札幌行きのB寝台券
「石月、札幌に行ってくれないか?」
はじめはそんな会話だった。
「いいですけど・・・なんですか?」
服部隊長の言うことである、面倒事に巻き込まれかねない。
「こっちで追ってたスリの常習犯の南福島がいただろ。あいつが札幌で捕まったそうだ」
仙台駅鉄道警察隊が全力を上げても逮捕できなかったのに・・・。
何で捕まったかは少し興味があった。
「罪名は?」
「スリの現行犯」
服部隊長は少しムスッとしながら言った、道警においしい所を持っていかれたも同然だから当然といえば当然である。
「でもスリは現行犯じゃないと逮捕できないんじゃないんですか?」
「非番の警官がスリの現場を見つけて、逮捕したんだかあまりにも上手だったから問いただしたら・・・」
これ以上は言わせるなと、服部隊長はそっぽを向いてしまった。
こちらとしてもこれ以上は聞かずとも分かる。
・・・
「で・・・何をしに札幌まで行くんですか?」
「あ~、すまんすまん札幌で南福島の護送を頼む、本来なら道警の仕事だが、道警今忙しいから」
「分かりました。・・・でいつ行けば?」
「裁判が終わってからだから・・・お盆明けだな」
「ということは来週ですね」
せっかく札幌まで行くのなら、北斗星かカシオペアに乗りたいな・・・
そんなことを考えているうちに。
「はいよ」
そういって服部隊長はチケットを渡した。
航空券だろうな・・・やはり妄想は妄想だったか・・・
「あ・・・あれ」
多分俺の人生で一番マヌケな言葉だっただろう。
なぜならチケットの袋には緑字でJRと書いてあったからで・・・
ということは。
「やっぱり」
北斗星のB寝台券。切符を見ると最後尾11号車の7の上・下となっている。
ご丁寧に仙台~札幌となっている
「あ・・・ありがとうございます」
かなり拍子抜けしている・・・
「お前のことだ、航空券渡してもいずれこうなっただろう」
たしかにそうですが・・・
「後1枚は今日非番の新妻に渡しといて」
「はい、で新妻の切符はどうします?」
そう聞くと服部隊長は500円玉を手渡した。
「釣りは小遣いにでもしな」
仙台から新妻の住んででいる多賀城駅まで往復で460円・・・
お釣りは40円しかありませんよ
と思ったけど怒られそうだから自重。
その代わり急いで仙石線ホームに向かうことにした。
地上のムッとした暑さがない仙石線の地下ホームは遠かったがその分涼しさが身にしみた
津波の被害をモロに受けた仙石線だがあおば通~高城町と矢本~石巻で運転を再開している。
ちなみにだが新妻のマンションは海岸から離れた高台にあったために奇跡的に無事だった。
帰宅ラッシュということもあり、席には座れずぼんやりと多賀城駅まで連れて行かれた。
多賀城駅より徒歩15分ハイツ多賀城3階の315号室
新妻の部屋のチャイムを押した
ピンポーン
ありきたりなチャイムを鳴らすと
「あ~い」
面倒くささ丸出しのこの部屋の主新妻が顔を出した。
「何?」
面倒くさそうに聞いた
コレまでの服部隊長との件を説明した。
「でこれがその切符。寝台は下がいい?」
しばらく考えてから
「いや。上がいい」
と答えた。
「偶然だな俺も上段がいい」
「こういうときはやっぱり・・・」
『ジャーンケーンポン!!』