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第5話

 2日後の朝、バケツの水に(ひた)しておいた粘土を確認すると薄い灰色の個性的な色になっていた。

 手に取ってみると適度に硬く、しっとりした感触が伝わってきたので栗原は早速、試し焼き用に小さな茶碗(ちゃわん)を創ってみる事にする。


 作業小屋で段ボールに入れっぱなしのろくろを取り出して回してみると、粘土は思った通り適度な硬さと粘りがあって成形(せいけい)しやすい。

 どんな色や風合いになるのかは実際に焼いてみないとわからないが、栗原は粒子が細かくて(なめ)らかなその粘土を気に入ったし、良い物が出来ると感じていた。

 しかしいくらその粘土が良くても登山道は歩行者専用で車が入れないから、どうやって運ぶのかという現実的な問題を解決しなくては陶芸に使うことは出来ないのだった。



 次の日、ここにいた陶芸家はどうやって粘土を運んだのか考えてみたがわからず、車以外に何が使えるのかも想像できなかった栗原は採取した場所までの状況を詳しく調べる為に再び山へ行ってみることにした。

 勾配の具合(ぐあい)や地面の状態、道の幅を後からでも確認出来るようにとスマートフォンで動画を撮りながら登り、何か気付いたことがあると『ここは勾配がかなりきつい…』、『地面がぬかるんで滑りやすい…』という具合に音声メモとして残していく。


 周囲の状況がわかるように前だけでなく左右と後方も撮影しながら1時間半程掛け、粘土を採取した広場がある茂みの前に到着した。

 先日、栗原が鎌で刈り取ったばかりなので、茂みの中に砂利敷きの道があるのがハッキリ見える。

 あちこちに刈った草や細い枝が散らかったままで何も変わっていなかったが、一休みしようとそこに腰を下ろすと、茂みの向こうから話し声のようなものが聞えてきた。


 ここまで誰も見かけなかったのでその声に少し驚いたが、もしかしたらこの土地の所有者が勝手に茂みを刈られた事に気付いて誰かに相談しているのかも知れないと思い始めた。

 それが広場の持ち主なら勝手に粘土を持ち帰った事を(あやま)らなくてはならないと思い、耳を澄ましてみるが聞いた事のない言葉の上、録画したドラマを3倍速再生しているような早口で何を話しているのかさっぱり解らない。


 高さが3メートル近い茂みのせいで向こう側を見る事が出来ず、聞こえてくるのは知らない言葉ばかりでだんだん不安になってきた栗原はそっと砂利敷きの道を(のぞ)いてみる。


 すると、20メートル位先の広場を黒い姿の小さな人が横切った。


 「!!…」

 ギョッとした栗原は思わず息を飲んだ。


 砂利敷きの道幅は60センチ位なのでほんの一瞬だったが、身長が子供くらいのその人は黒っぽい奇妙な()()ちをしていた。

 何か不気味(ぶきみ)な感じがして金縛(かなしば)りにあったように動けなくなったその視線の先を再び同じ人が横切ると、今度は何が奇妙だったのかハッキリわかった。


 大人か子供か分からないが身長は140センチ程でその身体に比べて頭は大きく、洋ナシを逆さまにしたような顔に人の2倍はありそうな目が2つ突き出てていた。

その広い額にはきれいに切り(そろ)えた前髪が着ているフード付きのウエットスースからはみ出ていて、見ようによってはサザエやアワビを捕る漁師だと言えなくもないが人の2倍もある目は明らかに普通ではなかった。


 伝統的な踊りの練習をしている島の子供達がお面を付けていただけかも知れないが、実際に見た栗原には得体(えたい)の知れないものとしか思えず、恐怖でそこから動けずにいた。


 しばらくすると、視線の先を同じ姿の人が横切る。


 音を立てずにじっとしているとその後、左右から何人も横切るようになり、同じ人が何度も通ったのかそれとも似ている違う人なのかわからなくなった。

 やがて、意味の解らない3倍速再生の言葉はあちこちから聞こえてくるようになり、奇妙な姿の人が少なくとも4、5人はいるようだった。


 栗原は意を決して砂利敷きの道を(あと)ずさり、茂みから出ることに成功した。

 理由はないが、走ればその人達が追いかけてきそうな気がして出来る限りの速足(はやあし)で1度も振り返らずに登山道を下っていく。



 木々の隙間(すきま)から自宅が見える所まで来て、ようやく落ち着いた栗原はそこで立ち止まると深呼吸をして、奇妙な姿の人を目撃した山の方へ振り返った。

 登山道を下りながらずっと、奇妙な人達は化け物みたいに恐ろしい姿をしていたわけでなく、襲いかかってきたわけでもないので怖がる必要はないのだと自分に言い聞かせ続けた。

 徐々にそう思えてくるようになって怖さは(やわ)らいだが、神聖(しんせい)儀式(ぎしき)(のぞ)き見てしまった時の畏敬(いけい)の念みたいなものが残っていて、心臓はまだドキドキしている。


 栗原は縁側から自宅に上がると全ての部屋を見て回り、異常がないのを確認してからリビングのソファに腰かけた。

 家の中は普段通りに静まり返っていたが、その静けさが先程の奇妙な人の姿を思い出させる。


 再び不安に(おそ)われると1人でいるのが怖くなって外に出てみたが、行く当てがないのでとりあえず船着き場の売店を目指して海沿(うみぞ)いの道路を歩き始めた。

 栗原は今日、山に行ったのが粘土を運ぶ方法の調査だったことをすっかり忘れ、歩きながら黒いウエットスーツを着た人達があそこで何をして、何を話していたのかずっと考えていた。


 そんな事を考えながら歩いていたせいか、気が付くと売店まであと50メートルの所まで来ていた。

 2台の軽トラックと軽のワンボックスが1台、船着き場に停まっているのを見ながら歩いて売店内の様子がわかる所まで来ると、中年の男女が初老の男性と何か話している。

 歩きながら3人の姿を見ているうちに、もしかしたらその中の誰かが栗原と同じように山で奇妙な人達を目撃し、そのことを話しあっているのかも知れないと思えてきた。


 3人が何を話しているのか知りたくなると徐々に足が速くなっていく。


 早足で店の入口へまで行き、そのままの勢いで開いているガラス戸から中に入ると3人が一斉(いっせい)に栗原の方へ顔を向けた。


 背中を向けていた初老の男性が振り返ると区長の高橋で、

「あ、栗原さん。そんなに急いで…、何か起きましたか?」と笑いながら訊いてくる。


 栗原は慌てていた自分が恥ずかしくなり、

「こんにちは!」と平静を(よそお)いながら頭を下げたが、それが余計に変だったのか3人で不思議そうな顔をして黙っている。


 妙な雰囲気になって困っていると高橋は

「そうか、栗原さん初めてでしたね」栗原が他の2人とは初対面だということに気付き、「こちらは島の反対側でみかん農家をされてる横井さんです」そう言って中年の男女を手の平で示す。

 その後、今度は横井達の方を見て、「こちらは先月、東京から越してきた陶芸家の栗原さん」と栗原のことを紹介した。



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