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贄はエルフの付き人に  作者: Fleur
贄はエルフの付き人に
14/27

甘い蜜 (前編)

区切りがいいところまで!とか思っていたら長々と続いてしまい……更新も遅れてしまいました((--;)

.


「で?意気込みだけはいいが、どうするんだ?」


レインもイリスにはここから降りるのが難しいと分かっていながら訊いているようだ。

少し突き放したように聞こえるその問いに怯みそうになるのを堪える。


とにかく思い付く限りの方法を口に出して検証してみよう。それには相手がこれくらい冷静なほうがいいわよね



「植物の蔦を()ってロープに……」


「無理だろ。それに適した蔦を探しに森へ戻るのと縒る時間がかかりすぎる」


「コートを代わりにするとか」


「目算で俺とお前のコートだけだと、長さが足りないのは明らかだな」


「もういっそ手足のみに頼って降りてみるとか」


「それこそ自殺行為だ」



……もうちょっと考えるそぶりをしてから、返事をしてよ


自分でも無茶だと解っているけれど、ここまでバッサバッサと切られると切ないし少し腹が立つ。

レインも考えてよと言いたくなるが、これは私の試練だと思うとそれも言えない。

むぅと拗ねたように考えはするが焦りや不安が思考を邪魔してイライラした。


時間がない。能力がない。


「…ひとつ、方法がある」


「えっ!?」


ばっと顔を上げてレインを見つめる。

近くに立っているのに、レインはイリスを向いていなかった。

本当に?と重ねて問うことはできなかった。

ここで他者から答えを与えられてもいいのだろうか?


しかしそういったイリスの躊躇いを余所(よそ)にレインはこちらを向かず、少しだけ硬い表情でさらなる爆弾発言をした。



「俺がお前を抱えて飛び降りればいい」


「な、なに言ってるの?」


「それぐらいできる」


「出来るか出来ないかの問題じゃないわ!」



確かにレインの並外れた身体能力ならそれぐらいできるだろう。

けれどこれは私を試すモノだったはずだ。

エルフ達の中で生きていけるかどうかを見極められているのではなかったのか?


――――ここでのことはレインしか知らないし、彼さえ黙っていてくれれば、この不正はバレない。


そのことを瞬時に考え出し、ぐらついた自分を恥じた。


それ以上にそういった不正を提示されたことに目も眩むほどの怒りを覚える。


レインは私のことをそんな奴だと思ってたの?そう思われてたの?



しかしいきなり声を荒げた私の様子に驚いたようにレインはこちらを見た。

微妙に硬かった表情もそれとともにほどけた。



「言っておくけど、これはズルとかじゃないぞ」


「どこがよ」


沸々と煮えきった感情をなんとか抑えつつ聞き返す。

それでも声の端々が尖るのが自分でも分かった。



「イリス、これは何のための試練だ?」



レインもこちらが苛立っていると分かったのか宥めるようにゆっくり言った。

それすら腹が立ったものの、名前を呼ばれて悔しくも少しだけ気持ちが凪いだ。



「私がレインたちの里で暮らせるかどうかでしょ?」



「だったらどちらにしろ俺たちエルフに頼ったり逆に頼られたりすることが、この先往々にして出てくるってことだ」


「だから今回のこれも頼れって言うの?この試練が始まってから―――ううん、レインと会ってから私、助けられてばかりよ」



口に出してみると最初からこれこそが心にあるしこりだとひしひしと感じた。

居場所が欲しいと言いながら、実際"必要とされる"居場所から遠ざかる事ばかりな気がする。

だからこれほど焦るし、不安なのだ。

自信がないから、すぐに苛立つしレインに八つ当たりしてばかりだ。

哀しげに歪んだイリスの顔を見てレインは優しいため息をついた。



「……あのな、イリス。人間の村に生きていた時だって自分ひとりで生きてた訳じゃなかっただろ?今回の試練はお前に向かなかっただけで、きっといつかお前が自然と誰かの手助けをすることだってあるんだ」



夜闇の下でも綺麗な光を集めるエメラルドの瞳が優しいから、信じてしまいたくなる。


本当に?本当に甘えても良いのだろうか。



「……でも、お(ばば)様は3日の期限を定めて、エルフの中に交じれる能力を測ろうとしたんじゃないの?」



「あれだってエルフ仕様なら1日で行って帰って来いって言ってるところだぞ」



確かに。私がいなかったらレインなんて半日ぐらいで軽くこなせそうな距離だ。



「え、じゃあ……」



「そ。思いっきり人間仕様にしてお前のこと受け入れる気がちゃんとあるんだよ。むしろ覚悟を問うエリスの花が普通の奴にとっては難関なんだ。花に嘘はつけないからな」



「いいのかな……」



「いいんだよ。ただ甘えるのが嫌なら、一緒に暮らしてく中で、いつか何かで返してくれりゃいい。そしたら一方的な甘えじゃなくてただの助け合いだ」



ぐっと唇を噛んで考える。

不正ではなく、ズルでもなく。

これを甘えにしないためにちゃんとあの里で暮らす。

今は言い訳のように聞こえるこれを、いつか事実に出きるだろうか。


挑発するようにレインが笑んだ。



「で?納得したか?」


花ではなく、エルフに誓う。



「ええ。お願いするわ」



真っ直ぐ見つめ返すとレインは笑みを深くした。





◇◇◇◇◇



しばらく奇妙な見つめ合いが続いた後、レインがふいっと気まずげに視線を反らした。



「……で、まぁそれはいいとして…本当に俺が抱き上げていいんだな?」



「え?そういう話をさっきからしてたでしょ?」



「そういう意味じゃなくて……」



レインが明後日の方向を見ながらぐしゃっと片手で前髪をかきあげた。


むぅ。それがまたいちいち様になっている。

絶対に不公平よね


それにしても彼にしては歯切れが悪くはっきりしない態度だ。

けれど何を言っているのか理解できない。



「…ま、言ってもしょうがねぇか………」



レインが独り言のように呟いた。


何のこと?と突っ込もうとして近づいたところを、ひょいっと抱き上げられた。



わわっ!そういえば抱っこされたら近づくのを忘れてた!



至近距離に見えた顔と目が合って、思わず身体を固まらせた。

それをどう勘違いしたのかレインは不機嫌そうに顔をしかめて低く囁く。



「………少しぐらい、我慢しろ」



だから我慢て何よ!?


そういえば熱に浮かされてた時も言ってた気がする。

今一度、尋ねようとしたときには下に地面はない。



レインが、造作もなく崖から飛び降りていた。





◇◇◇◇◇◇





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