魔道師さん働かない
閑話二本目です
銀世界で一つだけ色を持つ、古びた城の一つで少女は一人ぼやく。
「……眠い、まだ朝だし…もうちょっと寝とこ……」
天蓋つきのベッドから窓の外の様子を覗いて、朝日がさしていることを確認してもう一度夢の世界に旅立とうとしたとき、侵入者を探知する。
「誰…?結構強めの結界と排除用魔法使ったのに……」
気だるそうにベッドからのそのそと起き上がると、パジャマの姿のままで下に降りる。
その手には杖が握られていて、寝起きとはいえ、自分の防壁を破った人間を油断してはいないということだろう。
「だれ…?私、眠い……」
自分に用がある人間なんてどうせまた傭兵業か裏の仕事の人間なのだろうと思い、適当に受け答えする用意をしていたら。
「貴女、私の仲間になってよ!」
と、いきなりそんなことを言われた。流石にそんなパターンを考えたことなど無かったので、思考が一瞬フリーズしたが、すぐさまクールダウン。落ち着いて答えを返す。
「なんで、私があなた達の仲間に?」
改めてその声の主を見ると、黒髪の小柄な少女、年は12、3といった所だろうか。特に変わったところもなく、愛らしいというイメージがぴったりと当てはまるような少女だった。
その後ろで、苦笑しながら立っている二人は黒髪の大和撫子という言葉が似合いそうな黒髪の少女と、ショートカットの紫髪の少女だった。どちらも、あの少女よりも年上のようで、保護者のような雰囲気を出していた。
「だって、貴女私たちと同じ感じがするから」
少女は、そう言われ咄嗟に転移魔法で大弓を呼び寄せ、それを構える。
「私が、あなた達と同じ…?そんなわけないでしょ、ふざけないで」
自分に弓が向けられているにもかかわらず、小さな少女は何事もないかのように答える。
「一緒だよ、だって貴女寂しいんでしょ?」
その少女の目を見ていると、不思議な気持ちになる。それを無理やり魔法だと断じて、魔力の矢を引き絞る。
それでも、目の前の少女は恐れない。それどころか、こちらに向かってきたではないか。
焦燥が募り始め、狙いがうまく定まらない。少女へと続く階段を上ってきて、思わずその矢を持つ手を離してしまう。
魔力の矢は一直線に飛んで行き、少女の真横を貫き飛んでいく。飛んでいった先の壁は、綺麗に矢の形の穴が開いていた。
流石に今のは驚いたのか、少女の額には冷や汗が浮かんでいた。だが、少女は足を止めず、自分の目の前にまで来る。
「ふざけてないよ。貴女は一人になって寂しいんだよ、だから私たちと一緒に行こうよ?」
少女の声が悲しそうなものに変わる。少女は大弓と杖を転移魔法で自分の部屋に送り返すと、
「分かった、でも条件。私が今から言う素材を1ヶ月以内に持ってきてあなたたちの力を証明して、それが条件」
少女は嬉しそうに首を振ると、その素材の名前を反芻して覚える。だが、今自分の言った素材はどれも異世界の素材。この世界には存在しないのだ。だから、あの3人には絶対に集めることはできない、それを知らない少女は聞いてくる。
「貴女の名前を教えてよ!なんて呼べばいいのか分からないから!」
少女は答えてあげることにした。どうせ、もう会うこともないのだから。
「……エルザント・ノーブルス……」
「そう、じゃ待っててねエルザ!絶対戻ってくるから!」
そう言って3人の少女は嵐のように去っていった。
「エルザ、か……どうせ、また会うことなんてないのに……馬鹿みたい……」
エルザは独りになった城の中でポツリと呟いた。
あの事から今日でちょうど一ヶ月経つ。あの少女たちは今もこの世界に存在しない素材を捜し求めて奔走しているのだろう。そう考えると、少し心が痛むが自分と一緒に旅をするなどあり得ない。自分は一人だけでいいから。そう、答えを出したから。
はぁ、とため息を一つついて窓の外を見ようとすると、侵入者の気配がする。
そんなはずは無いと思いつつも、反応のある場所───城の正面玄関に下りていくと、
「エルザ~!約束通り持ってきた~!」
本当に、自分の言った素材を全て集めて持ってきた3人の少女の姿があった。
「……うそ……!?」
自分が言った条件とはいえ、クリア不可能なものを出したはずだ。それをクリアされてしまっては驚きもするだろう。
少女がはい、と差し出してきたものはまごうことなき本物だ。
どうしよう…と内心動揺していると、次は知らない気配、しかも複数の気配がこちらに向かってきた。
エルザは舌打ちして、少女たちに伝える。
「…3人とも、誰か来た。知り合い…?」
少女が首をかしげていると、後ろの黒髪の少女が報告してくれていた。状況を理解した少女は、エルザに答える。
「あ、なるほど。でも別に私に知り合いなんていないかな…」
苦笑しながら、少女は答える。ということは、本当に侵入者なのだろう。エルザは大弓と杖を呼び出して臨戦態勢に入る。
「じゃあ、倒しても良いんでしょ?」
「そ、そうだけど……それ、死亡フラグ……」
それから、数十秒後本当に侵入者が現れた。銀世界だから足音はほぼ聞こえなかったし、姿もほぼ見えなかったことからかなりの手練れなのだろうと、感じていた。
その後も、無理に正面から入ることはせず様子を伺っている。
「何で、すぐに入ってこないんだろう?」
「私だって、それなりに強いのよ?」
エルザはそう言って杖を構えるが、強そうな雰囲気はまったくと言って良いほど出ていない。
場内の雰囲気を感じ取ったのか、侵入者たちは周りで様子を見ているようだった。
攻めあぐねているのかと、疑問に思っていた次の瞬間、城壁が轟音を立てて崩れ落ちた。そこから、複数人の男女が煙に紛れて侵入する。
少女たちも、同じく戦闘体勢に入り、三人で三角形の形になるように固まっていると、魔法が飛んでくる。
エルザはその魔法に対しての対属性の魔法を打ち込んで魔法を無力化していた。
「エルザ、大丈夫!?」
エルザは大丈夫、と言いそうになって口をつむぐ。こんな状況で声など出せば場所を自ら場所を教えるようなものだ。
エルザは伝わるかどうかは別として遠話を使って、少女たちに大丈夫だと知らせておいた。
「ねぇ、どうする?何か私たち以外にも人来ちゃったし……」
少女が、困ったように首をかしげていると、紫髪の少女があごに指先を当てて、
「う~ん、別にエルザさんが呼んだって訳ではなさそうですので帰って頂きましょう♪もちろん強引にですけど」
「私は戦わなくて良いでしょ?雪那とリゼが全部やるんだし」
小さな少女、翠が頭の後ろで手を組みながらそう言うと、二人の少女───雪那とリゼは苦笑して、敵を一瞬のうちに撃退していく。その様は、まさに疾風迅雷というべき速さだった。
「え……!?」
エルザが戦っていた相手を倒して、周りを見てみればすでに侵入した相手は全員縛られて床に転がされていた。
「は~い♪皆さんお帰りの時間ですよ~♪」
翠は、侵入者を一人ずつ丁寧に(?)投げ飛ばして城外へと追い出していた。そして、翠はエルザのほうへと向きなおして、
「さて………改めてお願い、私たちと一緒に行こう?エルザ」
「……どうして……どうして私なの!?私以外にも一人の人はいるでしょう!?何で私にしたのよ!」
エルザが、翠に叫ぶ。翠は哀しそうな瞳をして、エルザに話しかける。
「……私達も、一人じゃなきゃダメだって、自分たちで一人を、独りを選んだの。でも…やっぱり、一人は寂しいんだよ?だから、私たちと行こうよ?」
その目を見たら、嘘は語っていないことが分かり、その気持ちも伝わってくる。
エルザは、断ろうとしても断れなくなり、口を開けられない。
言葉の無い時間が刻々と過ぎていく。翠は、エルザのほうをじっと見て答えを待っている。その様子だけを見ると、年相応の幼い少女にも見えて、余計にエルザに罪悪感を湧き上がらせていた。
いつまで待っていたのか分からないが、エルザが静かに口を開く。
「………分かったわよ……ここまでされて断るわけにもいかないし、一緒についていってあげる」
その言葉を聞いて、翠は顔を輝かせてエルザに飛び込んでいった。エルザは対応に追われていたが、あれも翠の愛情表現の一種だったので、雪那とリゼは何をすることもなく、笑顔で見守っていた。
「ふ~ん…エルザって昔、軍人だったんだ……それで、自分が武器を作るのが嫌になって一人になってたってこと…?」
エルザの話を改めて聞いて、思わず翠は小さく吹き出してしまっていた。
それを見て、エルザは顔を真っ赤にして反論する。
「な…!何がおかしいのよ!」
「いや……ごめんね、意外とエルザちゃんの悩みが意外とちっちゃかったんだな、と思って」
そう言われて、エルザはさらに顔を赤くする。今にも飛び掛りそうなエルザに翠は指を額につん、と当てて。
「ちょっとじっとしててね」
翠は、エルザの額に自分の額をこつん、と当てる。そして魔法をかけて、自分の記憶をエルザに見せる。
エルザは、ぺたんと床に座り込んで、少し震えた声で翠に話しかける。
「翠…こんなの……経験してたの……?」
恐ろしいものを見るような表情で、翠を見ているが翠は楽しそうに、
「ちなみに、リゼと雪那はもっとすごいんだけど……見る?」
「い、嫌!!」
エルザが今までで一番早く拒絶した。それほど凄まじい過去だったのだろう。翠はくすっと笑ってエルザにごめんね、と謝って。
「エルザの過去と比べるつもりは無いけど、それでも私の過去くらいは知って欲しかったから。私のことを少しでも知ってほしかったから」
これからよろしくね♪翠の言葉はそう続いた。
エルザは、仕方ないわね、といった表情でこれからよろしくね、と表情は苦笑しながら、内心では心からの笑顔でそう答えた。




