空白の59分間
「それでわざわざ終電に乗るんだ」
運転手の中島はそう言うとブレーキとかけた。電車はプラットホームだけが寂しそうに照らしている岡駅に到着した。
「そういうこと。いいから運転代われ。」
中島の返事を聞く前に石月は運転台に座った
「お客様が乗ってきたらどうする?」
中島も少々怒っているようだ
「乗らないだろ!終電だぜ」
「まぁ・・・そうか」
そういうと中島は長身をかがめて車内を見回りに行ったようだ
次は東船岡駅である。
深呼吸をしてブレーキをかける。
しかし電車は停車目標位置より2~3m過走して停車した
急に右側が明るくなり振り返ると
「へたくそ」
中島がにやけ顔で立っていた
「うるさい、もう一回」
やれやれといった様子で中島はまた出て行った。
次は終点槻木である。
明るければ東北本線とのオーバークロスが見えるがこう暗くては台無しである。
気がつくと東北本線に挟まれる形となり、まもなく槻木である
今度はピタリと停車して見せた。
「これがオレの実力だ」
そういって中島の鼻を明かした後仙台行きの電車に乗った。
E721系のクロスシートに腰を落としふと携帯と開くと、着信があった急いでトイレに駆け込み、発信の主である服部隊長に電話をかける。
そこで、聞かされた内容はかなり突拍子も無いものだった。
おかげで一人で占領できたクロスシートを満喫する暇も無く、着替えをしなくてはならなかった
到着した1番線には次に問題の北斗星が到着することもありすでに警察がいた。
そこには新妻はじめ服部隊長がいた。
ちらほらと福島県警の文字も見える。
「仙台駅鉄道警察隊隊員石月合流しました」
敬礼をして隊長のありがたいお言葉をいただく正式な捜査協力依頼が来ていないのでそこまで角ばったお言葉ではなかった
「仙台駅鉄道警察隊は寝台特急北斗星内の車内で臨時の警乗を行なう。なおこの任務は宮城県内に関わらず終点まで行なう」
今できることを最大に、といった任務である。
そして今夜は徹夜が確定した。
そんなことしているうちに北斗星が仙台駅1番線に滑り込んできた。
車掌がドアを開ける。本来なら乗客の乗り降りの無い時間帯だが、今夜は福島県警の鑑識官が乗り込んでいった。
残った宮城県警は降りる客を監視している。
こんな時間に北斗星を降りたら私が犯人ですと言っているような物だが・・・
担架で被害者の車掌を運び出す。
列車はこのため発車時刻が遅れるが、いつ発車かはまだ分からないとなっている
長い編成をフラフラと見て回っていると11号車の辺りから奇声が聞こえた
慌てて駆け寄るとまた担架が運び込まれてきた。
「死亡推定時刻は23:00頃、宮城県内ですね」
すると
「宮城県警も捜査をしますよ。あぁ鉄道警察隊の皆さんにも手伝ってもらいますかね」
聞きなれた声かと思ったら
「菊池警部!!」
「どうやら、指をくわえるだけではなさそうですね」
「福島県警から捜査協力出ました」
誰かと思えば松崎である
「あ・・・あと福嶋警視から鉄道警察隊に捜査協力出ました」
それを聞くや否や
「仙台駅鉄道警察隊は寝台特急北斗星内で発生した殺人事件の捜査に協力する」
まるで予知しているかのように落ち着いていた。