prologue
ある日の夜、俺はこの世を去った。
通り魔に刺されたとか、ダンプカーに引かれてミンチになったとか、死因がそんなんであればまだ受け入れることができたのかもしれない。
だが、俺に死をもたらしたのは刃物でも、ましてや車でもない。〝化け物〟だった。
ドス黒い肌をした骨と皮ばかりの痩せこけた体。血のような赤い瞳。背中から蝙蝠の羽を思わせる翼を生やしたそいつは、まるで聖書に出てくる悪魔の姿そのものだった。
そんなこの世ならざる異形に、俺はなんの抵抗をする間もなく無残に殺された。薄れゆく意識の中、最後に見たのは、奴が俺の腸を引き裂き臓物を貪り食うという最悪の光景。
どうして俺なんだ? 移民を語るテロリストとか、汚職を働く政治家たちがそうなるのならまだしも、筋トレとゲームが趣味の、探せばどこにでもいる一般人が迎える最期にしてはあまりに残酷過ぎるじゃないか。
そんな、怒りにも似た感情が胸中を駆け巡る。そして……そこで俺の意識は完全に途絶えた。
───はずだった。
気が付くと、俺は地球とは違うどこか別の世界に《レオン・グラディウス》という名の赤ん坊に生まれ変わっていた。所謂〝転生〟というやつだ。
俺が産まれた家《グラディウス家》は代々王国に仕える騎士の家系で、過去に優秀な騎士を多く輩出してきた由緒正しき武門の家なのだそうだ。因みに、この世界は中世ヨーロッパに近い文化で、生活水準もその辺に近いレベルだ。
なんの因果か知らないが、ひとまず第二の人生を得られたことを素直に喜ぶとしよう。あんな最期を迎えてチャン、チャン。なんて御免被る。さて、新しい人生、何をして過ごそうか───。
なんて、考えてたら、あっという間に三年の時が流れた。
因みに今、俺が何をしているのかというと、現グラディウス家当主……つまり今世の父を相手に鍛錬の真っ最中だ。「武門の男は早いうちから戦い方を身に付けておかねばならない」と、父にそう言われ、数日前から始まった稽古だったが、これがまぁ地獄のような毎日で、三歳児を相手に情け容赦なく木剣を振るってくるもんだから、俺の身体には既に大小多くの痣や傷が出来ていた。ここが地球なら児童虐待で大炎上ものである。
だが、不思議と充実感を感じていたのも確かだ。筋トレと同じで、努力すればした分だけ自分に返ってきたし、何より〝剣を振るって戦う〟という行為が思いのほか楽しかったのだ。
そうして、なんだかんだ充実した日々を送り始めて二年が過ぎた頃、
「出ていけ、この呪われた子め」
突然、家を追い出されてしまった。