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贄はエルフの付き人に  作者: Fleur
贄はエルフの付き人に
10/27

望みの在りか◆rain◆前編

.



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「謝るな」


熱に浮かされながらも謝るイリスに、そんな言葉しかかけてやれない。

うわ言だと分かっていても、謝られたら立場がない。

汗をかく額と首筋を濡らした布で丁寧に拭ってやりながら、もう一度イリスを後ろから抱え直す。

チロチロと小さく灯した炎が優しくあたりを照らしつつあたためてくれる。

先ほどより落ち着いた寝息に安堵しながら、そのオレンジ色の火を少しの間ぼんやりと眺めた。

洞窟のすぐ外で雨がまだ降り続いている音が聞こえていた。



ここに至るまでを(かえり)みて、レインはやるせない溜め息を1つついた。






・・・




イリスの動きが緩慢になりつつあるのは早い時点で分かっていた。

フードから時おりのぞく顔色も出会ったころの夜に逆戻りしたように悪く、足元もおぼつかないようだった。



けれどそれはただ単に"人間は弱い。だから疲れがはやく出やすいのだろう"としか考えなかった。

とにかく一度雨宿りをさせて、空模様が落ち着いてから動き出せばいいと思っていた。



イリスが後ろについてくるのを確認しながらゆっくりとしたペースで洞窟へと進んでいると、後ろの気配がふっと脇道に()れた。

慌てて手首を掴んで引き戻そうとすると思いの(ほか)強い力で振り払われる。

驚いて身体ごと振り返れば、イリスが全身を震わせてこちらを拒絶しているように見えた。


その反応にガンッと後頭部を殴られたような衝撃が走る。


―――そんなに、嫌だったのか?


俺に触られて、嫌悪を感じるほど?


そんな素振りを一度も見なかったから、ほとんど忘れかけていたことを意識する。



―――イリスは人間だ。



1つの種族が、それと異なる種族を受け入れられないことはままある。

さらには嫌悪し、排斥を行うことも普通に考えられることだ。

人という種族は特にこれが顕著だ。


けれどこの防衛本能から長じた弱さともとれる特性を、不思議とイリスに重ねることはあまりなかった。


それは初めからまっすぐに交わる蜜色の視線とそこに宿る意志の強さが、身体的にはともかく、(うち)は弱くないことを知らせてくれていたからだ。

さらに里でエルフに囲まれて、物怖じしなかった態度もそれを後押しした。


出逢った頃は"見知らぬ"エルフだから(かつ)ぐのを遠慮したのだろうと、

比較的友好的になった今では、もう慣れてくれただろうと勝手に思っていた。

自分自身がイリスに馴染んだだけ、彼女のほうでも親しみを感じていると当然のように考えていた。

いや、むしろそこについては疑いすらもたず、意識の端にも上っていなかった。




それなのに目の前の娘は全身を震わせながら、どこか怯えたようにしている。


自分でも驚くほどの衝撃と胸の痛みに囚われて、数歩離れたところから動くことが叶わなくなった。


こちらの様子を察したようにすぐしまったという顔をイリスはした。


「あ、ごめん。こっちね…」


挽回するように素早く動こうとして、イリスは大樹の根につまずいた。

何も考えず支えてしまってから、また拒絶されるかもしれないと身構える。



しかし予想したのとは真逆に、イリスはくたりと後ろに寄りかかってきた。

情けないことに、そうしてやっとイリスの身体が尋常でない熱を持っていることに気がつく。



――なぜ、これほどまでになるまで黙ってた?

ここまで無理をしたのは俺を完全には信用できていないからか?


悪いほうへ悪いほうへ考え出すと止まらない。


苦い苛立ちが込み上げてきた。

疑ってかかって試練を与えている自分たちを棚上げにしている理不尽さを知っていても、止めることのできない感情だった。


とにかく休息と安静が必要だ。

人間もエルフも身体能力値の高さが違うだけで身体(からだ)の構造自体はあまり変わらない。

風邪や体調不良への対処も同じはずだ。



それからは抵抗をさせる隙を作らせないようにすぐさまコートをイリスに巻きつけ、なるべく雨や振動が負担にならないように進んだ。


けれど、そのままではいてくれないようで。


最後にイリスの掠れた声で決定的な追撃を食らう。



「自分、で」

歩く、とでも言いたいのだろう。


――そこまで、するか?

こんなに意識朦朧としてまで、俺を拒みたいのか?


苦い苛立ちが胸の痛みとともに大きくなった。



エルフは基本的に他者に頼ることを好まない。自立できるだけのそれぞれの強さを誇りとし、互いに尊重する。


どうしようもなくなった時のみ同胞(..)に頼る。

それもほんの一握りと己が定めた親しい者にだけだ。



きっと今この腕から下ろしてやれば、イリスは意地でも洞窟まで歩いてついてくるだろう。



他者に簡単に甘えようとしない、イリスのこの態度は本来自分たちにとって好ましいことのはずなのに。



何故だか苛立ちは増すばかりで

"頼れ、甘えろ"と言いたくなる。


それはすなわち、"信頼しろ"ということで。



一族の者として立場上、今すぐには自分にもできないことを、相手には求める矛盾。

これでは思い通りにいかない現実に癇癪をおこす子供と一緒だ。



「あと少しぐらい、辛抱しろ」




―――触られるのも嫌だろうけど、頼むから今ぐらい、信じてくれ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



.

THE☆根暗\(^o^)/

いやすみません。ここだけでも明るくしとこうかと。

けどこの章が感情的には底辺なので!(^^;

…多分?←

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