福島着22:27 同発22:29
1号車に向かう途中ガタンと減速した。
19:30大宮着
12号車に数名乗ったようだが、そこは白石が検札する。
大宮を発車するのを待ってから、車掌室のドアを叩いた。
「どうしました・・・って伊達と藤田か」
「すまんね、検札遅くなっちまって」
「いや、新人にやらせたんだろ。新人でこんだけの速さならたいしたもんだ」
車掌長に褒められるとやっぱりうれしくなる。自然と頭を掻くために手が伸びる。
「じゃ、俺らは11号車にいるから」
先輩が連れて行こうとすると、
「ちょっと待て、藤田は話があるから残ってくれ」
そう言って、藤田先輩はまた車掌室に戻ってしまった
なんとなく気がすすまなかった
白石先輩とは2人きりで車掌室にこもるのは気まずい。
ただ、船岡車掌長が目で席をはずしてくれといるのでこれ以上は居づらくなってしまった。
1号車と11号車はB寝台である
しかし1号車は4つの寝台を1つの寝台の様に作ってあり、簡易コンパートメントとなっている。
そのコンパートメントも19:30頃ということもあり、食堂車に言行っている人、おしゃべりに花をさせている人とさまざまであった
気が進まないせいであろう足取りは重かった
ロビーカーにつく頃には40分頃である
そこには家族連れやカップル、ホステス風の女性とさまざまな人がいた。
「すいません、写真いいですか?」
家族連れの父親がカメラを持って話しかけていた
「ええ、いいですよ」
断る理由も無く、むしろ快く引き受けた
「よかったね~、じゃあ抱っこしてもらえます」
母親が5歳くらいの男の子を抱っこさせた
「かまいませんよ」
子供抱っこし、父親のカメラに写った
「ありがとうございます」
2人は頭を下げた
「ほらお兄さんにありがとうは」
母親は慌てて子供をたしなめた
「おじちゃんありがとう」
屈託の無い笑顔で言われた・・・
もうすぐ30の伊達にはお兄さんでは無理が出てきたか・・・
「すいません」
母親が再度頭を下げる
「いえいえ、大丈夫ですよ」
相手は子供である、ショックだったのは事実だが・・・
時計を見ると19:45である。あれまでもうすぐだ
「ボク、もうすぐ電車を追い越すよ」
「ホント!?」
子供の目に更なる輝きが走った
久喜駅は通過だが先行する653Mを追い越す
左側では停車中のE231系がみえた
「おお~」
子供が歓声を上げる
「それでは私はこれで」
そう言ってロビーカーを後にした
11号車の車掌室では白石が黙々と仕事をしていた
気配に気づいたらしく顔をおあげた
・・・
沈黙の時間が流れる
ガクンと揺れ停車した
20:29宇都宮着
白石は注意を伊達からホームへ移した
その後、またガクンと揺れまた快いスピードとなった。
「・・・」
だまって白石は出て行った
何となく腹が立ったし乗車があったはずなので検札にも行かなくてはいけない、伊達も黙って11号車を離れた。
ところが10号車ではさっきロビーカーにいたカップルの男がいた。
「あ、車掌さん。助けてください、彼女がドアを開けてくれ無いんです!!」
平凡な顔立ちの男である
「分かりました、検札が終わったらまたきます」
申し訳ないのだが、早く検札を済ませないと他のお客様が部屋に入れないのである。
さすがに慣れたのか今度は手際よく検査できた。
すぐに11号車に行って見ると案の上まだその男はうろたえながらさっきの場所にいた。
「あっ、車掌さん中に入れてください」
すがり付いてきた
「しかし・・・まず切符を見せてください」
「ええ・・・」
男は切符を見せた
確かにツインの切符である
「分かりました」
そういって鍵を開けようとしたとき
「入ってこないで!!この浮気もの!!」
と女性の金切り声が飛んできた
伊達は鍵を開けるのを諦めた
「どっどうしてですか?」
男が詰め掛けてくる
「今開けても彼女との旅行は気まずいままでしょう?私も立ち会うので仲直りしてください」
「ええ・・ああ・・」
男は苦笑いしながら答えた
・・・
そこららが大変だった。
女が言うには男がロビーカーで別の女で色目使ったというのだ、ということはあのホステス風の女性ということか。
意見は平行線をたどっていた。
そうして男の謝罪によって何とか許してもらった。
気づけば22:00を廻り、所々寝ている人もいたがやはり大半はおきていた。
11号車の車掌室に戻ったが白石先輩の姿は無かった。
まもなく福島であるが白石先輩がいないとホームの確認が行なえない。
無線で船岡車掌長に連絡を取る。
船岡車掌長は驚きながらも伊達にホームの確認を取るように指示を出した。
福島着22:27 同発22:29
その後すぐに藤田先輩が来て、白石先輩を探すこととなった。
閉まっているカーテンを失礼の無い様にに開ける。
11号車は白石先輩の担当だったためどの寝台が使用中か分からなかったが大半がまだ起きていたため比較的すんなりと探すことができた。
「すいません、迷子いまして。開けてもよろしいでしょうか?」
反応が無い
藤田は黙った
「失礼します」
とカーテンに手をかける
中には人が寝ている
「失礼しました」
慌ててカーテンを閉めようと思ったが、伊達はいやなことに気づいてしまった。
血の気が引けるのが分かる
「ふ・・藤田先輩、今のJRの制服じゃなかったですか?」
えっ・・・
もう一度ゆっくりカーテンを開ける
「たしかにJRの制服だ。そして白石だ」
藤田先輩もさすがに顔が青くなっている
伊達は腰を抜かしてしまったが、藤田先輩は何とか落ち着いて脈を計る
「死んでる」
藤田先輩はさらに青くなっていた