友達を探すため
明日香と梓が和解した後、エメルダの城の中の一室で話し合いをしていた。
「で?どうするの?結局柚姫達は連れて行くの?」
「ん?そうだよ柚姫たちだって今でもそれなりに強いから120秒コースでもしたら私達にも並べると思うの」
明日香の言う120秒コースというのが本人達は分かっていないようだったが、アリシア達は苦笑いして柚姫たちを見ていた。
その視線に篭っていたのは、死ぬなよ……、という哀れみのこもった視線だった。
「え~私良いって言ってないよ~」
エメルダの不満げな声に明日香は流れるようなスルースキルを発揮し、エメルダの不満を受け流す。
む~!と怒っているエメルダを完全に無視して、明日香は話を進める。
「ますたーあの人の話聞かなくていいの?」
「大丈夫よエメルダの話は8割くらい聞かなくて良いって柚姫が言ってたから」
エメルダが、明日香のその言葉を聞いて柚姫に何か文句を言っていたが、特に気にしなくても良いだろう。
とにかく今は柚姫たちを強くするためにも、自分達のギルドに入れることが重要だと、明日香は考えている。
「柚姫達が異世界で白亜を探すのは別に構わないけど、その代わり私達のギルドに入ってもらうわ」
「どうして?私達だけでも白亜を探すことはできるはずよ?」
柚姫の言葉に明日香は、聞いていなかったの?と言わんばかりの表情で答える。
「さっきも言ったように白亜を連れ去った奴はほぼ100パーセント柚姫達が勝てる相手じゃない。だから、二人には私達のギルドに入って特訓してから白亜を一緒に探してもらうことにするわ」
そこまで言い切られては、柚姫たちが返す言葉も無く、そのまま押し切られてしまった。
明日香はエメルダと何かを話しているようだったので、梓が柚姫たちのギルドへの入団手続きを始めていた。
「私達は別に貴女達に白亜さんを探すなって言ってるわけじゃないのよ?ただ実力不足だから、実力をつけるためにもギルドに入って私達のところで手っ取り早く強くなってもらったほうが貴方たちも効率が良いかなと思っての判断……だと思うわ」
実は梓もよく分かってなかったのか、頬をぽりぽりとかきながら二人に伝える。
柚姫たちもそれを聞いて、少し考え、そして答えを決める。
「……分かった、それで私達が強くなって白を探しやすくなるなら何も言うことはないわ」
そう言って、柚姫は鏡華の分までギルドの入団手続きの紙にサインしていた。
そうこうしているうちに、明日香たちの話も終わったのか、明日香が梓の隣に来て二人の入団用紙を見ていた。その後、よし!と元気な声を上げて、
「それじゃあ、ようこそ!私達のギルド『黒薔薇の騎士団』へ!歓迎するよ二人とも!」
明日香の元気な声につられて、アリシアやマルモもよろしくね、と再度挨拶をしてくる。
「じゃあ、細かいことは向こうに行ってからやるから皆、私達の近くに来て。緋焔たちは一回武器に戻ってもらうね」
そう言うと、明日香と梓は緋焔達を武器の姿に戻していた。柚姫たちも促されるまま明日香たちの近くに行くと、二人がブローチを合わせて鍵の形に変えていた。
そして、その鍵を小さな白い箱へと差し込む。すると、箱を中心に目を開けられないほどの眩い光に包まれ、意識が薄れていった。
がらんと人の気配が減って、エメルダだけとなった部屋で一人呟く。
「先輩達は…今、どこに居るんですか?また皆でわいわいお茶会したいです……どこかで、会えますよね先輩…」
光が消えていき、意識もはっきりしだし目をゆっくりと開けてみると、見えたのは一面の緑と、その先にある古びた小さな屋敷だった。
「ここが…異世界、なの?」
あまり実感が沸いていない様子の柚姫はそう声を漏らす。確かに、柚姫の世界は魔法が確立した世界だったため、これも転移魔法の一種だと考えたのだろう。
「そうだよ、マルモが言ってたけどこの『跳び箱』は中に『立体平行世界線移動魔法』って言うのが組み込まれているらしいの。私には全くわかんないけど」
明日香があっけらかんとそう言っているが、それなりに魔法のことをかじっていた柚姫と鏡華にはその魔法の凄さがありありと感じ取れた。
そもそも、その魔法を作り出すこと自体が異世界の技術を使っても不可能だといわれていたのに、それをここまでコンパクトに作り上げた魔法使いなら、どこかで絶対に名前を聞いているはず。と思わせるほど、高度な道具なのだ。
「私達は緋焔達の手入れをするから、アリシア達にお願いしていい?」
明日香がアリシアに上目遣いで、そうお願いするとアリシアは仕方ありませんね…、と照れた様子で明日香のお願いを聞き入れていた。
マルモは元からその気だったのか任せて、と一言だけ言うと屋敷の中に入っていった。
「さて、私達も入りましょう?しばらくは柚姫たちに案内とかしなくちゃいけないしね」
梓は二人を屋敷の中へと招きいれる。
「うわ……凄い…中こんなに広いの!?」
柚姫が驚いていると、目の下に隈ができている白衣の少女、凜がこちらにやって来て、
「凄いでしょう?見た目はあんなのですけど、中は空間拡張魔法がかかっていて見た目の何倍も広いんですよ」
柚姫達はそれよりも凜の事が気になっているようで、それに気づいてたのか、慌てて自己紹介をする。
「あ、ごめんなさい自己紹介がまだでしたね、私は藤宮凜このギルドの技術担当みたいなものです。もちろん戦闘もそれなりにできますよ」
凜のそれなり、という言葉に梓は怪訝そうな表情をしていたが、気づくことも無く柚姫達も凜に自己紹介していた。
その後は一通り設備などを見て周り、そのついでに二人の部屋も割り当てていた。今日やるべきことも終わり、梓は柚姫たちと一緒に食堂に向かっていると、ブロンドの髪の少女がフラフラと歩いていく姿が見えた。あの姿はアリスだと思うが、どこへ向かっていくのかが気になり、梓は柚姫たちに先に食堂へ行くよう伝えると、アリスの後を気配を消してついて行く。
「眠いけど…ますたーのために…頑張るの…」
梓がアリスの後をついていくと、調理場の扉の前に立っていた。
調理場の中に入っていくアリスが気になり、梓も透過煙を使って、アリスの後をつける。
料理を作るときは、一部の料理を作ることが壊滅的に苦手な人を除いた当番制なのだが、アリスは今まで人の姿になることが無かったため、当番から外されていたのだ。
アリスが調理場に入ると、そこには闢零とレイラの姿が既にあり、二人に不思議な表情で見られる。
「ふぁ……あ、アリスさん、食堂は…こっちじゃ、ないですよ…?」
「ん、知ってるの。ますたーのためにご飯つくりに来たの」
アリスの言葉に闢零の言葉に驚く、
「アリス、さんお料理…できるんですか…?」
「できるの、ちょっと位なら作れるの」
てくてくと調理場を歩いて、器具を一通りそろえると食材を選んで、手際よく調理していく。
闢零達のような剣は、自分達の指などを一時的に武器の状態と同じ強度にすることができるが、調理の時にはその力を使わない。自分の指で切ったものを食べるというのにも抵抗はあるだろうが、大きいのは自分達はあくまでも戦う武器だという意識だ。
誰も血に濡れた包丁で作られた料理を食べようとはすまい。それと同じだ。自分達はあくまでも戦う武器、そんな汚れた手で切った料理など誰が食べるだろう。と、闢零達は考えているのだろう、もちろん明日香達にそんなことを言う訳がないが、あくまでも自分達のプライドが自分達の手で料理することを許さないのだ。
そんなことを考えていると、アリスがてきぱきとレイラ達も顔負けのスピードで調理を進めていた。この匂いからしてシチューなのだろう。鍋の上から覗いてみると、ミルク色のとろっとしたスープの中に色とりどりの野菜が入っていて、見ただけでもおいしそうな雰囲気が伝わってくる。
「アリスさん…凄いですね、こんなに手際もいいし、美味しそう……」
闢零の思わず漏らした一言にアリスが自慢げにすごい?という視線を向けてくるので、凄いですよ、と伝わるかは分からなかったがアイコンタクトで返した。
「おっぱい、大きくするのに、牛乳が良いって何かに書いてたから…勉強したの」
アリスが最近エメルダの城内で何かを探していたのはそういう理由だったらしい。
なんというか、多分自分達よりもそういう部分では明日香思いなのかもしれないと、闢零は思った。
「はう~お腹空いた~!びゃくれ~い今日の夕飯なに~?」
「お嬢様の分は、アリスさんが作って…くれましたよ」
闢零がどうぞ、と場所を空けると、アリスがブロンドの髪をゆらゆらを揺らして危なげなくシチューの入った皿を運んできてくれた。
「はい、ますたー。これ食べておっぱい大きくするの」
アリスの言葉に明日香は吹き出し、飲んでいたジュースが気道につまり咳き込んでいた。
「げほっげほっ!な、何言うのよアリス!?」
アリスのその言葉を聞きつけたのか、梓が食堂に入ってきて明日香のところに飛び込んできた。
もちろん、そのまま抱きつかれるような事はなく、極力テーブルを揺らさないように静かに梓を床に叩き付ける。
梓を踏みつけて冷たい視線で見ている明日香は、もはや恒例行事になりつつあるが、梓は投げられてもそのまま床ペロするような人間ではない。
「…今日のはふりふりのピンクか……」
梓の言葉に、急いで明日香はスカートの裾を押さえて、羞恥に赤くなった顔で、
「お姉ちゃんは冷静に私のパンツを見るな~!」
明日香の踏み付けを横に転がり、ぎりぎりのところで躱す。床に小さなひび割れが明日香の踏み付けでできたのは気のせいだろう。きっとそうだろう。
「ああ、そんなことより───」
「お姉ちゃんの癖に私のパンツを『そんな事』呼ばわりするな~!」
なかなか理不尽な物言いと共に飛んでくる明日香の裏拳。風を切るスピードで飛んでくるものを躱せば、流石に周りに被害がないとは言い切れないので、梓は手に強化魔法をかけて裏拳を止める。
強化魔法をかけても、梓の手のひらから鈍い痛みが梓の身体に伝わってきて、一瞬顔をしかめるが、
「だから…明日香のパンツも大事だけど、今はそれよりも重要なことがあるのよ。何で今まで気づかなかったのか分からないけど…」
「?どういうこと?」
明日香が首をかしげて梓にたずねる。梓がそれは……、ともったいぶって説明を渋ろうとしたが、明日香の視線の冷たい視線によって防がれた。
「明日香前にアリシアと修行中に戦ったとき胸の大きさ78って言ったんでしょ?」
「え?だってお姉ちゃんより大きいからそうなんじゃないの?」
明日香が頭に?マークを浮かべながら答える。梓の質問の意味が分かっていないようだった明日香を可愛いとは思いながらも、軽くため息をついて。
「あのね…明日香の身長って138でしょ?」
梓の質問の意味が理解できていないものの、間違ってはいないので明日香はこくんと頷く。
「身長の比率だとね、明日香の身長で78だとかなりおっきいサイズなのよ?明日香、貴女ちゃんと胸囲とか測ってないでしょ」
明日香は図星だったのかあぅ……、と俯く。その瞬間に恐らく転移魔法を使って出したであろうメジャーを手に取り、明日香の背後から抱きつく。
「ふぁっ!?ちょ、お姉ちゃん何するの!?」
「何って…明日香の胸囲を測るのよ~さぁさぁ服を脱ぎ脱ぎしましょうね~♪」
梓が恐ろしいほどの手際のよさで明日香の服を脱がしにかかってきたので、急いで梓から離れる。
ワンピースだというのに、一瞬のうちにもう明日香の下着、薄桃色の可愛いブラジャーが見えていた。
「べ、別に今やらなくても良いでしょ!!ご飯食べた後でも良いじゃん!」
明日香が胸を隠しながら、ワンピースの裾の皺を直している。
梓も自分が暴走していたことを遅れて珍しく理解したようで、
「それもそうね、ごめんなさいそれじゃ、後で測ろうね、私の部屋で♪」
訂正、理解しているようではなかった。だが、それでもアリス達が見ている前で服を剥かれる事態には起こり得なかったため、ぎりぎりOKの部類だろう。
そのすぐ後にアリシアやマルモが入ってきて、本当に梓を説得できてよかったと明日香は心の中でほっと一息ついていた。
「あれ?梓さん、柚姫さんたちはどうしたんですか?」
アリシアの一言に、梓も今気づいたようであっ…、と声を漏らす。
梓はアリスの行く先が気になって、二人をおいて勝手にアリスの後ろをついていったのだ。どうしよう…、と悩んでいると、扉が開いて柚姫たちと凜が入ってくる。
「あ!梓、柚姫たちほっといて何処行ってたのよ……」
凜が鬱陶しそうに梓を見つめる。梓も明日香以外のその視線には耐性がないのか、梓も先ほどの明日香と同じように俯く。
「と…取り合えず、た、食べましょうよ…!ご飯、冷めちゃい、ますよ…」
闢零の一言で全員が我に帰る。そして、明日香たちは闢零にごめんね、と頭を下げる。
闢零も大丈夫ですよ…!と言ってくれたので、明日香達は柚姫たちも加えて新たに増えた『黒薔薇の騎士団』の面々と共に、夕食を共にした。
因みに、明日香の胸囲は後で測ったときに凜が聞き耳を立てて聞いていた様で、68だったそうだ。
次は閑話になります。本編とは関係ありませんが暇な方は読んでいってくださいm(_ _)m