エリスの花
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初っぱなのレインの口の悪さには目を瞑ってやって下さいませ。彼にも一応事情があるのです( ̄▽ ̄;)
今回の物語の要となる、試練の花のお話です。
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長老の姿を認めて、エルフたちは一斉に立ち上がって向かえた。
慌ててイリスもそれに倣い、頭を下げる。
イリスはそのまま顔を上げられなかった。
奇妙なことに、居てもいいと言われると何かが違うとモヤモヤしたが、逆にはっきりと『ここはお前の居場所ではない』と断定されると落ち込んだ。
「おいババァ、ケチケチすんなよ。イリス一人くらいこの里で養えるだろ。"ましろき者"はよくてなんでこいつだと駄目なんだよ」
意外にも、始めに口を開いてイリスを擁護するような反論をしたのはレインだった。
長老はテーブルの反対側、イリスの真正面に回り込み、椅子に座りながら答える。
「黙れ小童。"ましろき者"とこの者とではちいっとばかり勝手が違うのじゃ」
「レイン、目上の方に対しての口のききかたに気を付けなさい……長老、勝手が違うとは?何故イリスをここに置いてはならないのです?」
「では聞くが、お主はイリスを無条件に受け入れてやるのが良いと思うのか?当主」
「はい。そう思います」
「アン。お主はどうじゃ?」
「私も当主と同じ意見です。お婆様」
「まったく……どいつもこいつもすぐに絆されおって……」
長はじっと考え込んみ、ゆっくりと口を開いた。
「仕方がない。では"エリスの花"で決めようかの」
「そんな!」
「人間には危険です!」
「おいくそババァ!」
エルフ達からは即座に非難の声が上がった。
どうやらその花はイリスを試すものであるようだ。
けれどイリスとって里に受け入れられるための条件をもらうことは、例えどんな危ない道でも価値があった。
やっとわずかでも希望が見えて、俯きがちだった顔をあげると、真正面で厳しさと優しさを宿した瞳とかちあう。
長老は目を合わせたままじっと顎を引いてより強い視線をイリスによこした。
その拍子に、まるでイリスの心を読んだかのように瞳の奥で確信の光が宿り、イリス自身でさえ先ほど言葉にできなかった何かを確実にを汲み取っていった。
この間、イリスにはとても長く感じられたが実際には数秒にも満たないできごとであった。
ゆっくりと自然に視線を外し、長老は何事もなかったように話を続けた。
「ふん。そんなこと百も承知じゃわい。だがこの人間を受け入れるにはある程度の覚悟を、わしらはせにゃならん。然らば試練を与えてそれと対等の誠意を示してもらう必要がある」
「長老、覚悟とは…人であるイリスが……"悪さ"をするかもしれないから、ですか?」
ルールルは少し言い難そうに長老へ問うた。
「ま、簡単に言えばそれが一つの要因じゃな。わしらが人間に関わらないようにしてきたのは何故じゃ?歴史がわしらに警告をしておるのを忘れてはならん」
「お婆様、けれどイリスは―――――」
長老は若者エルフたちの反論にぞんざいに手を振って遮った。
「ああ、もうよい。よい。……イリス、お主の意見も聞こうかの。試練の話を受けるか?」
一瞬間を置いた。それだけこちらへ向けた長老の眼光が鋭かったのだ。お遊びではないという警告だ。
けれど。
「はい。お受けします。どうか続きを」
息をのむような気配がしたが、ただただ必死なイリスは長老だけを見据えていた。
ゆっくりと皺の刻まれた長老の顔に満足げな笑みが浮かぶ。
「ふむ。いい目をしとるの。さっそく説明じゃ…………『"エリスの花"で決める』とは、誓いをたてる時に行う花探しの儀式のことを言うのじゃ。お主には今回、"エリスの花"に誓い、その花をこの里へと持ち帰ってもらう。その全ての行程を3日で完了する。これが試練じゃ。良いか?」
「はい」
「ふむ……ところで植物の"あやめ"は知っておろうな?」
「ええ」
薬草として扱ったことはないが、毒性を少し持つのも知識としてイリスは知っていた。
鑑賞用として幾度か家に持ち帰ったこともある。
「そうか。エリスの花の形状はあやめと似ている。じゃが、色のあるあやめと違ってエリスの花は白い。それも花弁だけでなく、茎も葉も根もすべて真っ白に透き通っているのじゃ」
そこで言葉を区切り、長老はゆったりとした動作で深く腰掛けた。
「……そして重要なのは誓いじゃ。エリスの花は不思議な特性も持ち合わせていての。
花に向かって誓うと、その誓った者にしか抜けなくなる。更にエリスの花はその手の中にある間、その誓いへの覚悟を養分とする。もしお主にその覚悟がなくなればたちまち花は枯れ果て、持ち帰ることはできんようになっておる」
そう言って長老はエリスの花の手折り方と誓い方、またエリスの花が咲く渓谷への行き方を詳しく紙に書いて教えてくれた。
話を聞く限り、その儀式自体に危険性はなく、ただ覚悟を問われるもののようだ。
危険なのは道中だった。森に住む野生の動物やエリスの花が生えている険しい峡谷が障害となり、目的の花まで辿り着くのが難しいのだった。
「そのエリスの花を時間内に持ち帰ることができれば、お主をここの住人として迎え入れよう。
できなければ人里へと返す。例えエリスの花を持ってたとしても、時間内までに戻れなければここで生活することは先ずできんだろうから、やはり人里へとお主を返すことにする」
そこでぐるりと長老が周りのエルフたちへと視線を巡らせた。皆一様に不満そうではあるが、イリス自身が納得しているようなので口を開いて異論を唱えることはしなかった。
「最後にもう一度問おうかの………イリス、この試練を受けるか?」
答えはとうに決まっていた。
「はい、お願いします」
イリスはきっぱりと言いきって、この里の長と当主に向かって頭を下げたのだった。
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『iris』はギリシャ神話の虹の神様です。
だから『rain』=雨との組合せだったりします。
そして『iris』はアイリスとも読め、そもそも虹のようにたくさんの色の種類がある花なのでアイリス、と呼ばれるようになったらしいのです(*^^*)
アイリスの定義を辞書で調べると、
【アイリス(irisの英語読み)とはアヤメ科アヤメ属の単子植物の総称。具体的にアヤメ、カキツバタ、ショウブなどのこと】
……だそうで、かなりややこしい。
この物語ではアイリスの中のあやめを出してエリスの花の説明をさせていただきました\(^o^)/
アイリスを例に出すと(主に書き手が)混乱しそうだったので←
エリスの花は完璧に私の空想からの産物です。