、人々の思考を、感情を増幅し続けるだろう」


「つまりは、今広がっているような社会が少なくとも数年は維持されるわけか」


 天馬の結論をロビンが肯定。最悪じゃねーか、とことらが吐き捨てた。


「他に方法はねーのかよ!」


「女王型バクを倒し、金剛崎犀星を屈服させ、その心を折ることができれば、あるいは。でもそんなの……」


 ロビンに言われるまでもない。でも、そんなことは事実上不可能だ。犀星の戦闘力、犀星の意志の強さは隔絶している。この場の誰よりも圧倒的に上なのだから。その場を重苦しい沈黙が支配した。地面に沈み込みそうなくらいの重い空気の中で、


「――なんだ、話は早いじゃん」


 ことらはお気楽な声を出していた。ことらが前に進み出、一同がその背中を見つめる。


「ことら、お前……」


「要はあのおっさんに喧嘩で勝てばいいだけだろ?」


 ことらは太々しく笑い、右拳を左掌に打ち付けた。そして、


「行くぜ、金剛崎犀星!」


 ことらが犀星へと突進する。夢の世界、内渚町の中央、吊り橋の南側。世界の命運を決する最後の戦いが今、ここに始まる。




 第一三話(最終話)「これからもずっと魔法少女」


 Aパートは11月13日木曜日21時、

 Bパートは11月14日金曜日21時、

 Cパートは11月15日土曜日21時、


 の更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ