第46話
栗原は全てがバレてしまったのかも知れないと思い、
「宇宙人、由紀子がなんで宇宙人と?…、そんな事があるはずがない! どこへ、僕を置いてどこへ行くと言うんです?…」かなり焦って白々しい演技をしてしまう。
それを見たアジア人風の男は疑いが確証に変わったのか不敵な笑みを浮かべ、
「すでに証拠を手に入れているのですが…、それでも知らないと言うつもりですか?」1冊の単行本を取り出した。
表紙を見ると『夢日記』と手書きの文字があるだけで、それが一体何を意味するのかわからない栗原は
「その本が由紀子の失踪とどう関係しているのですか? 僕はそんなものを見た事がないし、表紙の文字だって由紀子のものではありませんよ」と演技ではなく本当に困惑して答えた。
「ご存じでしょうが…、この『夢日記』は田口さんというおばあさんが数十年前に書いたもので、子供の頃に経験した事を夢で見た事のように書いたものなのです」その男が栗原の表情を観察しながらゆっくり話す。
その話を聞いた栗原は何故そんなものが宇宙人や宇宙船、そして由紀子にまで関係するのか見当が付かず、男が一体何を言おうとしているのかも全くわからなかった。
アジア人風の男はそんな栗原の表情を見て、本当に知らないと思ったらしく、
「ご存じなかったのですか?…」少し驚きながら言い、「あのおばあさんも宇宙人に遭遇していたようなのです。それも60年以上前にね…。しかも、宇宙人の住む星に行ったことまであるようなのです」意外そうな顔でその内容を丁寧に説明した。
「宇宙人の星に行ったことがあると?…」男の話に本当に驚きながら栗原が訊くと、
「その星の美しさが詳しく『夢日記』に綴られているので恐らく真実でしょう。由紀子さんはおばあさんからこれを見せられ、その星に行きたくなったのかも知れないのです。日記に付いた指紋の数から、おばあさん亡き後も売店で度々読んでいたようです」男はそう言うと栗原に日記を手渡した。
栗原がその日記の表紙を不思議そうに見ていると、
「読みたければどうぞ。その日記がもとであなたは捨てられてしまったのですから、読む権利くらいはあるでしょう…」と由紀子が栗原を捨てて家を出ていってしまったかのように告げ、同情を見せた。
別の星へ行きたくなったという理由で妻に捨てられてしまうような男が小細工など出来る筈がないと思ったのか、男はそれ以上何も訊かずに日記を読み終えるのを待った。
「信じて貰えないかも知れませんが我々の目的は宇宙人と交戦する事ではなく、彼らの高度な科学技術を借りて地球温暖化を食い止める事なのです。資本主義社会では現在のやり方が限界で温暖化のスピードがさらに加速すれば、宇宙人が示したように50年で地球が滅亡すると多くの科学者が言っています。あなたがその星の場所か彼らとのコンタクト方法を知っていれば、地球を滅亡から救うことが出来たかもしれないのです…」肩を落としたアジア人風の男は心の底から残念がっているようだった。
「突然、こんな場所へお連れして申し訳ありませんでした。我々の地球を救いたいと思う気持ちをご理解頂き、数々のご無礼をお許しください。これからご自宅までお送りします」アジア人風の男はそう言うと栗原に深く頭を下げ、スーツ姿の男達に合図した。
午後8時頃、自宅に送ってもらった栗原は身も心も疲れ切っていたが、無事解放されたことを伝える為にヨシ坊のガソリンスタンドに電話をかける。
呼び出し音が鳴るや否やヨシ坊が出たので解放されたことを伝えると、
「無事で良かったっすねー!。駐在さんへ相談したら、人に明かすと栗原さんの命が危なくなるって言われ、ここで連絡を待つことにしたんっす」と少し疲れた声で応えた。
電話を終えた栗原はソファに腰掛けてため息をつくと、由紀子を探すフリをしながら一晩中車で走り回った後に自衛隊へ連行され、ようやく帰してもらったと思えば今度はヨシ坊を巻き込んで逃走劇を演じた挙句、外国の機関に拘束されてしまうという人生で最も長くて異常な1日を思い返していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
外が明るくなってくると、栗原は徐々に目を覚ました。
天井の照明が点きっぱなしなのを見て、ソファで考え事をしている内に眠ってしまったのだと気付く。
静まり返ったリビングを見回すと、いつも元気よく『おはよう!』と声を掛けてくる由紀子がもう地球にはいないのだという現実が突き付けられる。
そして、2日前の最後の別れが脳裏に蘇り、ジュシスの由紀子は今頃どんな朝を迎えて誰に『おはよう』を言うのだろうかと思った。
最愛の妻と会えなくなった辛さを感じる間もない程慌ただしく過ぎ去ったこの2日間が、自分にとって幸運だったかそれとも不運かと無意味な事を考えていると栗原の耳に遠くからヘリコプターの音が届く。
ここにいれば再び拘束されてしまうかも知れないが、朝までこうして何事もなく眠れたのなら何かを訊きだそうと企む組織はもうないか、その必要がなくなったのだと栗原は思った。
もしかしたらスーツ姿の外国人とあご髭のアジア人は国連のような機関に所属していて、栗原が何も知らないことを世界中へ伝えたのかも知れない。
栗原は逃げ回るのをやめ、車に積み込んだ荷物を降ろそうとして自分の軽トラがスタンドのガレージにあるという事に気付いた。
時計を見ると5時を示していて、開店までは大分時間があったが由紀子を捜す演技を兼ね、ヨシ坊のガソリンスタンドへ歩いて向かうことにする。
海岸沿いの道路を砂浜や岩場へ寄り道しながら歩いていると、バイクに乗った駐在所の警察官と出会った。
「栗原さん、ご無事で良かった!!」遠くから大声で言いながら近づき、「誘拐するなんて、いったいどんな組織が?…」とバイクを停めて訊くので
「どこの組織かは知りませんが実際は誘拐されたのではなく、訊きたい事があるというから車に乗って行っただけです。乱暴される事もなく終始、紳士的な対応でちゃんと自宅まで送ってくれましたので被害届を出す必要もありません」栗原は知りたいだろうと思い、詳しく話した。
「わかりました。この島で何が起きているのかは、まだハッキリしていないので今後も気を付けてください」と警察官がバイクを出そうとするので、
「それより由紀子を探さないと…」捜索の状況をそれとなく訊ねてみると、
「あっ、そうでした。由紀子さんの方は本土から応援が来ることになりましたので、何かあればすぐにお知らせします」すぐにそう告げ、敬礼するとバイクで走り去った。




