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第40話

 由紀子が売店のテレビで10時のニュースを見ていると、入り口の開いたままになっているガラス戸から区長の高橋が入ってきた。


「日本もついに核兵器(かくへいき)を持つようになっちゃったんだな。原爆(げんばく)犠牲(ぎせい)になった人達が見たらどう(おも)うんだろうか…」(かぶ)っていたキャップを団扇(うちわ)代わりにして顔を(あお)ぎながら呟いた。


「核ミサイル20基を宇宙に向けて配備したと…たった今、ニュースで知りました…」由紀子はテレビを消して(けわ)しい顔のままそう応えた。


 その表情を見た高橋は何も言わず、入り口の冷蔵ケースからアイスキャンディーを1つ取り出すと由紀子の前のガラスケースに代金を置き、椅子の1つに腰かけて食べ始めた。


 高橋と由紀子はそれぞれ何かを考えているだけで言葉も交わさず、売店の中は外からの(せみ)の声だけが響いていた。



 シニアとスリムはジュニアを星へ送った後も1週間は山の広場から地球の様子を伺っていたが、あまりの混乱に今、協力を得るのは不可能だと同行の人達と共にジュシスへ帰ってしまった。

 そして、4ヶ月経った今も彼らからは何の連絡もなかった。


 ジュシスの人達が戦うという発想を全く持たない平和主義者だと知った由紀子は地球の人の好戦的(こうせんてき)な態度やヒステリックなまでに(おび)える姿を毎日ニュースで見て、自分が同じ地球人であることにうんざりしていた。

 その後、先制攻撃(せんせいこうげき)をすべきと主張していた国が宇宙人達の星を突き止める為に宇宙へ衛星を飛ばしたという嘘かホントかわからない(うわさ)を耳にすると、いつかジュシスを発見して(ほろ)ぼしてしまうのではと思うようになっていった。


 ジュシスは別の銀河にあるので簡単には発見されない筈だが、『移住・環境大臣』が話したようにシンプルな科学技術でそこへ辿(たど)り着けるのなら、将来もずっと安全だとは限らない。

 もし、地球人がジュシスの征服(せいふく)(たくら)んで攻撃を仕掛けたら、戦う手段を持たない彼らは全滅するか地球人の言いなりになるしかないのだ。


「私が守ってあげないと…」そんな事を考えていた由紀子が思わず呟く。


高橋は顔を上げて何か言い掛けたが、

「さあ、(あぶら)ばかり売ってるとばあさんに怒られちゃうから、帰るとすっか…」と食べ終わったアイスの袋を丸めながら出ていった。



 夕方、迎えに来た軽トラの助手席で、

「地球の攻撃に(そな)えるよう、ジュシスの人達に伝えないといけないわ。日本からも宇宙へ向けて核ミサイルが配備されたんだから…」と由紀子は運転席の栗原を見て言った。


 送迎(そうげい)の車ではいつも帳面(ちょうめん)を見ながら翌日の段取(だんど)りをするので何も話さない筈の由紀子が、助手席に座った途端に口を開くので栗原は驚いたが、

「こちらから連絡を取る方法はないからなあ…」現実的に考えてそう返事し、「それに、戦う事を知らない彼らは何をどう(そな)えれば良いのか分からないだろうし…」と困った顔で黙る。


「…じゃあ、どうしたらジュシスを攻撃から守れるの?」由紀子がそれ以上何も言わない栗原に()れて訊くと、

「戦う経験のない彼らにとって防衛(ぼうえい)は最も難しいことだろう。もしジュシスを守りたいなら、攻撃(こうげき)は最大の防御(ぼうぎょ)と言われる通り、地球を跡形(あとかた)もなく消滅(しょうめつ)させてしまえばイイ。高度な科学技術を持つ彼らには防衛するより(はる)かに簡単なことだと思うよ」と冗談(じょうだん)交じりで答えた。


「地球を消滅させられたら、わたし達が困っちゃうじゃない…」由紀子が口を(とが)らせるので

「それは宇宙の環境破壊だと言うだろうし、彼らの故郷でもある地球を消滅させるような事はしないさ…」栗原は真顔(まがお)になってそう告げ、車を出した。



 夕食を終えた由紀子は自分の部屋で1人、『夢日記』のことを考えていた。


 その日記に書かれていた生物多様性(せいぶつたようせい)や自然を大切に思うジュシス人のことを想像すると、おばあさんが最後に書いた『その星の美しさは筆舌(ひつぜつ)()くしがたい程だ…』という一文(いちぶん)が目に浮かぶ。


 言葉では表現出来ない程に美しい、そんな星で1日でもジュニアと過ごせたおばあさんの事が今はとても(うらや)ましかった。

 そして、自分もその美しい星を(おとず)れ、もう一緒に過ごすことが出来なくなってしまったジュニアの事を感じたいと心から願った。


  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 連日、核ミサイルを完成させて配備したとのニュースが続く中、あるデマが世界中に配信された。


 それは、宇宙人達が3000年前に脱出した人類だと嘘をついて地球を植民地(しょくみんち)にしようとしていたという作り話だった。

 しかも、宇宙人が(しめ)した科学的データは全て出鱈目(でたらめ)で、だから地球の科学者が内容を解明できないのだというもっともらしい理由まで(あわ)せて配信されていたのだ。


 いつまでたっても地球が攻撃されないので余裕(よゆう)が出てきたのか、テレビなどのメディアは視聴率を(かせ)ごうと宇宙人の話題をエンターテインメント化し、事実に(もと)づかない空想のようなものばかり放送していた。

 過激なものでは宇宙人が地球人の子供を食べているところや、宇宙船が世界の都市を焼き尽くす場面などをCGで映像化して見せた。

 様々な情報が()(みだ)れるようになるともうどれが本当でどれが嘘なのか分からなくなり、地球外生物(ちきゅうがいせいぶつ)敵視(てきし)する団体がでっち上げた、宇宙人による地球征服(ちきゅうせいふく)ストーリーを冷静だった人々までが信じ始めてしまう。


 そんなニュースやテレビ番組を目にする度に(あき)れていた由紀子だったが、国際会議で演説をするジュニアが悪魔のように加工されて流されるとメディアに対してかなりの敵対心を抱くようになった。



 1ヶ月程経ったある日、栗原と由紀子が縁側(えんがわ)で沈みゆく夕日を(なが)めていると目の前に突然、銀色の宇宙船が降下してきた。


「シニアとスリムが?!」

「シニアとスリムが?!」


 2人は信じられない表情で顔を見合(みあ)わせ、同じことを呟いた。

 着陸した宇宙船から音もなくエレベーターが降下してスロープが伸びてくる。

 誰が降りて来るのかと緊張しながら白い球体が並ぶ壁を見ていると、そこからシニアとスリムが出てきた。


 スロープを下り、縁側までやってきた2人をすぐにリビングに招き入れる。


「ご無沙汰(ぶさた)しております。お2人を迎えにきました!」先ずシニアが言って、

「地球にいるのは危険です。わたくし達とジュシスへ行きましょう!」すぐにスリムが続けた。



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