表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

ファンタジーもの

俺の美しい人

作者: 花ゆき
掲載日:2013/11/06

油絵のにおいがしみついたアトリエ。

僕の目の前には、同い年の幼馴染がいる。

黒い髪で、そばかすがあって、地味で、華奢な彼女。

翠の瞳は澄みきっていて、いつも絵を描きながら目を輝かせる。

背筋をしゃんと伸ばして、キャンバスに向かう彼女を、僕はいつもまぶしそうに見ていた。


僕の、愛しい人。


「カイン、暇でしょう? アリアったら、絵を描き出したら夢中になるんですもの」


彼女の姉マリアが優しく微笑んで、紅茶を僕に渡す。

マリアさんは母親似らしく、波立つ金の髪に、色白の肌、女性らしいふくよかな体をもつ。

アリアとは違い、華美な外見だが、彼女の優しい空気が好きだった。

勝手ながら、姉のようだと思っていた。


「そこがアリアらしいじゃないですか」


絵の具まみれになりながらも、キャンバスに向かう彼女を見て、マリアさんと微笑みあう。

そこでアリアの鼻がすん、と動く。


「紅茶のいいにおい! お姉様、いつの間に?」

「さっき来たところ。今日の紅茶は温かいわよ」


いつもは没頭して、彼女が気がついたころには冷たい紅茶になっているのだ。

まったく……、そんな彼女すら愛おしい。


「カイン、そんなに笑わないでよ!」




けれど、幸せな時間は続かない。

アリアの誕生日がきた。

貴族の娘として、早々に婚約者が決められるのだ。

ボクも候補として、選定の場にいた。


「さぁ、アリア。ここにいるのは未来の婿候補だ。好きに選びなさい」


彼女の父がアリアに決断を促す。

当然、彼女は幼馴染の僕を選ぶと思っていた。

けれど彼女の手は僕をすり抜け、騎士である一般市民の手を握っていた。


僕、いや俺は耐え切れずにその場から逃げ去った。




「カイン!!」


休憩室でうずくまる俺を、マリアさんは見つける。

ひどく身体が寒い。


「カイン、カイン……」


俺をひたすら抱きしめる彼女の腕で、ようやく俺は涙を流すことが出来た。

どうして俺じゃない。あの日々は嘘だったのか?

ずっと見てきた、10年も好きだったんだ。

簡単に捨てられるものか。




あれからアリアのアトリエに行くと、婚約者殿がいるのを見るようになった。

婚約者殿を見つめる彼女はとても綺麗で、尚更惨めになった。

俺が何年かけても無駄だったことを、あいつは成し遂げている。



気づいたら、逃げるようにマリアさんの部屋にいた。

彼女は時期当主になるため、日々難しい勉強をしている。

部屋にある本棚は、どれも難しいものばかりだった。


「マリアさんは、どうしてそんなに優しいんだ」


マリアさんは俺の正面に立ち、優しく微笑んで、頭をなでる。


「あなたが好きだからよ、弟のように思っているわ」

「俺もマリアさんのこと、姉さんみたいだと思ってる」

「俺って言うようになったのね」


マリアさんは、ぎこちなく笑った。




アリアとアリアの婚約者殿とマリアさんと俺で、午後の紅茶を楽しんでいた時のことだ。


「マリアさんの髪、綺麗ですね。太陽のようだ」


唐突に婚約者殿が言った。

そんなことは前から知っている。

だが、本当は月のような美しさなんだ。

彼女は月のように暖かく俺に寄り添ってくれる。

俺は彼女がいなかったら、狂っていただろう。


ふと、俯いたアリアが目に入る。

お前は気づいているのか。

アリアが自分の地味な黒髪を気にしていることを。

しかし、婚約者殿はマリアさんに見とれている。

マリアさんは気まずそうに妹をフォローした。


「ア、アリアも私似ですもの。大丈夫よ」




次の日、アリアの髪が金に染められた。

それから、そばかすを消すために美容を気にするようになって、外にも日焼けするから出なくなった。

俺の愛したアリアが消えていく。

これもあいつらのせいだ。


アリアの婚約者殿と、マリアさん――いや、マリアのせいだ。




屋敷内を本を片手に歩く彼女を見つける。


「あら、カイン――!?」


彼女の手を引っ張り、そのへんにあった客室につれこむ。

逃げられないように、壁に押さえつけた。

いつの間にか俺よりも小さくなっていた彼女を見下ろす。


「一体何があったの?」


彼女は、手首を押さえつける圧倒的な力に震えながら、聞いてきた。

一体、とはよく言えたものだな。


「理由は知っているはずだろ、マリア?」


彼女が変わった日から、彼女を姉のように思えなくなった。

アリアを変えた、憎い女。

マリアは目を見開き、ぼろぼろと涙をこぼす。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


マリアは涙ながらに謝り続ける。

だけど、悪いな。

もう、そんなもんで許せる状態じゃないんだ。


「上流貴族は純潔を尊ぶよな? マリア、お前の将来を壊してやるよ」


上流から落ちこぼれてしまった俺に、汚されてしまえばいい。

マリアは涙を流しながら、頭を振って激しく抵抗した。


「やめて、それだけはっ、お願いだから!」


そんな彼女を押さえつけ、俺は一輪の花を手折った。

隣で気を失って眠る彼女を見て、笑いがこみ上げてきた。

憧れていた俺の聖域を、俺が穢した。

いつの間にか、彼女はもう姉じゃない。




それから、彼女を手荒く扱った。

彼女に暴力をふるい、毎日のように荒く抱いた。

抱きながら、彼女にアリアを重ねた。

彼女は次第に何の抵抗もしなくなった。

それにもかかわらず、彼女の美しさは変わらず、増していく。

彼女に色香も加わり、より拍車をかけることとなった。


その傍らで、俺は相変わらずアリアを諦められなくて、アリアに迫っていた。

彼女は黙っておとなしく見ていた。




ある時、婚約者殿がマリアを見つめているのを見かけた。

いつもは嫌なやつを見たと引き返すのに、見逃せないものを見つけた。

やつの瞳の色、あれは恋情だ。


マリアはもう俺のものなんだ。

おまえなんかに、くれてやるものか。


俺は飛び出して、マリアに激しく口付ける。

マリアは一瞬驚いたようだったが、大人しく俺の首に手を回す。

最近は受け入れるようになったのだ。


そしていつものように彼女の口内に舌をねじ込み、舌を絡めとって啜る。

マリアはとけきった顔で、俺に体を預けている。

お前はマリアのこんな顔を知らないだろう?

優越感に、婚約者殿を見て嗤ってやった。

やつは顔を蒼白にしていた。

俺の視線でやつに気づいたマリアは、俺にやめるよう懇願したが全て遅かった。


その日から、婚約者殿はマリアに距離を置くようになった。

そのことに俺はほくそ笑んだ。



アリアがまったく振り向かず苛立っていた頃、俺に上流貴族に返り咲く話がきた。

そうだ、彼女が振り向かないのは俺が上流貴族じゃないからだ。


条件は一般人を全て殺すこと。

貴族だけの世の中にするためだ。

俺は二つ返事をした。


しかし、毎日のように会う彼女には気づかれてしまった。

俺が一方的に抱いているだけといえども、変化を感じたらしい。


「見損なったわ、確かに妹の件は私のせいよ。だから耐えてたのに。

幼いころに『弱い人を助けれる貴族になるんだ』って話していたあなたはどこにいったの!?」


アリアの婚約者最有力候補としてもち上げられていた当時、選ばれなかった我が家は一気に没落していった。

もち直そうにも親父の資金運用が下手で、どうにもならなかった。

だから今の俺は、婚約者殿と同じ一般市民が大嫌いだ。


「お前煩い」


口を塞ぎ、彼女の非難も飲み込んだ。

ただ俺に足をひらいてればいい。

これを期に、彼女とは会わなくなった。




それから大規模なテロを起こした。

アリアには嫌悪の目で見られるようになったが、いつか報われると信じていた。

多くの一般人を殺した。

テロの数と比例して仲間は捕まっていき、俺が最後の一人になったところで彼女が現れた。

それも、大きなお腹で。


「なんだよ、今は幸せですって見せびらかしに来たのか!? よかったな、もらってくれるやつがいて!」

「カイン、なにか勘違いしてるわ」


彼女、マリアはお腹を愛おしそうに撫でて言った。


「お腹の子は、カイン、あなたとの子よ」

「な、なぜ、どうして、堕ろさないんだ。望んだ子じゃないだろう!?」


彼女は力なく首を振った。

変わらない慈愛の目で俺を見ていた。


「私は好きでもない人に、何年も抱かれたりしない」

「嘘言え! なら、どうしてあの時拒んだんだ!?」


今でもはっきりと覚えている。

彼女は涙を流しながら、ずっと抵抗していた初めてを。


「当主になることが分かっているのよ。当然将来は好きでもない人を婿にもらうわ。だからこそ、あなたの熱を知るわけにはいかなかったのよ。なのにあなたは私を何度も抱いた。苦しかったわ、あなたを忘れられなくなるから。憎くなった、私を妹の名で呼ぶから。でも、嬉しくもあった。あんなことがないと、一生あなたは私をみないもの」


マリアは俺に目線を合わせて、頬に触れる。

こんなに話す彼女は初めて見た。

いいや、俺が言わせなかった。いつも彼女の言おうとした言葉を飲み込んでいた。

微笑む彼女の頬を流れる一筋の光が、神秘的に見えた。

太陽の光が彼女を一層輝かせる。


「ずっと好きだったの。まっすぐなあなたが。たとえ妹を好きだとしても」


彼女がそっと、触れるだけのキスをした。

そんなキスは何年ぶりだろう。


「帰りましょう、私の旦那様」


彼女は俺に抱かれても、穢れずに美しいままだった。

俺の聖女マリア。


昔から彼女は美しくて、姉のようだと憧れていた。

彼女を無理やり抱いた時、俺のものにしたと征服感があった。

だから婚約者殿がマリアに惹かれてるのが許せなかった。

そんな子どもな俺を彼女は包んでくれた。


彼女は今でも俺を受け入れてくれる。

ありがとう。

これからは俺の一生をかけて、幸せにする。

俺は、これまでの人生で初めて彼女を優しく抱きしめた。




その後、カインはテロ犯罪者として罵声をあびせられながらも、社会貢献に尽力した。

実家も地道に立て直させた。

マリアの婿と認められるよう努力をし、暖かい家庭を築いている。

自サイトのブログにのせていたものを、修正しました。

純粋さゆえに恋に狂う男と、妹と重ねられる姉が書きたかった作品です。


誤字見つけたので、修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ