マルカ王家の双子をご紹介しましょう
マルカ王室の双子は嫌われ者である。
熱した鉄のような赤の巻毛とからし色の目をしたラトと、青みがかった暗い灰色の髪に深い緑の目のポル。
双子どころか、大陸の端と端から連れてきたってこんなには違わないだろうという様な対照的な色を持ちながら、どこをとってもそっくりな顔立ち。唯一揃いの肌の色は、病的なまでに青白かった。
「同じ塗り絵を2人の子供が塗ったみたいだね」なんて面白がっていたのは国王の実弟であるユンガ王子だけで、周りの全ての大人たち——王太后、宰相、大臣、法律家、神官、医者、侍女頭、果ては庭師の爺やまで——は口を揃えて凶兆だと言い、双子を忌み嫌った。
当時僅か17歳だった王妃は、我が子をその腕に抱くより先に、双子を殺せと主張してくる敵対貴族たちを黙らせなくてはならなかった。
出産の疲れを癒やす間もなく政治的な駆け引きに奔走した王妃は、無理が祟って床に寝付いてしまい、ついには王妃としての役目を果たせないことを理由に離縁を言い渡され、王宮から追放されてしまった。
双子を王宮に残して。
双子が生まれてすぐに殺されなかったのは王妃の尋常ならざる努力の賜物だ。しかし、王妃の追放後も王宮に囲い込まれ、王位継承権も奪われなかったのは、ラトがあまりにも優秀だったためだ。剣術、馬術、ダンス、礼法、そして語学。王族の子女に求められる能力をおよそ全て備えていたラトは、そろそろ跡取りをと考えていた老齢の国王にとって、手放してしまうには惜しかった。
だがしかし、ラトは女である。
マルカ王国には女王の前例は無いでもなかったが、流行病や内乱などの非常時にやむなく、といったケースが大半で、生まれた瞬間から次期国王として育てられた王女は1人もいない。まして、貴族や神官たちの猛反発を受けるのは想像に難く無い。
国王は先進的な考えの持ち主だったが、この状況でラトを後継者として指名してしまうのはさすがに躊躇われ、結局ポルと共に王の大叔母に当たる魔女の婆様に預け、王宮内の森の奥深くで隠すようにして育てさせることにした。
双子の親代わりとなった魔女の婆様というのは大層な変わり者で、王女でありながら若い時分から古代魔術の研究に傾倒し、森の奥の古代遺跡の一角の大図書館を勝手に修繕して住み着いて、数人の侍女たちと共に俗世から隔離された暮らしを送っていた。
ここに預けられるというのはいわば修道院送りのようなものである。国王はこの双子を王家の一員とするつもりはないのだろう、と王宮の人々は胸を撫で下ろした。
一方双子は大人たちの思惑など知らぬ顔で健やかに育ち、ラトは皇太子として申し分の無い才女に、ポルはというと、幼い頃から森の精霊たちや大量の本に囲まれて育ったためか、魔術と占星術にのめり込み、魔力量こそそう多くないものの、国内でも数人しか使える者のいない高等魔術をいくつも習得し、さらに古代魔術を転用して独自の魔術を編み出すなど、才能あふれる魔術の使い手となった。
能力だけ見れば素晴らしいこの双子だが、一つ致命的な欠点があった。
すこぶる、本当に大変すこぶる性格が悪いのである。
元々境遇が境遇なので、人間不信に陥るところまでは無理もないと思う。が、人が丹精込めて育てた花や薬草を魔術の練習台にして巨大な人喰い花にしたり、細心の注意を払ってツヤツヤに磨き上げた高価な壺を、耳飾りに丁度いいね、と躊躇なく叩き割り、挙句私が落としたかのように偽装したり、人の部屋の扉の上に卵を仕掛け、卵黄と卵白でデコレーションされた私を廊下の曲がり角から覗き込んでせせら笑っていた双子の顔はまさに悪魔、天性のサディストとしか言いようが無い——。
つい私怨が混じってしまった。
自己紹介が遅れたようだ。私の名前はルイーズ。かつては身分は低いながら貴族の娘として王立学院に通っていたが、卒業記念パーティで身に覚えのない窃盗事件の犯人として婚約者に断罪され、婚約破棄され、生家からは絶縁を言い渡され、行き場をなくしていたところを、当時から魔女の婆様として恐れられていたナーシャ様に気まぐれで拾われ、以来ナーシャ様の侍女兼研究助手としてここで暮らしている。
双子がやってきてからは、その世話係も押し付けられている。
完全無欠の才女だが人を騙し振り回すことを至上の喜びとするラトと、魔術の実験のためなら他人が泣こうが喚こうがお構いなしのポル。二人ともわがままで協調性は皆無。それでも森の奥にいる分には良かった。元々変わり者しかいない図書館である、困るのは二人にいじめられる私と家庭教師の老博士くらいのものだ。
ところが昨日、突然国王付きの文官から手紙が届いた。曰く、国王陛下が危篤なので王女殿下には至急城まで来て頂きたい、云々。
侍女は主人に似るものなのか、引きこもり揃いの図書館の侍女たちは誰一人城に行きたがらなかったため、一番若輩の私が双子のお供として城に赴くことになった。
正直気の進む外出ではなかったし、『術者の手を離れても持続する炎の魔術』の経過観察明けでもう2日寝ていなかったので眠くてたまらなかったが、仕事なのだし仕方がない。
ラトの悪戯に対処しながら、箪笥の奥から外出用のドレスを引っ張り出し、万年作業着でボサボサ頭のポルをなんとかまともな格好にし、念の為に葬式用の黒いドレスも何とか3着探し出して、双子を迎えの馬車に押し込んだ。
同じ王宮の敷地内とは言え、歩けば1時間近くかかる。使いの侍女ならともかく、仮にも王女をそこまで歩かせるわけにはいかないということだろう。そう思って、私は何の疑いもなく馬車に乗り込み、心地よい揺れについ微睡んで……
そして目が覚めると、私たちは見知らぬ部屋に閉じ込められていた。
……まさかそこまで嫌われていたとは。




