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春の到来

作者: タケヲ
掲載日:2026/04/28

「東京はもうすぐ春の到来でぽかぽか陽気になる見込みです」(57577)


僕は悪くない。僕はちゃんと要望通りにこまめに連絡をしていた。朝起きたら「おはよう」。仕事から帰ってきたら「ただいま」。寝る前には「おやすみ」。一緒じゃない日も今日はどこへ行くかとか誰と会うかとか、そういう詳細すらちゃんと事前報告をしていた。それで本人が嫌がるのなら友だちに謝り倒して予定を断ったりもしていた。そのくらい僕にはプライバシーも自己決定権もなかった。


そんな彼女から別れたいと言われたのがついさっき。急にファミレスに呼ばれたものだからなんだろうと思って向かったら開口一番「別れたい」。これだ。


たしかに僕も別れたいとは少し思っていた。整った顔立ちに一目惚れして猛アタックして恋を実らせたのは僕だがまさかこんな子だとは思っていなかった。付き合い始めるとなった瞬間に「じゃあ今度からこまめに連絡してきてね」と言われたとき、なんか、ヒヤッとした。


僕がすぐ要求を飲み込めばそのまますんなり別れられたかもしれない。だが残念ながら、好きなのだ。別れたいとは思っていても、やっぱ好きなのだ。プライバシーも自己決定権もない状態での付き合いでも、僕にとっての初めての彼女だったから大切にしたいと思ったし、やっぱ好きなのだ。


そう簡単に「はいわかりました」とも言えないし、そもそもあなたの要望通りにこまめに連絡をしていたし、何が不満なのですかといわんばかりの目つきで彼女を見た。


多分それらを声に出して言ったら泣いてしまう思って声に出さなかったのに察しのいい彼女は真昼間のファミレスで声を上げて泣き出した。事情を知らない周りのお客さんからしたらほぼ僕が悪者に見えてるだろう。本当に泣きたいのはこっちなのに。


「他に好きな人ができたの!」


あー、そうですか。


「だからさ!私と別れてよ!」


あー、そうですか。


「ねぇ!いいでしょ?ねぇ!」


こっちの意見も聞かずに一方的に別れを告げようとしている彼女を、もはや彼女ではない誰かのように見ていた。


伝票を手に取って「今日も僕が払うから。今度ゆっくり話そう」と言って泣いてる彼女をそのままにして僕はファミレスを出た。


今朝見たテレビでそろそろ春が到来すると言っていた。付き合い出したのもちょうどこんな時期だったのをふと思い出しながら僕は彼女に事前報告していない、友だちとの会う約束を果たすために電車に乗り込んだ。

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