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第一二話「そんな未来は望まねぇ」Aパート




 兵隊型バクの襲来により内渚町では大量昏睡事件が発生した。バクの大群の襲来とその退却を知らないまま、人々は事件の対応に追われている。内渚町には近隣からある限り全てのの救急車が、警察車両が集まっていた。道路には赤い回転灯が連なり、まるで川のようだ。

 恋路いるかは駐屯地に隣接する寮の自室にいた。迷彩服に着替え、今まさに部屋を出ようとしたとき、飛鳥からの電話が入った。


「飛鳥さん、無事だったんですか? 心配したんですよ」


『俺とことらは大丈夫だが、ことりが眠ったままだ』


 いるかが言葉を失うのに対し、飛鳥は笑いかけているかを安心させる。


『生命に別状はないし、今日中には全部解決するさ』


「……内渚町で何が起こっているのか知っているんですか? 隊には非常招集がかかっていて、化学防護隊はもう出動しているって話なんですよ」


 飛鳥は『毒ガステロと勘違いされたのか』と呟いている。飛鳥が一呼吸置き、いるかに告げた。


『すまんが説明できない。俺とことらには行くところがあるんだ、君にはことりの看護をお願いしたい』


 いるかはかなり長い時間ためらっていたが、やがてため息をつく。


「全部終わったらちゃんと説明してくださいね」


『……あー、前向きに検討する』


 苦笑混じりにごまかしつつ飛鳥は通話を終える。飛鳥が一同に向き直ると、


「……合い鍵は事務所のロッカーに入っている。すまんが頼むよ」


「……わたしはこのまま調査を続行します」


 天馬と虎子もちょうど電話を終えたところのようだった。


「用事は終わったのか?」


 ことらの確認に飛鳥が、虎子が、天馬が頷く。


「眠ったままの家の者の世話を後援会の者に依頼した。これでもう後顧の憂いはない、あとは前に進むだけだ」


「よし、それじゃ行こうぜ」


 ことらが先頭に立って走り出そうとするが、その腕をたつみが掴んだ。


「ちょっと待ちなさい。どこに行こうと言うの?」


「そんなの決まってるだろ。金剛崎のおっさんのところだよ」


 当たり前のようにそう言うことらに対してたつみは困惑を浮かべる。


「金剛崎先生がこの事件の黒幕だと? どうしてそう考えたの?」


「夢の妖精に関わっている人間の中で、この場にいないのあのおっさんだけじゃん」


 当然のごとく述べられたことらの回答に対し、一同は少しの間沈黙した。


「……道理ではあるな」


「……根拠としては弱いけど、確認しないわけにはいかないわね」


 と天馬や虎子が頷き合う。


「そうですね。念のために確認し、間違っていたら謝りましょう」


 と真鶴が言い、一同が頷いて賛意を示した。


「――根拠がないわけじゃない」


 不意に、呟くようにそう言うのは飛鳥である。根拠?とことらが訊ねるが、飛鳥はそれに答えなかった。


「行こう」


 飛鳥が先頭に立って歩き出す。ことらや虎子達はその背中に続いて歩き出した。








 神社から金剛崎邸まではほんの数百メートル、歩いて一〇分もかからない距離である。飛鳥達は自動車を神社の駐車場に置いたまま、歩いて金剛崎邸へと向かった。

 そして今、ことら達が金剛崎邸を眼前にしている。一同を代表して天馬が数寄屋門に向かった。数寄屋門の前にはほんの五段ほどだが石畳が階段状に積み重なっている。その階段の一段目に足をかけたとき、門が内側から開けられた。


「金剛崎先生……」


 門から姿を現したのは金剛崎犀星、その人である。不意を突かれた天馬は言葉を詰まらせた。門前の犀星は悠然と眼下の一同を睥睨する。


「ふむ、大聖寺君か。それに、医王山君に一里野君も。三家とも一家揃って、今日はどうしたと言うのだ?」


 穏やかな、だが白々しい台詞にことらが舌打ちをする。


「何言ってんだよ! 今この町で何が起こっているかおっさんだって知ってるだろ!」


 いきなり喧嘩腰のことらに対し、犀星は穏やかな態度を保ったままだった。


「集団昏倒事件。その裏で起きている、バクによる精神エネルギーの大規模な収奪――もちろん儂もこの事態を憂慮し、心を痛めている」


 犀星は確かに沈痛な表情をしたが、ことらはそれを演技だと信じて疑っていない。


「この野郎……てめえがやらせておいて」


 とことらは歯を軋ませた。今にも犀星に襲いかかりそうなことらをたつみとゆたかが、


「待ちなさい」


「ちょっと待ってください。あの人からバクの気配が感じられません」


 と抑えている。犀星はそんなことらを、笑みを湛えつつ見下ろした。


「どうやら医王山ことらは儂がこの事件の黒幕だと決めつけているようだが、お前達もそうなのか?」


 天馬は「いえ、そういうわけでは」と言い訳しつつ、内心では犀星が黒幕だと確信していた。それは虎子や真鶴、他の者も同じである。


「いくつか確認したいことがあります。どうかご協力を」


 虎子の要請に「それは構わんが」と頷きつつ、犀星はどこか可笑しげな様子だった。


「尋問だろうと家屋捜索だろうと、気が済むまでやるがいい。だがそれで儂が黒幕だという証拠が出てくると思うのか? 普通の事件ならともかく、夢の世界を舞台としたこの事件の」


 虎子は内心で舌打ちをした。犀星のその態度は「絶対にボロを出さない」という自信の表れであり、一方の虎子はその犀星を突き崩せるだけの自信を持てなかった。


「このおっさんが黒幕に決まってるじゃん、もうぶっ飛ばそうぜ!」


 と後ろでことらが騒いでいて、それをたつみが羽交い締めにしている。虎子は内心で自分の娘に同意するが、それでも踏ん切りを付けられないでいた。だがそのとき、


「親父……?」


 飛鳥が一同から抜け出し、前へと進み出た。飛鳥は無言のまま特殊警棒を取り出し、それを構えた。それを見た犀星も顔から笑みを消す。犀星は自分から石段を下りて路上に、飛鳥と水平の位置に立った。


「――っ!」


 無言のまま飛鳥が犀星へと突進する。犀星は道着の懐から鉄扇を取り出し、それを剣のように正眼に構えた。大きく振りかぶった特殊警棒が渾身の力を込めて振り下ろされる。だが犀星はそれを鉄扇で受け止めた。両者が硬直したのは刹那の時間でしかない。犀星が小手先で鉄扇を一回転すると、特殊警棒はまるで魔法のように飛鳥の手から失われた。一瞬だが棒立ちとなる飛鳥の隙を犀星は決して見逃さない。鋭い蹴打が飛鳥の腹へと叩き込まれ、その身体は後方へと吹っ飛ばされた。


「親父!」


「大丈夫?」


 飛鳥と虎子が思わず飛鳥の元へと駆け寄る。飛鳥のダメージは大したものではなく、飛鳥は顔をしかめつつも自力で立ち上がった。


「……先生は覚えていますか。俺が最初にあなたに喧嘩を売ったときのことを」


「ああ、覚えているとも。そのときに使ったのもこの技だ」


 犀星は懐かしさを、弟子への深い愛情をその顔に湛えている。一方飛鳥もまた懐かしさを、師匠への敬愛を顔に浮かべていた。だが、


「俺はこの技を覚えようとしたが結局覚えられなかった」


「当然だ、これは儂の奥義の一つ。余人に簡単に真似できるものではない」


「その技を――バクが使っていたんだよ!!」


 それ以上に深い悲しみと怒りが咆吼となって轟いた。犀星の表情から笑みが消える。


「あんたがこの事件の黒幕だという証拠は、俺にとってはこれ一つで充分だ。今からあんたをぶちのめす。経緯を全部吐かせて、事件の被害者に償わせる……!」


 戦意を燃え上がらせた飛鳥が格闘技の構えを取った。その横に虎子が、そしてことらが並んで立ち、それぞれ戦闘体勢を取っている。それを前にした犀星は疲れたようなため息を一つついた。


「……口車でお前達を追い返せる、と思っていたわけではないが、まさかそんなところから露見するとはな」


「それではやはり先生が――何故です! 何が目的なのです!」


 犀星は天馬の問いを、その指弾を無視して背後を振り返った。


「来い、レンよ! 我が盟友よ!」


 その呼びかけに応じ、数寄屋門の上にレンが姿を現した。レンはいつものようにフードとマントでその姿を完全に隠している。


「やはり干渉派か……! 一体何が目的だ!」


 レンはロビンの問いに何も答えないまま、口の中で何かを呟いた。その途端、


「な、何だ?!」


 まるで地震のように足下が強く揺れ、ことら達の身体がふらついた。だがそれも一瞬だ。水平に立ったことらは、


「な……!」


 レンを見上げようとして言葉を失った。まだ日中の時間帯なのに空の色が夜のような紺色となっている。中天にあったはずの太陽がかき消えたのに、周囲の状況は昼間と変わらずよく見えた。


「夢の世界に転移した? 結界も張らずに?」


 たつみの推測をレンが肯定する。


「夢の世界に精神が転移している間、魔法少女の身体は無防備となる。結界を張るのはそれを守るため。今、あなた達の身体は金剛崎邸の前で無防備に転がっているわ」


「わたし達の精神を抜き出しておいて、無防備な身体を攻撃するつもり?」


 虎子が焦燥を隠しながら問うが、レンは「まさか」と首を横に振った。


「大丈夫、あなた達の身体に危害を加える者は誰もいなくなる」


 レンのその言葉を合図に、ことら達の上空が黒一色となった。雲霞に等しい群れが空を覆っている。空を黒く染め上げている――無数に等しい蜂の形のバクの群れが。そしてその群れの中心には女王型バクの姿があった。


「こ、これは……」


「やはり死んだわけではなかったのか」


 誰もがその光景に戦慄を禁じ得なかった。その中でことらは己が怯懦に牙を剥くように、


「てめえ!」


 とレンへと吠えている。


「何を企んでやがる!」


「この兵隊型バクを増殖させるわ。このバクが日本全てだけでなく世界全てを覆い尽くす。そのときこそわたし達の理想の世界が実現する……!」


 歌い上げるようなレンの物言いにことらは完全にぶち切れた。自制心など地平線の彼方へと放り捨てる。


「またことりから精神エネルギーを奪うつもりか!!」


 一瞬で魔法少女に変身したことらが一気に距離を詰める。ことらの右手が戦輪をメリケンサックのように握り込み、その拳がレンの胴体を貫かんとした、そのとき。


「おいたはいかんな」


 ことらとレンの間に犀星が割り込んだ。犀星の裏拳がことらの胴体に命中、ことらの身体は軽々と吹っ飛ばされた。


「ことら!」「ことら!」


 飛鳥と虎子の声を受けてことらが悪態をつきながら立ち上がる。ダメージらしいダメージは受けていないようだったが、子供が攻撃されて黙って見ているだけの虎子達ではない。虎子と飛鳥は即座に魔法少女姿へと変身した。さらにはそれを見、たつみが、ゆたかが、龍子が、鷹子が、天馬が、真鶴が、その場の全員が魔法少女の姿へと変身する。犀星は九人の魔法少女によって完全包囲された。


「先生を抑えるのに一部残して、あとの全員であの女王型バクを倒す、それでどうだ?」


「それでいきましょ」


 飛鳥の提案に虎子が頷く。他の面々も異存はないようだったが、


「それは困るな」


 と犀星が異議を唱えた。


「お前達との戦いはできれば避けたいが、かと言って気を抜くつもりはない。儂もまたこの場に相応しい戦装束を身にするとしよう」


 犀星は無手の掌を高々と掲げる。まるで太陽を掴むかのように手を掲げ、


「……まさか」


 とことらは猛烈に嫌な予感を覚えるが、それはすぐに現実のものとなった。


「ドリーム・カム・トルゥー・パワー・ウェイクアップ!」


 野太い声がそのかけ声を高らかに謳い――その瞬間光が怒濤となって全てを呑み込んだ。眩しい光の渦の中にあり犀星の姿はシルエットしか識別できない。その犀星の道着が光の中に溶けて消え、犀星は全裸となっていた。……肩胛骨まで伸びた総髪もまた光に溶けて消えていたので、どうやらそれは衣装と同じ扱いらしい。銀河の星屑を撒き散らしながら飛んできたリボンが犀星の胴体に巻き付いてレオタードを、さらには金色のドレスを形成する。一際大きなリボンが胸元で結ばれ、黄金のブローチが形作られた。最後に、脈絡なく再び沸いて出た長髪が金色のリボンによりツインテールに結われ、魔法少女の姿が完成する――ただしそれを身にしているのは、筋骨隆々の、巌のような容貌の、立派な口ひげを蓄えた、六〇過ぎのじいさんである。


「歪み荒んだ人の世で、今こそ輝くサムライ魂! 彷徨う人々導いて、ここに爆誕黄金の武士! 金の魔法少女・ゴールデンライノーに跪きなさい!」


 しかも口上付きである。ことらは我知らずのうちに失意体前屈の体勢となっていた。戦う前から敗北寸前の精神的ダメージを受けている。


「まさか先生まで魔法少女に……!」


「難敵だぞ、これは」


 一方大人達はあくまでシリアスだった。どれだけ格好がふざけていようと金剛崎犀星が強敵であることには変わりない。九対一でも勝てるかどうか――脳裏を過ぎったその不安を、飛鳥は頭を振って打ち消した。


「俺が先生を抑える!」


「わたしも行くわ」


 未だ脱力していることらを放置し、飛鳥と虎子が犀星へと突撃。飛鳥の特殊警棒が、虎子のチェーンが犀星へと襲いかかった。が、


「その程度か!」


 チェーンを空中で鷲掴みにした犀星が力任せにそれを引っ張り、虎子の身体を引き寄せる。体勢を崩した虎子に犀星が蹴りを入れ、虎子は地面に転がった。さらに、特殊警棒を振り下ろす飛鳥の腕を掴み、手首の関節を極める。手首を折られるのを防ぐために飛鳥は自分から一回転しなければならなかった。飛鳥の背中が字面に叩き付けられる。


「そんな……おじさんとおばさんがこんなに簡単に」


 声を震わせるゆたかは無意識のうちに一歩後退っていた。飛鳥も虎子もチンピラの一〇人くらいは一方的に叩き潰せるだけの戦闘力を持っているのに、その二人がまるで子供扱いなのだ。犀星の武がどれほどの高みにあるのか、ゆたかには見当もつかなかった。


「やっぱり強いわね」


「ああ。だが我慢比べなら負けねえよ」


 虎子も飛鳥も戦意を失ってはいなかった。が、攻めあぐねいている。二人は犀星を包囲するが、嫌な汗を流しているのは二人の方だった。


「――二人が先生を抑えているうちに」


「そうだ、女王型バクを倒せれば――」


 犀星と飛鳥・虎子の戦いに目を奪われていた天馬や龍子達だが、それも長い時間ではない。彼等は自分達の役割を思い出しそれを果たさんとした。天馬達が女王型バクへと攻撃を仕掛けようとし、


「あ、待て!」


 女王型バクが逃げていく。天馬達はそれを追い移動した。




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