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第39話

 夕方になると、シニアとスリムの2人は長さが1.5メートル程の銀色に光るカプセルを宇宙船から持ち出してきた。


 神妙(しんみょう)な表情のシニアは上半分が透明なカプセルを指差し、

「宇宙船と同じ素材のこのカプセルにジュニアを入れ、遺体(いたい)安置(あんち)する為に利用している星の周回軌道(しゅうかいきどう)に送ります。この大きさなら地球のレーダーでは探知(たんち)できない筈ですが目撃されると困るので暗くなってから行う予定です」ジュニアの遺体に付き添う栗原と由紀子に告げる。


「星が墓地になっているのですか?」栗原がそう訊くと、

「いいえ。ジュシス人のルーツが判るまでの安置所として、近くにある星の周回軌道を利用しているだけです。わたし達の起源は地球だと判明したので、移住が完了したら全て呼び戻してここに埋葬(まいそう)します」シニアはそう答えながらカプセルの横にあるボタンを押し、透明な(ふた)の部分を開けた。


 ジュニアが乗るベッドをカプセルの隣に並べるとマットの部分だけが自動でスライドし、遺体と共にカプセルに収まった。


「では、暗くなる前にお別れをしてください」静かな声でシニアが告げた。


 それを聞いた由紀子は広場の端まで歩いていき、たくさん咲いているガーベラから一輪だけ()んで戻るとそのままカプセルに歩み寄る。

 夕焼けに照らされたその顔は何かを決心しているように見えた。


「カプセルをここに咲くガーベラで一杯にしてあげたいけど、自然を大切にするジュニアちゃんがしていたように一輪だけ摘ませてもらったわ…」そう言葉を掛けてからオレンジ色のガーベラをそっと胸に置き、静かに祈って別れを告げた。


 栗原も同じように一輪だけ摘んで胸に置き、

「ジュシスの人々がいつか移住を叶えられるように、見守って下さい」と手を合わせた。


 シニアとスリムも同じように花を置き、3倍速の早口で別れを告げてカプセルの蓋を閉じる。

 ジュニアのカプセルの横で4人は沈黙(ちんもく)したまま、ただ夕日が沈むのを待った。


 夕焼けに染まったオレンジ色の空の端が(かす)かに紫色(むらさきいろ)へ変わり始めると、やがて全ての色を押し流すように紺色(こんいろ)の夜空がやってきて、あっという間に広場は(やみ)に包まれた。


 シニアがゆっくりカプセルへ近づき、

「十分に暗くなりましたので、これから送ります」皆に向かって告げる。


 カプセルの横にあるボタンをいくつか押すと、

「では、旅立ちます」と悲しそうに下を向いて言った。


 3人が何も言わずに(うなず)くとカプセルは(わず)かに浮かび上がり、そのままゆっくり上昇を始める。

 カプセルの内部は暗く、表面に月が反射してジュニアの顔は見えなかったが胸に置かれた4つのガーベラは(あざ)やかなオレンジ色を見せていた。

 ゆっくり上昇するカプセルが胸の高さになると、由紀子と栗原は手を合わせてジュニアの冥福(めいふく)を祈る。

 その後、頭の高さを超えるとカプセルは銀色の底を見せながら夜空に吸い込まれるようにどんどん加速し、やがて沢山の星に(まぎ)れて見えなくなった。


「絶対にやり()げるから、心配しないで…」由紀子は再び手を合わせてそう呟き、ジュニアが消えた夜空をいつまでも見詰めていた。


   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 国際会議は昨日の宇宙人との遭遇で中止となり、各国の首脳は自国へ戻り始めていた。


 様々なメディアによって3人の演説場面が世界中を()(めぐ)り、地球が50年も続かないと告げられたことによって人々をパニックに(おとしい)れた。

 各国の諜報機関(ちょうほうきかん)や軍隊は宇宙船の行方を血眼(ちまなこ)になって追っていたが超低空を飛んで広場へ戻った為、どの国もレーダーで追尾(ついび)することが出来ず、その行先は不明だとしていた。


 宇宙人の手掛かりが何もない為、世界中のメディアは想像だけを頼りに不確実(ふかくじつ)なものばかりを報道し、あるテレビ局は3人を海底から来た海底人(かいていじん)と呼び、ウエットスーツを着たその容姿(ようし)証拠(しょうこ)だなどとしている。

 そうして正しい情報がないまま数日()つと、いい加減(かげん)な報道によってパニックを起こした人々が暴徒化(ぼうとか)するなどして、どの国でも社会が混乱し始めた。

 宇宙人から示されたデータを何とか解明(かいめい)しようと懸命(けんめい)な科学者達をよそにただ、混乱を鎮静化(ちんせいか)したい政府が『地球に終わりが来るというのは(うそ)で、宇宙人はここを征服(せいふく)しようと(たくら)んでいる』と発表した為、人々はそれを信じるようになっていった。

 その後、宇宙人の攻撃には地球全体で(そな)えるべきと訴える政治家が多くなり、地球の終わりを信じたくない人々は軍備(ぐんび)増強(ぞうきょう)(かじ)を切ることに反対しなかった。


 2週間後、世界の首脳は国連に集合した。


 何の手掛かりも(つか)めない宇宙人に対して各国が(つの)らせる恐怖心を落ち着かせる為と地球滅亡という不安によって世界が混乱するのを防ぐ為に急遽(きゅうきょ)会合(かいごう)が開かれることになったのだ。


 会合では宇宙人への恐怖心を落ち着かせる策として、『地球防衛計画』という軍備の増強案(ぞうきょうあん)が話し合われた。

 それは高度な科学技術による攻撃には地球上の最強兵器である核ミサイルで(むか)()つしかないと考える大国によって提案された議論だったが、既にそれらの国々は軍備の増強を始めており、これまでのパワーバランスを大きく狂わせていた。


 国連はこれ以上バランスを狂わせないようにする為、『地球防衛計画』の中で増やす核ミサイルを宇宙に対する配備のみに限定したが、それが何処へ向けられたものかは発射されるまで判る筈もなく、そのまま敵対する国の脅威(きょうい)となった。

 そうなると敵対国(てきたいこく)の方も、宇宙人の攻撃に備えるという大義(たいぎ)の基で増やした核ミサイルを大国の脅威に対して配備するようになり、世界は『核の悪循環(あくじゅんかん)』に(おちい)ってしまう。


 そうして、世界が協力して()()げようとした『地球防衛計画』は地球自身に向けられる核ミサイルをいたずらに増やすだけという結果に終わってしまった。


 政府や軍隊、市民の殆どがパニックになる中、科学者達だけは冷静で深刻な地球温暖化を解決出来るのは宇宙人の思想とその進んだ科学技術だけという見解で一致していた。

 地球上の知識だけでは彼らが示したデータの解明は不可能としながらもその信憑性(しんぴょうせい)はあると訴え、攻撃に対する準備ではなく平和的なコンタクトの方法を模索(もさく)すべきと必死になって主張した。


 しかし、地球がこのままでは50年も続かないという世紀末的(せいきまつてき)な現実を信じようとする人は少なく、科学者達の主張が受け入れられる事はなかった。



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