吸血鬼の王
「おおっと、そんなの効かないよ~♪」
明日香が吸血鬼の突いてくる槍を軽々と躱すと、カウンターで回し蹴りをお見舞いする。リュカの守りにはアリスをつけた為、並みの吸血鬼ではアリスに触れることすらできずに吹き飛ばされてしまう。
「私の住処を壊そうとしたバカどもにはきっつ~いお仕置きよ!」
レイルカの手に持っている魔導書から、巨大な氷柱が相手を貫く。それだけではなく、霧化して逃げ出そうとした者達には、光弾を叩き込み止めを刺すほどの容赦の無さだ。
「わ、妾を守ってくれるんじゃないのか!?」
「守ってるよ。ますたーの命令だもん」
リュカとアリスは当たり前なのだが、吸血鬼との戦闘が一番激しい。だが、主力となりえる相手とは明日香達が相手をしているから、激しさはあるが、戦闘自体への厳しさ、というものはアリスにはなかった。
「みんなよわっちい。ますたー達が足止めしてくれてるお陰」
アリスはそう言って向かってくる吸血鬼を別の吸血鬼に投げつける。遠心力や体全体を使う投げ方ならば体の小さいアリスでも十分と言ってもいいほどの飛距離を飛ばす事ができるのだ。
そう言ってぽいぽいと吸血鬼を投げている様子はなんだか無双系のゲームのような気がしてならないと、リュカは心の中で思った。
「ちょっ、アリス!こっち投げないでよっ!」
梓の方向へ投げられた吸血鬼を光の矢を飛ばして撃退する。アリスは梓の事を気にも留めず、
「倒せるなら、べつにいい。ますたーが一番たいせつ」
アリスはそう言い切って、また吸血鬼を投げ飛ばす。梓はうにゃ~!!と奇声を上げながら、光の矢を連続で吸血鬼に飛ばしている。しかもでたらめと思わせておいて計算しつくした打ち方のため、なかなか躱す事ができず次々と倒されていく。
「中々に骨が折れますね……貴方達ならこの数で対処できると思ったんですが……もしかしたら一番の誤算だったのかもしれません」
明日香と戦っている吸血鬼がそんなことを呟く。心の中で「舐められてるなぁ……」と小さくため息をつきながら、
「見かけで強さを決めちゃダメって教わらなかったのかしら?」
明日香は挑発するようにそう吸血鬼に言ってのける。吸血鬼は微苦笑すると、バックステップから短剣を投げつけてきた。明日香はそれに冷静に対処、そして格闘戦で戦っていた明日香が緋焔を抜き、吸血鬼の胴体をめがけて一閃。
「しかも武器を使わないなんて一言も言ってないんだからちょっとは警戒しなよ……全く、何か今回の襲撃な~んか雑じゃない?」
明日香は緋焔を左右に振り、鞘に収めると襲ってきた別の吸血鬼をあしらいながら梓に聞いている。
梓も吸血鬼が襲ってくる波が小さくなってきたのか、ちょっと雑に魔法を使っている。レイルカだけは容赦なく吸血鬼を殲滅しているが、レイルカの家もろともリュカを狙ったとばっちりだろう。
「雑…?ああ、そういうこと…確かに今回襲ってきたやつら、強さが安定しないっていうか、強さにばらつきがあるって言いたいの?」
「あ~うん。そういうこと。今回強いのと弱いのの差が激しいと思うの。言うならスラ○ムとギガントドラ○ンくらい違うと思うの」
明日香の言い分は流石にどうかと思うが、それでも差があるのは確かだと梓も実感していた。梓の光の矢のフェイントに引っかかる相手と引っかからない相手。比率だと6:4、それかもう少し前者の比率が高い。と言ったところだろうか、強さにばらつきがあるのは単純に人が足りなかったのか、それとも別の何かがあるのか───
「私は別に何とかなるから、仲間のところに行ったら?もしかしたらそっちにやつらが行ってるかもしれないわよ」
レイルカの一言に明日香は、どうしようか迷う。もしかしたら自分達を襲ってきた吸血鬼よりも強力な刺客が襲ってきているのかもしれない。そう考えると、どうにもそのまま別行動、と言う選択に踏み切れない。
そう考えていると梓が、
「そう心配しないの。アリシア達も、柚姫達も強いでしょ?信じてあげなきゃ」
そう言われて、明日香も覚悟を決めた。
「そうだね…信じてあげなきゃ、仲間じゃないもんね!」
その頃、柚姫達は。
「鏡~情報集まった~?」
柚姫が気だるそうに鏡華に聞いている。鏡華はむ~、と口を尖らせて、
「集まった~?じゃないよ!いくらじゃんけんに勝ったからってちょっと酷すぎない?」
柚姫がだる~ん、としている理由は鏡華も言ったとおりじゃんけんで情報収集の割り振りを決めたのだ。30分の捜索をじゃんけん一回で決めているのだが、鏡華が弱いのか柚姫が強いのか3回連続でじゃんけんに負けている。
「しかたないじゃん。だって鏡華が弱いんだもん♪それにこのルールを決めたの鏡華でしょ?ちゃあんと責任とって情報探してよね~」
そういいながら、ちゅうちゅうとジュースを吸っている。にがい~と口を歪めて、ちゅうちゅうとさらにジュースを飲んで結局全て飲み干していた。
「うう~今度は絶対勝ってやるんだから~!」
涙目の鏡華を尻目に今度はまた別のスイーツを取り出して舌鼓を打っていた。鏡華が恨めしそうに柚姫を除いていると、柚姫は鋭い視線を空に向ける。
「誰!?」
「おや?ばれてしまいましたか。仕方ありませんそれでは───しばらく寝ていてもらいましょうか!」
突然吸血鬼が襲い掛かる。恐らくリュカを狙う吸血鬼たちなのだろう、目的は多分自分達を捕らえて高尚のカードにする事、と言ったところだろう。
「鏡!」
「分かってる!」
呼びかけに素早く答え、吸血鬼の腹に向かって回し蹴り。吸血鬼は翼を羽ばたかせ、回避するが柚姫にとってはそれが狙いだった。
「『接続』!『天姫槍』!」
柚姫の手に三叉槍が握られる。そしてその槍を間髪入れず吸血鬼に投げつけた。敵も素人ではない、動揺を最小限に抑え、回避行動を取る。だが、そこまでが計算されていたことを吸血鬼は気付けなかった。
「このっ!!」
建造物の壁を足場にして飛び、そのまま槍を足場にして吸血鬼の上に飛んでそのまま踵落しをお見舞いする。驚愕の顔に変わった吸血鬼の頭にクリーンヒットし、轟音と共に地面に叩き落した。
数十メートルの高度から一気に加速して落下などしたら普通ならば大怪我どころか死んでもおかしくないのだが、そこは吸血鬼。なんともない、とまでは言わないが口が利ける程度には無事だった。
「さってと、この人は一体誰に頼まれて私たちを襲ったんでしょうかね~」
柚姫の楽しそうな声には、嗜虐の笑みが広がっていた。鏡華はそれを横で見ながら、
(あれ?ヒメってSじゃないよね?………Sじゃないよね?)
鏡華が心の中でびくびくと震えていた。多分大丈夫だろう、そう信じたい。
そして吸血鬼のほうはと言えば、柚姫のその迫力に気圧されていた。
「主の事を言うわけにはいかない…殺すならさっさとするといい…」
覚悟を決めた吸血鬼は柚姫にそう吐き捨てる。だが、やはり死の恐怖というものは拭いきれないのか、僅かにだが身体が震えていた。
槍を手にしてどうしようか迷っている様子の柚姫だったが、本心は既に決まっていたのだろう。槍を消すと、吸血鬼に近づいて、
「ふ~ん死ぬのが怖いんだ~♪────ま、誰でもそうよね。良いわよ、別に逃げても。その代わり……次はあなたを殺すからね?」
そう耳元で囁いた。吸血鬼は悔しそうに顔を歪めると、霧に姿を変えて消えていった。鏡華は、自分の空けた穴に滑り降りて、柚姫に話しかける。
「本当に良かったの?あんなことして……」
「別に?明日香も梓も敵はみんな殺せ、なんて一言も言ってなかったし」
柚姫はあっけらかんとそう言ってみせる。鏡華はため息を一つついて、
「そうですね…まあ、明日香さん達に何か言われないことを祈りましょう……」
頭を抱えて、また情報収集に励むのだった。
「な~んなんですかねぇ……私が外に出ると必ず何かに襲われるのは……まぁ、前にあった触手だらけの地獄見たいな所よりはよっぽど良いけどね!」
凜は機銃を構えると、吸血鬼に相対する。マルモも同じく二丁拳銃を構えて、
「じゃあ、早く終わらせましょう。凜、『あれ』やれば早いでしょ?」
マルモが意味深にそんなことを告げる。もちろんそんな攻撃をさせたくない吸血鬼達は、すぐに戦闘を終わらせようと突進してくる。
「あ…そこ、危ないですよ~」
リゼリアの手には刃の部分が無くなった爪を両手に持っていた。そのまま何かを手繰るようなしぐさをした瞬間。
「っぐああああっっっっっ!!?」
複数の吸血鬼達が苦しみの声を上げて体が二つに分かたれた。リゼリアの手元には目を凝らしてもほとんど見えないほど細い糸があり、それを器用に操っていた。糸の先には爪の刃の部分があり、爪に糸が収納される仕組みになっているようで、糸は爪の中に吸い込まれるようにしまわれていた。
「だから言ったのに…危ないですよって……」
リゼリアは言わんこっちゃない、と言った感じで呟いたが、そんなこと言っても急には止まれないし、そんな仕掛け初見で気づけるわけがない。
「リゼのは相変わらず初見殺しねぇ……見切れたのって誰かいたかしら?」
凜がしみじみと呟くと、リゼリアがう~ん…と真剣に考え込んで、
「確か…これを使い始めて何度かやった後に翠さんと戦ったときだけは躱されましたね…」
「翠は…まぁ、仕方ない、というか…ノーカンでしょ…」
凜が苦笑いしながら、リゼに返す。確かに翠はあらゆる意味で規格外の一言なので正直、躱されたとカウントしていいのかどうかは分からない。
「そ、そうですか…?」
「そうですよ…翠さんもカウントしたらそういうデータの意味がなくなりますよ……」
言われ放題の翠だが、それでも悪口ではないところがやはり翠の凄いところだろう。
一瞬で死屍累々となった中の一つの吸血鬼の死体にマルモが触れる。
「『死人に口なし』……とはよく言ったものね。───でも、死人だって情報持ってるのよね…フフ♪」
マルモが魔法を使って、情報を回収している。あの魔法はかなりの集中力を使うので、アリシア達は静かに見守っていた。
死体から手を離すと、マルモは愉快そうに顔を歪めて、
「なるほど…そういう事なんだ…♪」
「何か分かったんですか?」
アリシアはマルモに聞いてみるとマルモは、
「いや…多分私達はもう襲ってこないわ。それにしても…ふふ♪」
と、意味深な微笑を返すだけで、何も死体から得た情報は教えてくれなかった。
「ここなの…?レイルカが教えてくれた敵の本拠地っていうのは……」
明日香が不安そうに言うと、リュカが自慢げに、
「絶対そうだ!だってレイルカが言ってたのだ『どんなに口が堅くても死ぬことより恐ろしいことをすれば大体口は割ってくれる』って!」
さらっと恐ろしいことを言ってのけるリュカに微苦笑を返すしかなかったが、とりあえずここが本拠地なのは多分間違いないだろう。
見た目は中世風の古城。かなりの大きさだが人の気配はほぼ無い。その代わりに、魔物らしき気配がするのは番犬に近い扱いなのだろが、明日香達には番犬にすらならない。
「さ~あ、お宅拝見~♪」
扉を開けると、ゴゴゴ……と重苦しい音を立てて、扉が開く。中にも人の気配は無い。誰もいないのかと思って目の前にある中央階段を上ろうとした瞬間。
『誰だ……?我が城に入り込む虫どもは…』
突然、声が部屋中に響き渡る。と、同時に異常なまでに大きな魔力が真上に出現する。
『我はこの城の王にして『夜光の天皇』の名を持つ高貴なる血族だぞ?貴様らは我に宣戦布告しに来たのか?』
声の主と思しき者が天井から降りてくる。見た目は壮年の男性。だが、かなりの魔力がその身体から発せられている。油断はできないだろう。
「宣戦布告って訳じゃないけど…リュカを狙う犯人があんたなら倒すまでよ!」
明日香が緋焔と闢零を構える。梓はリュカを守るように立ち位置を微妙に変えて、リュカを守る。
「いいだろう…!ならば我の力に怯え絶望しろ!!」
夏休みの最終投稿になると思うのでまた少し更新ペースが遅れるかもしれません…そうなったときは生暖かい目で見守っていてくださいm(_ _)m




