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第二話

 結果で言えば、楽勝だった。

 それもそのはず、十五歳ほどの子供が受けるテストなど、ウグにとって赤子の手をひねるのと同じだ。特に、魔術式など得意分野というかその筋の人だ。できない方がおかしい。

 座り続けて硬くなった体をほぐすように背伸びをする。

 おごりはいけないことだが、自信があった。

 次は実技試験があるため、またまた移動中だ。その道中、また声をかけられた。


「あの、ウグ、様?」

「ああ、先ほどの。様はいらないよ」

「じゃあ、ウグさん?」

「敬称がいらないかな。どうしたんだ」


 先ほどのトランスが話しかけてきて、笑顔を見せる。

 ただ、悲しそうな顔になり、手をこね始める。


「ぼく、うまく問題が解けなくて……落ちてたらどうしよう……」

「まあ、心配するだけ無駄だろう。なに、実技もあるのだから、まだそう気を落とすな」

「うん、そうだよね」


 まだ悲しそうな顔をするトランスに、首をかしげてかける言葉を考える。

 そもそも、王子のような権力者は金を積めば、多少能力が足りていなくても入れるはずだ。

 うーんと悩んでいると、だんだんと暗い表情になっていくトランスを見て、あ、となる。


「悩んでも仕方がないことだ!」

「わあ!」


 トランスの背中を叩いて鼓舞する。それに対し驚き、躓きかけたが、ウグの顔を見て表情の暗さはなくなった。

 これでよかったのだろうかとも思ったが、トランスは少しうれしそうに笑った。


「あ、ありがとう。自信がなかったけど、ちょっと勇気が出たよ」

「それはよかった」


 深呼吸をして前を見据えるトランスを横目に、ウグは考え始める。

 次の実技テストは、剣術と魔術に分かれて行われる。現在の実力を図るためのものなので、ここはあまり点に含まれない。飛びぬけて優秀な者だけ見いだされ、筆記試験がお粗末な結果でも入れる可能性が生まれるのだ。逆もまたしかりである。

 つまり、珍しい魔法を使ったり、剣術で圧倒させたりしたらなんでもいいのだ。

 当然だが、ウグが本気を出せばこれで受かるが、今回はそうもいかない。


(あんまり目立ったら面倒だし、他の人たちが浮かばれないし、少し手を抜こうかな。それに――)


 このためだけに用意した、杖を収めたベルトのケースを見る。腕の長さほどの杖は、静かに収まっている。左手でそれを軽く触る。


(魔術の数も、出力も、制限されている。何だかむず痒いな)


 本来の力がほとんど封印されている。ウグの強みは何といっても、手数の多さだった。

 この世に現存するすべての魔術が使え、それを好きなように扱える。その中で組み合わせて、独自の魔法を作ってみたものだ。しかし、今はルドにかけられた魔術によっていろいろ制限がかかっている。

 同時に使用できる魔術の数が二つのみ。使える魔力は最小限まで下げられてかつ、杖を持った状態じゃないと魔術が使えない。

 もはやあきれ返るほどではあるが、それでもそこらの人に劣らないほどなので、正しい判断である。

 そんなこんなで、喋らない静かな状態で歩き、次の会場まで来た。

 ついたとこは筆記試験の会場と比べて小さいものではあったが、魔術試験を受ける大人数はちょうど入るほどだ。

 また、適当な椅子に座る。皆が落ち着いたときに、また試験官から話が始まった。


「皆にはここで待機してもらい、呼ばれたものから隣の部屋に来るように。三人一組で来てもらいます。終わった者から帰っていただいてもかまいません。質問はありませんか」


 また、空気がひりつく。誰も何も言わず、ただ前を見据えていた。


「では、番号一番から――――」









「――では、残った者たち。皆隣の部屋へ」


 ウグは最後まで残っていた。待ちくたびれて、眠くなるほどだ。

 やっと出番かと立ち上がり、口元を隠して少し欠伸をする。トランスはとっくのとうに終わって帰っており、本当にやることがなかった。

 隣の部屋に行くと、離れたところに複数の的が立てられており、手前のほうに赤い線が引かれていた。

 魔術の精度を測定する試験だと考えたウグは、正直ほっとした。


(威力とかじゃなくてよかった)


 ウグ達三人は赤い線に沿って横に並んで、的の前あたりに立つ。ウグは一番端の扉近くに立った。


「今から一人ずつ、得意魔術を遠くの的に三回当ててもらいます。それぞれ、どのような魔術を使ってもらって構いません。三回違う魔術でもいいし、同じ魔術でもいいです。質問は」


 質問は、当然ない。と思っていると、ウグの隣の隣に立っていたピンク髪の少女が手を上げた。


「質問なんですけど、珍しい魔術のほうがよかったりしますか?」


 なんて場違いな子だ!と驚き、ウグはとっさにそちらを見る。そんな質問すべきことじゃないことを、堂々と、試験官の前で。さすがの試験官も呆れた顔をしている。

 テストの答えを先生に聞いているのと同じだ。そんなこと聞かれても答えられない。

 当然、試験官の答えはウグの予想通りだった。


「……その質問に関しては、答えられません」


 まあ、当然だ、と思って小さくうなずいていると、隣の少年が少し興味あり気に少女を見る。


「――自由に生きている。いい……」


(はぁ~?)


 隣に立っているので当然、少年のつぶやきは聞こえている。こいつは常識外れのいかれた少女に惹かれているのだ。

 逆に興味がわいて、二人の顔をしっかり見てみる。

 少女のほうは、どことなく平凡で、万人受けしそうな顔立ちをしており、それをピンクの髪で魅力を上げているような感じである。

 少年のほうは、近寄りづらいタイプの美人顔で、ミステリアスな雰囲気と紫の髪があっている。

 そうして顔を覚えたウグがやることは一つ。


(入学後、こいつらがいても絶対に関わらないようにしよう)


 無視である。


「……もうないですか?それでは、番号三十八番、アザレアさん、お願いします」


 そうして少女が杖を構え、詠唱を始める。その詠唱は、確かに珍しい、光魔術のものだった。

 それにしてもと詠唱を聞き、不安を覚える。ウグの認識が正しければ、今詠唱している光魔術は攻撃、魔術の中でもかなり殺傷能力が高いもの。的ごときでは収まらず、壁を貫通することも可能だろう。

 その分詠唱は長いが、聞いていくうちに冷や汗が流れる。

 もし本当に発動したら、非常に危険である。


「――試験官!魔法の許可を!!」

「は」


 ウグは叫び、杖を取り出す。

 制止の言葉も聞かず、結界の魔法を部屋全体と人に発動させた瞬間、目がつぶれるほどの光が部屋を包む。

 最近もこんなことあったなと思いながら、相殺のため闇魔術を発動させ、光を収める。光が晴れた部屋では、呆然と立っている試験官と、失神した少年が倒れていた。少女はそんなことお構いなしに、「あれ~?」と言っている。


「普通にやっただけなんだけどな~」


 的を見れば全て壊れており、周りを巻き込む可能性を考慮していない、あり得ない威力で魔術を使ったのだと想像できる。

 まさか、魔法の制御すらできない赤子なのか。


「……退場です。連れて行ってください」

「え?何?ちょっ、何なのあなたたち!?」


 ぞろぞろと警備員が現れ、わめき叫ぶ少女をお構いなしに部屋の外に連れていく。正しい判断で何よりと感心して杖を収め、少年に近づく。完全に意識が飛んでいるが、先ほどの光で目がつぶれていないか確認する必要がある。顔をぺちぺちと叩く。


「おーい起きろ。大丈夫か」

「――ぅ、何が、起きて?」


 ぼんやりと起きた少年は、目をこすりながら周りを見ようと首を振る。


「体に異常は」

「え、誰?そこに誰かいるのか?」

「……失礼。彼はこちらで見させていただきます。適切な対処ありがとうございました」

「ああ、わかりました。頼みます」


 試験官が少年を担ぎ、部屋を出る。

 部屋に一人残されたウグが、どうしろとと悩んでいると、代わりの試験官が部屋に入ってきた。


「――ウグさんですよね。あなたの試験は免除されましたので」

「え、何で」

「帰っていただいてもかまいません」


 なんでも、対処のために使った魔術で、試験に十分なほどだったらしい。

 早速おかしなことに巻き込まれたなと思いながら帰路につく。どうせ受かってはいるだろうが、願うことが増えた。


(トランスは、受かってるといいな。あの少年はご愁傷様。少女は落ちててくれ)

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