第一二話 Bパート
上空を飛行する女王型バクを、龍子や鷹子は民家の屋根から屋根へと跳躍して追跡する。それに天馬と真鶴が続き、さらにその後方からたつみとゆたかが続いた。女王型バクの飛行速度が遅くなり、父親組・母親組がそれぞれ追いつく。天馬と龍子がアイコンタクトをし、二組は二手に分かれた。右側と左側から回り込み、女王型バクを挟み撃ちにしようとする。
「よし、いける!」
天馬は大きくジャンプし、さらに空中で、
「マジカル、ぶちかまし!」
スカート内に収納していたロケットノズルが点火する。天馬は尻から火を噴いているような状態でミサイルのように女王型バクへと向かった。そのまま女王型バクに体当たりせんとし、
「やるではないか!」
突如出現した犀星に迎撃される。虚空へと跳躍した犀星がその身体を縦回転、そのままの速度と勢いのかかと落としを天馬の脳天に打ち下ろした。天馬は地面へと墜落する。
「あなた!」
と叫ぶ龍子の背後に、まるで瞬間移動したかのように犀星が現れた。気配を感じた龍子が振り向きざまに剣を横薙ぎにするが、犀星は二本の指で刃を挟んでしまう。
「なっ……!」
慌てて剣を引き抜こうとしても指で挟まれた剣はびくともしない。逆に犀星が剣を手前に引いて龍子の体勢を崩し、龍子に裏拳を叩き込む。龍子は腕で頭部を庇いながらも打撃を受け、地面に倒れ伏した。
「……判っていたつもりだが」
「強すぎるわね、先生」
真鶴や鷹子は格闘技の経験を持たず、戦闘力に自信がないため犀星へと挑めないでいた。女王型バクは逃げるのをやめて上空で待機。その下には犀星が屹立し、その横に影のように佇むロビンの姿がある。
場所は大通りの、医大病院と吊り橋の間。医大病院を、河口と海を、風力発電所の風車を、吊り橋を、潟湖を見渡すことができる場所だ。上空には女王型バクを中心に、兵隊型バクが円盤を成し、層を成し、渦を成して広がっている。兵隊型バクの群れは内渚町を覆い尽くし、刻一刻と広がっていた。
「ここが決戦の地ってことか」
「悪くないんじゃない?」
犀星を追ってきた飛鳥と虎子が到着。さらに天馬や龍子、たつみやゆたか、それにロビンもこの地へと集合した。彼等が改めて犀星を包囲し、犀星は彼等を睥睨する。
「む?」
犀星はそこにことらの姿がないことに気が付いた。ことらが流星のように真上から降ってきたのはそれと同時である。
「死ねやオラぁっ!」
ことらの蹴りが犀星の頭部を狙い澄ましていた。が、犀星は慌てず騒がず右拳を振りかぶり、バズーカ砲のようなストレートを撃ち放つ。ことらの蹴りと犀星の拳が空中で激突し、
「うぐ……」
力なく地面へと落ちたことらは足を抱えた。犀星は「ちょっと痛かったかな」と言わんばかりに手を振っているだけである。
そのことらの前にフードをかぶったレンが進み出た。
「あなたは魔法少女としてはかなり優秀だけど、それでもこの男に敵うわけがないでしょう? ただの中学生のあなたが意志の強さでこの男を凌駕できるはずもない。いい加減諦めたらどうかしら?」
「うるせーよ!」
ことらはやけくそのように目の前のレンへと拳を放った。レンは逃げる間もなくその拳を胴体に受けてしまう。ことらの拳がレンのマントを貫き、
「こいつ?」
手応えは何も感じなかった。まるで垂れ下がる布だけを殴ったかのようだ。ことらが払いながら拳を引き、レンのマントを引き裂いた。その下には――
「何だと?」
「どういうことだ?」
その光景を見つめていた一同が刮目する。レンのマントの下には、何もなかった。そうでありながら、
「ひどいことをするのね。もうこの身体は維持できないわ」
まだそのマントの中からレンの声がしている。まるでマント自体がレン本体であるかのようだ。ことらが怯えを罵声に隠してレンに問う。
「なっ、何なんだよお前は!」
「あるサイ次元知性体が自分の情報の一部を分離し、それに仮初めの身体を与えてわたしを作り出した。わたしはただの仮想知性体。この身体が維持できなくなった以上、わたしを構成していた情報は元の持ち主のところへ戻っていく」
「ううわわーーっっ!!」
突然の叫び声にことら達が凍り付いた。一同の視線がロビンへと集まる。悲鳴を上げるロビンは激痛にさらされたかのように身体を暴れさせていた。
「何で?! 何で君が僕の中に?!」
「今説明したでしょう? 元々一つだったものが、一時的に二つに分かれていたものが、もう一度一つになるだけのことだと」
レンの声はそれを最後にもう聞こえなくなった。その場にはロビンが上げる悲鳴だけが響いている。
「僕が僕は僕の中に僕は僕が僕じゃない僕が僕は――」
あるいは何十分も経過したかのように思われたが、終わってしまえばあっと言う間だった。倒れ伏していたロビンが起き上がる。
「ロビン、お前……」
「やあ、ことら。心配かけて悪かったね」
浮き立つように答えるロビンはその気配が、その雰囲気が以前とは一変していた。自分達のお供だったロビンはもういないことを理解し、ことらは唇を噛み締めた。
「あなたは一体……」
「僕は元々干渉派に属する夢の妖精だったんだよ。不干渉派の一員としてこの世界にやってくるため、地球保護局の目をごまかすため、干渉派としての自分を切り離して仮初めの身体を与えたんだ。それが彼女、ジェニー・レン」
「なるほどね。全く気が付かなかったよ」
その場の誰の者でもない声が聞こえた。ことらでもたつみでもゆたかでもない。虎子でも龍子でも鷹子でもなく、飛鳥でも天馬でも真鶴でもない。犀星でもロビンでもレンでも、もちろんない。ことら、それに犀星やロビンを含む一同が声のした方へと視線を向ける。そこにいるのはロビンと大差ない姿をした、もう一人の夢の妖精だった。
「久しぶりだね。虎子、龍子、鷹子」
「……まさか、ウィリー?」
鷹子の確認にウィリーという夢の妖精が頷く。虎子は忌々しげな顔をし、龍子と鷹子は戸惑っているようだった。
「その謎生物は?」
「わたし達が現役のときにお供だった奴よ」
天馬の問いに虎子が答える。吐き捨てるようなその物言いに、虎子達とそのウィリーというお供の関係がこじれているらしいことが伺えた。
「よくわたし達の前に顔を出せたわね」
「僕も君達の心情に配慮してぎりぎりまで我慢していたんだよ? でも、もうそんなことを言っている場合じゃなくなっているだろう?」
虎子は顔を背けてこれ見よがしに舌打ちをするが、それ以上は何も言わなかった。その間にもウィリーは前に進み出、ロビンと相対している。
「君達干渉派のやり口はどんどんと巧妙になっていくね、コック・ロビン。それだけ経験から学べるのなら、人間に対する干渉が悲劇しか生まないこともいい加減学んでほしいんだけど」
「確かに干渉派の歴史は失敗の連続だったかもしれない、ウィリー・ウィンキー。でも、これまでの失敗は最後の成功により何もかもが報われる! 全ては今日、この日のための必要な犠牲だったと、胸を張って言えるときが来たんだ!」
己が成功を確信し、ロビンは高らかに宣言する。事情が見えないことらは苛立ちを深めるばかりである。
「一体何なんだよ! お前等は何をしようとしてるんだよ?!」
「聞きたいのなら説明するよ。そしてことら、他のみんなも、僕に力を貸してほしい」
ロビンの言葉に犀星が頷く。ことらは警戒しつつも後退して飛鳥達と合流。虎子や他の一同も、ウィリーもまた説明を聞く姿勢を見せていた。




