19:03発札幌行き
伊達は興奮し切っていた。
青森車掌区に勤めて初めての寝台列車の勤務である。
いや、初めてといえば嘘になる。
前日の夜上りの北斗星の常務を行なった。
しかし、ほとんどのお客様が寝静まった後、特別することはなかったこともあり、今日の常務はその分楽しみだった。
尾久車両センターから本日常務となる24系寝台客車に乗り込んだ。
今まで「あけぼの」「北陸」にも乗務したことがある藤田先輩は
「大丈夫!!いざとなったら白石や船岡先輩がいるから」
そう言い笑いながら方を叩いた。
自分を頼れとは言わないところが藤田先輩らしいな・・・と思った。
車掌長の船岡先輩の指示で客車を先頭にする形で「北斗星」は上の駅へと向かっていった。
「北斗星」「あけぼの」「北陸」の様ないわゆるブルートレインでは原則として機関車とある方向にしか進めない。
そのため、東京駅発着の寝台特急「あさかぜ」などは先に別の機関車で客車を回送し、駅で牽引する機関車を連結していた。
しかしこの方法は機関車が2台必要になる上に客車と機関車で別のダイヤが必要となったためとても効率が悪かった。
上野駅ではホームの長さや車両区からの距離の関係上駅まで回送するための機関車を必要とせず、代わりにバック走行する「推進輸送」という方法をとっている。
その方法でゆっくりと走る車内で藤田は白石と
「そういえば、11号車の団体客はキャンセルだったよな?」
「あぁ、そうだけど9台は埋まってる」
「そうかい」
「そう」
その後、列車は有名な「上野駅13番ホーム」に滑り込んだ。
EF81形電気機関車引退の時に集まったファンは存在自体が危うくなった北斗星に相変わらずレンズを向けている。
船岡車掌長がドアを開け、乗客が乗ってきた。
通勤列車がひしめく上野駅で北斗星はどっしりと存在感を発揮していた。
19:03 上野発
北斗星は夜の帳が下り、かわりにネオン輝く上野駅を発車した。
客車列車特有のドアが閉まってから数秒たった後の発車や1両ずつ動き出す感覚は伊達にとってとても新鮮だった。
「ほら、夜景は後!!先にお客様にカードキー渡しな」
藤田さんはそう言って手を引いた。
同年代なのに藤田さんとしか話さない白石さんとはきっと何か根本から違うのだろう。
急いでずれ落ちそうになるカバンをかけなおしてから藤田さんの後を追った。
北斗星では切符を車掌に見せてから個室寝台のカードキ-を渡すことになっている。
藤田さんの手伝いもあり、大宮に到着する頃には担当の寝台の切符は切り終わった。
「全員の切符を切ったな、よし!船岡車掌長に報告に行こう!」
そう言うと、藤田さんはまた手を引いて1号