アガネを射る少年
「ん…… ここかな」
ハイゼと呼ばれる大樹が群生するタラトゥーの森の中。そこにアガネという大鹿にも似た動物を狙って弓を引き絞る少年がいた。
「頭を狙って────」
スパン、と少年の手から放たれた矢は、木々の間を通ってまっすぐと直進し、耳からアガネの体内に侵入する。そして、十分すぎるほどの威力を保った矢はそのままアガネの脳の弱点となる部位を貫いたようだった。アガネは一瞬ビクッと体を震わせた後、その場に倒れた。それを隣で見ていたリフという少年が思わず声を上げる。
「おお! すごいっすね!」
「たまたまだよ」
弓を射た少年はそう言って、倒れたアガネの場所まで向かう。アガネはこの森では中位程度の力を持つ動物であり、決して弱い生き物ではない。体は強靭な筋肉で包まれており、知能もそこそこに高い。人が正面から戦う場合、10〜15人で交代しながら少しずつ削るやり方でないと勝利するのは難しいだろう。そんなアガネの唯一弱点となるのは脳の中心部分に存在するナズと呼ばれる核である。正面からだと鼻の付け根あたりに位置するが、ここも当然のように硬いため、狙うのは困難だ。そこで、弓術に優れた一部の人間は比較的柔らかい耳から矢を通し、ナズまで矢を到達させることでアガネを狩るのだ。これには、正確なナズの位置の把握、弓を射る場所とアガネとの細かい角度調整、そして確実にナズまで到達させる威力を保った矢を放つ弓の技術がいる。




