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第44話

「そんな男達に心当たりはありませんね…。妻がいなくなった事と関係があるとも思えないし…」自衛隊以外の機関が調査に来たのだと思いながら栗原は答えた。


「夜中からヘリコプターが飛び()ってるし、何が起きたのか駐在(ちゅうざい)さんも知らないらしいんっす」とヨシ坊が人差し指を空に向けて心配そうに言うので、

「自衛隊員から聞いた話では昨日、この(あた)りに宇宙船が着陸したという事です。それについて色々訊かれましたが僕は見ても聞いてもいないので困りましたよ…」口外(こうがい)するなとは言われなかったので、栗原はありのままを話した。


「まさか…、あの男達が宇宙人で、奥さんはそいつらに誘拐(ゆうかい)されたとか?」ヨシ坊が驚きながらも真面目な顔で言うので、

「どんな理由で?」栗原が訊くと、

「そうっすよねー。宇宙からわざわざこんな島へ来るわけないっすね!」ヨシ坊はそう言って笑ったが、「でも、何か危険な感じがしますよ。栗原さんも充分気を付けてくださいね」と再び真顔になって告げる。


 ヨシ坊は少しの間、何かを考えるようにした後、

「そうだ、秘密裏(ひみつり)に島を出なきゃならない時は、ウチの古いタンクローリーに隠れてフェリーに乗れば誰にも見つからないっすよ。中に入れるよう、タンクを奇麗に洗っときます」小声でそう言い、ニヤッと笑った。


 栗原が助手席から降りると、

「これからあちこちへ灯油を運ぶんで、奥さんを見掛けた人がいないか訊いてみますよ」ヨシ坊はそう言い残し、タンクローリーは遠ざかっていった。


 ヨシ坊が去ると由紀子を探す演技を続ける為、栗原は再び軽トラックに乗って出掛けた。

 車を走らせながら、スーツ姿の男達へどう対応するか考えてみる。


 ヨシ坊の話から、外国の諜報機関(ちょうほうきかん)のような組織が栗原から何か聞き出そうとしているのは間違いなかった。

 もしかしたら拘束(こうそく)されてしまう可能性もあるが、銀河の名前すら知らない栗原にジュシスの場所を答えられる筈はなく、由紀子達に危険が及ぶことも絶対にない。

 それより心配なのは答えられないことを白状(はくじょう)しないでいると勘違(かんちがい)いされ、どうにか聞き出そうとして拷問(ごうもん)みたいな事をされることだった。


 栗原は色々考えた挙句、しばらく車の中で暮らすことにした。

 そうすれば、ひたすら由紀子を探し続ける姿を島の人に見せられ、失踪したと言う栗原の言葉を誰も嘘だとは言わないだろうし、スーツ姿の男達が現れてもすぐに逃げられる。

 そんなことを考えていると、突如(とつじょ)として(あるじ)を失ってしまった売店の事が気になり始め、その相談をする為に高橋の家へ向かった。


 家に着くと、忙しそうな高橋が玄関から出てくるところで、

「あぁ、栗原さん。奥さんは見つかりましたか?」栗原を見てすぐにそう訊ねる。


「あちこち探しているんですが…、それより…」声を落としてそこまで言うと、

「売店の事なら心配いらんよ…、弘子さんが午前中だけ開けてくれることになったんでね。これから売店で打ち合わせするんだ」そう話しながら車のドアを開け、「そうだ。あんたも一緒に来て、何か手掛かりでも探してみたらどうだろ」と気が付いたように言うので、

「そうですね。売店とは、考えもしませんでした…」と栗原も急いで軽トラに乗り込んだ。


 高橋を追いながら軽トラで売店の前まで乗り付けると、既に紫色のワンボックスが停まっている。


 2台の車を見た弘子が運転席から出てきたので、

「すみません、ご迷惑をお掛けして…」栗原もすぐに車から降りて深く頭を下げた。


「迷惑なんてことはありませんよ。それより奥さんを早く見つけないと…」首を横に振りながら弘子は心配そうにした。


 ガラス戸の鍵を開けて店に入ると高橋と弘子の2人は急ぎの仕事が書かれたホワイトボードを見に行くが、栗原はそこに立ったまま何だか分からない違和感に戸惑(とまど)っていた。

 店内が荒らされていたり引出(ひきだし)が開けられていた訳ではなく、ショーケースやアイスクリームの冷蔵庫も由紀子がいた頃のまま何も変わっていないが、店の中が少し(ゆが)んでいるように感じたのだ。


 パンのガラスケースの足元に目をやると4つあるキャスターの全てが前を向いていて、栗原にある想像を抱かせる。


 由紀子は店内の配置を以前のまま一切変更せずに、正面のガラスケース越しにおばあさんがいたことまで変えず、自分もその場所に座るようにしていた。

 しかし、ガラスケースは簡単に動かせるように足元がキャスターになっている為、客が代金を渡す(たび)に少しずつ押され、気付くと元の位置から大きくずれていることが多かった。

 配置が変わってしまうのを嫌った由紀子はキャスターを横向きにすることで、それを防いでいたのだが今はそうなっていない。


 恐らく、誰かが店にあるものを全て動かした後、元の位置に戻したつもりが少しだけずれていて、店内を歪んで見せたのだろう。

 由紀子は設計の仕事をしていたからか直角や平行に置かれていない事を嫌い、什器(じゅうき)の配置にはいつも気を(つか)っていたからその違いに気付けたのだ。


 栗原は宇宙船が着陸してからまだ16時間程しか経っていないことに気付き、店にあるもの全てを動かして調べた上、元に戻していくという(はな)(わざ)をやってのける組織を想像して身震(みぶる)いした。

 そんな組織なら店だけでなく、全ての部屋も床下(ゆかした)から天井裏(てんじょううら)まで入念(にゅうねん)に調査しただろうし、売店にあるもの以外に仕事内容や由紀子の素性(すじょう)についても色々な情報を(つか)んでいるだろうと思った。


 売店のことは弘子に任せて帰った方が良いと言う高橋に(うなが)され、軽トラで自宅に戻ると11時を過ぎていた。

 庭に続くスロープを上りきったところでヨシ坊が教えてくれたスーツ姿の男達のことが頭をよぎり、何処かに(ひそ)んでいるかも知れないと思うと栗原は車から出られなくなった。

 昼食も食べられずに困っているとそこへ、駐在所(ちゅうざいしょ)の警察官がバイクに乗ってやってきた。


 警察官がいればさすがに(おそ)ってこないだろうと思い、ホッとしていると、

「栗原さん、まだ奥さんは見つかりませんか?」警察官は開口一番にそう言い、栗原が首を横に振ると、「一応、捜索願(そうさくねが)いを出して(もら)わんと警察は動けんので…」そう言いながら書類を差し出した。


 安全の為にしばらく車で暮らすと決めていた栗原はこのチャンスを利用して家の中から生活に必要なものを持ち出すことにした。

 事情聴取(じじょうちょうしゅ)を始めた警察官を縁側まで誘導(ゆうどう)し、質問に答えながら軽トラと家を行ったり来たりして、1ヶ月以上暮らせる荷物を積み込んだ。


 駐在所の警察官がいなくなり、再び不安に襲われた栗原はすぐ逃げられるように道路へ続くスロープに軽トラを停め直すがそこからはアトリエが邪魔で敷地の裏手が見通せず、誰かが近づいてもすぐには気付けない。


 良い場所を探しながら車であちこち移動してみて、何処から近づいても丸見(まるみ)えな上、距離があって逃げる為の時間も(かせ)げる庭の真ん中が一番安全だということになった。


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