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黒薔薇の騎士団  作者: すずしろ
EX Episode-4
61/77

とある世界線の物語ー2

 「あ……」

 不味い、非常に不味い。私は、そう思って私はゆーちゃんを連れてダッシュで逃げます。絶対、お姉ちゃんは私を追いかけてくるだろうし……こうなれば、奥の手を使うしかありません。

 「ゆーちゃん、ちょっとだけ目、瞑っててね!」

 私は魔力を使って、一気に壁面を走りぬけようとします。でも、人通りが多めなこの場所でそんなことをすれば、確実に悪目立ちです。お姉ちゃんに見つかるとかのレベルじゃ済まないです。だから、もう一つ細工をします。

 「『透過煙ステルススモーク』」

 気配を消す魔法を使い、大きく跳躍。明日香は夕妃を抱いて壁面を駆け抜ける。後ろをちらりと見ると梓は今も、明日香を探しているようだった。


 一気に明日香は大通りを駆け抜け、夕妃の家の近くまで走り抜けた。数キロは離れていたのだが、それでも息一つ切らせていない。夕妃は今もぎゅっと目を瞑っているので、明日香は慌ててもういいと声をかける。

 目を開けて、明日香の腕から降ろしてもらうと。

 「えっと、あの人…誰なんですか?」

 夕妃が困ったように聞くと、明日香はなぜかシンクロしたように困った表情で。

 「ああ…私の、お姉ちゃん」

 「え…!?」

 夕妃は、露骨に驚きの表情を見せる。想像はしていたのだろうが、いざ言われると予想とは大分と違っていたのだろう。

 そんな表情を予想していたのか、明日香は苦笑し言葉に詰まっている。

 「えっと、その…想像と、違っていたので…」

 夕妃の困り気味の回答に、明日香も申し訳なさそうな顔で応える。

 「仕方ないよね…お姉ちゃん、私がいないときはそれなりに真面目なんだけどね~…」

 「あ…そうなんですか?」

 「そうだよ~お姉ちゃん、真面目なときはすっごくかっこいいんだけどね…」

 明日香が本気で残念そうに呟くと、夕妃はくすりと笑う。何かおかしな事を言ったのか、首をかしげると。

 「いえ…明日香さん、お姉さんの話をするときは凄く楽しそうに話すので、ちょっとおかしくて」

 そう言われ、明日香は顔を赤くする。

 「うぅ、ゆーちゃんそんな事言わないでよ。恥ずかしいじゃん……」

 恥ずかしがっている明日香を見て、堪え切れずにもう一度笑う。

 家の前でそんな会話をしていると、家の門が開き従事の人間達が現れる。

 「明日香様。お嬢様のお送りありがとうございます」

 夕妃は、明日香に手を振っている。明日香も同じように手を振って別れを告げる。門が閉まると、周りは改めて静寂で包まれる。

 明日香はしばらく歩いて、少し大きめの公園に入ると。

 「……よくここが分かったね」

 そう呟くと、男が複数名出てくる。その手には、トンファーや鉄パイプといった陳腐な武器から、拳銃などの危険なものまで取り揃えられていた。

 「仲間に連絡して、正解だったな。これで、たっぷりと可愛がってやれるからなあっっっっっ!!!!!」

 先ほど明日香にコテンパンにされた不良が、吠えながら襲い掛かってくる。その隙だらけの動きに、どれだけ攻撃が打ち込めるかのんびり考えながら、ぎりぎりのラインで躱そうとすると───


 「なぁ~にやってるの?あ、す、か」

 刹那、時が止まったかのような悪寒が走る。明日香はその発生源は分かっているが、振り向くことができない。否、振り向きたくないのだ。

 今振り向けば、恐らく修羅のような表情の梓が出迎えてくれるだろう。この状況では、周りの不良など些細な問題にしかならない。今は、あの魔神のような姉からどうやって逃走するかだ。

 (逃げなきゃ、逃げなきゃ…にげにゃきゃ…)

 あまりに焦るせいで、脳内でさえ呂律が廻っていない。下手に動けば、確実に捕まる。狩られる側の思考など、ほとんど持つことは無かったが、今この瞬間身に染みて分かった。

 「っ!!び、びびってんじゃ、ねえよ!手前ら!」

 不良が声を荒げ、明日香に襲い掛かる。この瞬間だけは、不良たちに感謝をしようと思った。

 なぜなら次の瞬間。

 「明日香に、何しようとしてるの?」

 突然の突風が、不良たちを薙ぎ払う。暴風が吹き荒れ、少なくなった木々の木の葉が飛び散る。

 踏ん張りきれない、不良の男達は吹き飛ばされ受身もままならないまま、地面に激突する。痛そーと他人事のように感想を呟きながら、全力ダッシュでこの場から離脱した。

 後ろのほうから、明日香を呼ぶような声が聞こえたが、お構いなしにとにかく逃げる。流石の梓も自分の魔法で吹き飛ばした一般人を放置する訳にもいかないはずだ。


 「っ、はぁ………はぁ……」

 私の全力と強化魔法込みで走って十分ちょっと。町の風景はもう見えず、視界に広がるのは山と森です。

 ……と、言っても森はもう冬も近いし、葉っぱはほとんど付いていないけど。

 「逃げ切れた…?っていうか、逃げ切れて……」

 私の願いを込めた一言。

 でも、よく言うよね?

 「そんな事、無いよ?」

 現実は非情である。って、

 「あ、あの……お姉、ちゃん…?」

 とにかく、この場を切り抜けるのが、第一目標。無事に帰るのが第二目標。この一瞬で、そう決める。

 決めるのはいいけど、どうしよう?とか、考えているとお姉ちゃんが、

 「今から、選択肢を二つあげる。一つは、大人しく事情を説明した後、私にあんなことやこんなことをされる。もう一つは、あんなことやこんなことをされて、無理やり吐かせた後、あんなことやこんなことをする」

 「どっちも、一緒なんだけど…?」

 私の声が今のお姉ちゃんに届くわけも無く、お姉ちゃんは私に選択を強制してきます。これが、かの有名な任意の強制です。

 「で?明日香はどっちがい~い?」

 笑顔のお姉ちゃん…凄く、恐ろしいです…。

 多分、このままだとどっちも変わらないし、どうにかしてお姉ちゃんのお仕置き、というか自分が楽しみたいだけだと思う…それを、どう軽くするかが問題なんだろうけど。

 「えっと…大人しく帰って、事情を説明するからお仕置きなし…じゃ、ダメ?」

 困ったときは上目遣いでお姉ちゃんに頼み込めば、大抵は何とかなるはずなんだけど、今回もそれで大丈夫だよね?

 「ダメ♪」

 無理でした。どうしましょう、チョロくないお姉ちゃんは初めてです。私としても、これ以上はちょっと恥ずかしいので遠慮したいのだけど、身の安全には変えられませんからね。

 「えっと…ちゅーで許して、くれない?」

 あ、考えてます。すっごい考えてます。これなら、後一押し位すればいけそうですね。

 「じゃ、じゃあ…ぎゅって、するから……」

 この時は、顔を恥ずかしそうにするのがポイントです。もう慣れた、とか考えてしまっては好感度が下がってしまいますよ?

 「う、うぅぅ~~!」

 考えてる、凄く考えてるよ、お姉ちゃん……。もう、それでいいじゃん?さくっとOKしちゃおうよ、ね?

 きっと、心の声が漏れていたらここでOKなんて貰えないでしょうが、私はそんなヘマをやらかす娘じゃ、ありません。

 「わ、分かった……その代わり、約束だからね!絶対、帰ったら約束守ってよね!!」


 結局、屋敷に帰った後に、明日香はたっぷりと梓に可愛がられた。もちろん性的に、だ。心身に追い打ちをかけられ、梓の部屋でぐったりとうな垂れている。

 「あ、うぅ…ローションでベタベタ…お風呂借りる、から…お姉ちゃん」

 ローション以外の色々な液体も、混ざり混ざって髪どころか全身がベタベタとしており、部屋に帰ってお風呂を使うまで、我慢できないのか明日香はのろのろと浴室の扉を開いて入っていく。

 「いってらっしゃい~」

 梓は明日香を浴室に送り出すと、そそくさと明日香にお仕置きしたときに脱がせた明日香の下着を回収している。その、抜かり無さを別の部分で発揮して欲しい、と言われかねないが、そういうものだと仲間内では既に諦められていた。

 「でも…今襲いに行ったって、つまらないだろうし…」

 梓の言うつまらないの基準が全く分からないが、今日は明日香が襲われることはないのだろう。

 「へっくし!……風邪、引いたかなぁ?」

 襲われるかそうでないかを決めている最中に、明日香はのんびりと身体を洗っていた。

 そして、いつも考えないようにはしていた例の事案を気にしてしまう。

 「……やっぱり、おっぱい…小さい?あぅ…でも、揉んだら大きくなるって誰か言ってた、よね?」

 そう言って、小さな胸に手をあてがう。そのまま、むにむにと揉んで見るが、

 「んにゅ…ん、う…」

 変な声が出てしまうだけで、特に実感は沸かない。いつも、梓に揉まれているし多少の効果は無かったかと、自分でも揉んで見たが、どうやらあまり変わっていなかったようだ。

 「んん……やっぱ、続けないとダメなのかな?」

 浴室の壁はただ、明日香の声を反響させるだけだった。


 さっぱりとして、パジャマを着てから警戒して扉を開ける。理由は言うまでも無い。出待ちを恐れていたが、そんな事は無くベッドの上で寝息を立てて眠っていた。

 大人しくしていれば、深窓の令嬢、姫なんて呼ばれてもいいような容姿をしているのだが、どうしてこうなってしまったのか、と明日香は一人頭を抱えていた。

 「なんで、こんな残念な性格になっちゃったんだろ…?────もうちょっと、大人しかったら私から……」

 そこから先は、恥ずかしかったのか、それとも梓が起きていて聞かれていると思ったのか口に出す事は無かった。

 明日香は梓にブランケットをかけると、そっと部屋を抜け出る。夕妃が、あれからどうなったのかも心配だったため、自分の部屋においてある特殊端末で向こうの様子を調べようとすると、

 「あれ…?反応が無い……」

 夕妃の家に対応する機械を置いていたはずなのに、まったく反応を示さない。事情はあの家の人間にも話しているので撤去された、という線は考えにくい。

 では、なぜ反応しないのか。考えられる可能性は、

 「単純なバッテリー切れか、それとも誰かに電源を切られたか……」

 一つ目はバッテリー切れ。これは可能性がなさそうに見えるが案外、そうでもない。世界ごとで流れる時間の早さが違う為、こちら側で一日過ごすだけで、一年が経過するという世界も存在する。

 二つ目は意図的に電源を落とした事。こちらは、誰がやったのか、特定する事はまだ簡単だ。最期に触った人間をこの装置は記録している。あちらの世界に行って、機械を調べれば、すぐに犯人は割り出せる。

 一番原因としてありそうな、誰かに壊される。というのは、あの世界ではおそらく不可能だ。あの機械のベースの金属はアダマンタイトを使っているため、ダイヤを切るための道具でも時間をかけなければ壊せないような強度を誇っている。

 とにかく、行ってみるしかない。そう思った明日香は、パジャマの上に服を着て夕妃のいる世界に跳ぶ。座標は家の目の前だ。願わくば何も無ければ、そう祈りながら明日香は世界を渡る。


 「予想は、してたけど……っ!!」

 最悪だった。家は半壊し、人の気配はまるで無い。それは、かつての梓の家を髣髴とさせる。トラウマを無理やりに押さえつけながら、家の中へと入る。

 「…くっそ…!」

 壁を殴りつけると、ぱらぱらと灰が零れ落ちる。だが、そうした所で状況は変わらない。

 明日香は、わずかでも手がかりがないかと、くまなく家の中を探す。

 「……これ、何?」

 見つけたのは、小さな紙切れだったがこれだけは不自然に焼かれていなかった。それを、広げてみてみると。

 「『私は、黒くて大きな塔の上にいく』……?」

 意味は分からなかったが、知る単語は一つあった。

 『黒くて大きな塔』それは、明日香達がよく行くゲームセンターの事だ。夕妃が初めて訪れた時に呟いた言葉だ。

 という事は、あのゲームセンターに夕妃はいるのだろうか。

 考えている暇など無い。明日香は、全力で走る。手遅れになってしまってからでは全てが無意味だ。

 マイナスな思考は、走るときに置いていき今出せる最高速で、あのゲームセンターに向かう。明日香の最高速なら、五分とかかるまい。疾風が町の中を駆け抜けるが、気配を消し人の物理的に通らない場所を通っているので、気づかれないで走る事ができる。

 「着いた、から後は探すだけ」

 明日香たちの通うゲームセンターは、確かに黒塗りの雑居ビルで、この辺では高めの八階構築だ。黒くて大きな塔、というのも頷けなくも無い。

 中に入ると、いつも通りの喧騒が辺り一帯の空気を支配する。

 「一階は、いつも行ってるから多分無いでしょ?探すけど」

 一階は明日香たちが、いつも遊んでいる音楽ゲームを中心に並んでいる。だからこそ、そこの地理は多少は詳しい。

 あそこは筐体が所狭しと並んでいる為、隠そうとしても従業員の入り口近くにも台があるため、基本人がいる。それに、明日香たちはあの見た目で、相当な実力者の為、実は結構顔が知られている。

 だから、一階に閉じ込めると相手の方が分が悪い為、おそらくいないと断定する。もちろんいないとは限らないが、可能性は他の階よりも確実に低い。

 「とにかく、しらみつぶしに探す」

 抜け道も一応あるにはあるが、人が大勢いる場所で使うわけにはいかない技だ。階段を駆け上がり、二階へと場所を変える。この場所は一階から四階までがゲームセンター、なぜか五階から七階が飲食店、一番上が芸能事務所という少し変わった配置になっている。

 そして、やはりこれだけ広いと、場所を絞る事もできない。だから、

 「ちょっと、人の少ない場所ないかな?」

 この階はどうやら、シューティングがメインのようで、いたるところで銃声とゾンビや化け物の叫び声が聞こえてくる。

 とりあえず、この階にあるトイレを探しそこに入る。

 「ここなら…誰も、来ないよね?」

 ばたん、と扉を閉めると明日香は魔法を詠唱する。属性魔法はからきしだが、それ以外なら多少は使う事ができた。

 「『魔力探知マジックソナー』」

 この魔法自体は初心者にも扱う事のできる魔法だが、魔力の大きさに比例して探知できる範囲が大きくなる。従って、明日香はかなりの範囲を探知する事ができるのだ。

 気配を視覚化するこの魔法で、見慣れたものが上のほうに存在しないか確認すると。

 「────いた」

 場所は、ちょうどこの場所の真上、おそらく最上階にいる。ここまで来たなら、もうやる事は一つ、否、二つだけだ。

 「待っててね、夕妃」

 明日香はトイレに取り付けられていた通気用の窓を開けると、緋焔を呼び出して、その壁を切り落とす。

 そこから、外に出てさながら忍者の如く、窓を足場にして最上階に到達する。

 「見つけたよ、夕妃」

 もう一度、窓を切り落とし、派手な音と共に侵入する。今更、他人に知られたところでどうということは無い。

 「ん、んん~」

 布を噛まされて、自由に言葉が発せていなかったため、布を切って外してやる。ぱさりと布が床に落ち、夕妃は大きく深呼吸をして見せる。それを見て、明日香はくすっと笑った後、頭をポンと撫でて。

 「ちょっと、離れてて」

 夕妃は大人しく明日香のそばから離れる。大体そういう時は本当に離れていないとひどい目に合う。

 刹那、剣閃が走ると真下の床がくり貫いたように穴が空く。下の階で、驚く人がいないのはなぜだろうと夕妃が思い、覗いてみると。

 「あ、なるほど」

 真下はトイレなどのそこまで人がいることが少ない場所ばかりだった。もちろん、その音を聞いて夕妃を攫った奴らが黙っているわけもなく、勢いよく扉が開き。

 「何だぁ!?今の音は!?」

 明日香は夕妃の背中をそっと押し、下りるように指示をする。明日香は大丈夫なのか、という視線がかかるが、ウインクして答えてみせるとそれを信じて、ぴょんぴょんと飛び降りていった。

 「後は、お前たちを片づけるだけ」

 先ほどとは、打って変わって冷酷な声に変わり、目の前の男たちを物を見るような目で一瞥すると。

 「何で、男の人って……いいや、話しても分かってもらえないだろうし」

 ため息をつきながらそう言う明日香に、男たちは。

 「んだと!?餓鬼のくせに言わせておけば!!」

 男たちは拳銃を取り出して、銃口を明日香に向けようとしたが、

 「で?どこにそれ、向けてるの?」

 一瞬のうちに、男たちの背後に回る。そして、柄から緋焔の刃を覗かせ、

 「死なないようには配慮してあげる」

 男達が反応する間もなく、その柄で黙らせられる。何もさせずにすべての人間を無力できたかと思ったが、

 「ケッ…喰らいやがれ!!」

 身を隠していた男が場をわきまえずにショットガンを放つ。銃弾が乱反射して、無差別に部屋を蹂躙する。それは、撃った男とて例外ではなく、跳弾によって絶命していた。

 明日香はというと、超人的な反射神経で躱し、回避が不可能なものは柄で弾いていた。窓ガラスが割れ、

部屋の原型が留められていない場所で、明日香は一人、ふうとため息を吐いて。

 「……早く、出よ。周りの人にも迷惑だから」

 そんな言葉を残して、外に出る。


 外に出て、夕妃と落ち合った明日香は。

 「ごめんね、ゆーちゃん。私、もう来れない、と思う」

 「え!?どうして、ですか!?」

 いきなり言われれば無理もないだろう。だが、明日香は首を振るだけで、理由は何も言わない。

 理由を言えと言わんばかりの目線に、明日香は申し訳無さを感じつつ最後に、と前置きを置いて、

 「力は、傷つけるための力じゃない。もし、使い方を間違ればそれは、ただの暴力であって力じゃない。それを覚えておいて」

 明日香はぽんと肩に手を置いて、通り抜ける。

 「え…?」

 振り向くとそこには、もう何処にも明日香の姿はなかった。


 それから、夕妃は一人で家路につくと迎えの者が必死の形相でこちらに向かってきた。

 話を聞くと今日、自分は一人で朝に外に出て、今の今まで帰ってこなかったという。明日香がいた、と夕妃は言ったが、家の誰もが明日香の存在を忘れていた。

 まるで、元からこの世界にいなかったかのように。

 それを聞いた夕妃は、もう一度家を出てあのゲームセンターに向かう。そこの常連は何度も、二人の顔を見ている。だから、と考えたのだが、やはり同じ結果で自分一人しか来ていないと言っていた。

 なぜ、自分だけが覚えているのか。そして、なぜ自分以外誰も覚えていないのか。

 それが、最後に言っていたもう来れない、という言葉のせいなのか考えるが、全く分からない。どうしてだ、なんて感情が表に出るが、やはり一番支配している感情は悲しみだった。

 「明日香、さん……」

 考えても、答えは思い浮かばない。受け取った最後の言葉、それを胸にしまい込み。新たな目標を立てる。

 「私、明日香さんみたいに強くなります…!それで、私…明日香さんに絶対にもう一回会って見せます!!」

 夕日が沈み、夜が来る。そして、また朝が来て、時は巡る。異端が居なくなり、世界は正常なバランスを保ち、回り続ける。

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