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第37話

 シニアの説明に合わせて、地球が破滅(はめつ)するシミュレーション動画とそれを証明する様々な資料がそこにいる皆の画面に映し出されていた。


 動画が終わると、今度は地球の環境破壊が及ぼす影響についてスリムが話し始める。


「宇宙は皆さんがご存じのとおり広大(こうだい)です。その広大さから見れば地球の環境破壊はごく小さな事のように思えますが、実はそういった小さなものが集まって出来ているのが宇宙なのです」

「宇宙を構成するミクロの物体は互いに密接(みっせつ)な関係にあり距離に関係なく影響を及ぼし合っているので、地球の環境破壊はやがて別の銀河にある沢山の小さなものを変化させてしまうでしょう。小さな変化が集まればやがて大きな変動を呼び起こし太陽系の惑星配置を狂わせてしまうかも知れません…」


「そして、大きな変動が連鎖的に宇宙全体に及んでいき…、その結果何が起こるかはわたくし達にもわからないのです」


 話し終えたスリムは続いて配信されたデータについての説明を始めたが、ホテルの宴会場に集まったほとんどの科学者達にとっては意味不明なものばかりであった。


 その説明の一部を(おぼろ)げに理解した優秀な科学者は

「我々にとっては未知の物質をすでに沢山知っているようだ」と言って驚き、「全ての学問のエキスパートが集まってもこれを理解するのには100年以上は掛かるだろう」と感嘆(かんたん)の声を上げた。


 また、ノーベル物理学賞を受賞した有名な学者は

「彼らが地球の宇宙物理学を一気に500年は進めてくれるだろう」とその科学レベルの高さに期待を寄せた。


 宴会場(えんかいじょう)の科学者達は画面上に示された超難解(ちょうなんかい)なデータを理解しようと持参した資料を睨みながら四苦八苦(しくはっく)していたが、一方で会議場の首脳たちは宇宙人の容姿に驚いたり、流暢(りゅうちょう)に話す日本語に感心したりしていた。


 2人は由紀子が指導した通りに演じて話した。

 シニアはジュシス人が同じ人間であることを感じさせ、スリムはジュシス人の冷静さと知的さを人々に伝えていた。


 スリムの科学的データの説明が終わると次にジュニアがマイクの前に立つ。


「僕の星は地球と同じ環境で3000年前に(つく)られました」

「環境汚染に気を付けてきたから、動物が沢山いて植物の種類だってここより多いです。地球ではもう会えなくなってしまった可愛いい動物が平和に暮らし、もう見られなくなったきれいな花が咲いています」

ジュニアは子供の純粋(じゅんすい)さを感じさせるように話し、以前の地球がどれほど美しかったか感情を(まじ)えて話した。


 そしてジュニアが最後に、

「僕はここのみんなと協力して地球の環境を元に戻したいです。どうぞよろしくお願いします」そう言って頭を下げ、シニアとスリムも一緒にお辞儀をしたその時、広場の端から1人の男が走り出た。


 厳重(げんじゅう)な警備を()(くぐ)って現れたその男は

(うそ)をつくなー!、俺は(だま)されないぞー!」と大声を上げながらもの凄い速さで近づいて来た。


 3人はすぐに頭を上げ、宇宙船に戻ろうと動いた。


 栗原の計画では広場に誰か1人でも見掛けたら、それを緊急事態と(とら)えて(ただ)ちに船内へ戻り、地球の大気圏外(たいきけんがい)へ避難するとしていたのだ。


 シニアとスリムが宇宙船から伸びたスロープを上がり始めた時、ジュニアがマイクから伸びたコードに足を取られて転んでしまう。

 うつ伏せに倒れたジュニアが両手をついて立ち上がろうとした時、男が倒れていたマイクスタンドを手に取った。


 マイクが付いている上の部分だけが高さ調整の()ぎ目から抜け、それをジュニアの頭めがけて振り下ろすと同時に駆け付けた3人のSPが男に飛び掛かった。

 振り下ろしたパイプは男の手から離れてどこかへ飛んでいき、ジュニアはすんでの所で助けられた。

 地面から起き上がったジュニアは少しフラフラしていたが、シニアとスリムに引っ張られながら宇宙船の中へ消えた。


 あっという間にエレベータが格納されると宇宙船は垂直に浮き上がり、勢いを増しながら青い空の中で小さな点になった。


 それをテレビで見ていた由紀子は

「ジュニアちゃん!」悲鳴のように叫んでから、「なんで! どうしてそこに人がいるのよ!」と画面に向けて怒りをぶつけ、その横で栗原も

「何故そんな事をするんだー!!」と憤慨(ふんがい)しながら怒鳴っていた。


 宇宙船が戻ってくる山の広場を目指(めざ)し、自宅から飛び出していった由紀子の後姿(うしろすがた)を追い掛けて栗原も登山道を走っていた。

 由紀子は時々つまずいて転びそうになりながら、

「なんで! どうして! どうしてなのよ!!」と救急箱を手に、栗原の前を走り続けた。


 どこにそんな体力があったのかと思う程、休まずに走り続ける由紀子を必死で追いながら栗原もジュニアの無事を(いの)っていた。


 レーダーに追跡(ついせき)されないように超低空(ちょうていくう)を飛び、太平洋の3000キロ沖合を(まわ)って帰る予定だったから、広場に戻るのに10分は掛かる筈だ。


 歩いて登れば30分掛かるところを走り続けたお陰で15分で到着し、藪を()()けて進む由紀子の後から広場へ出ると、宇宙船はすでに到着していた。


 静まり返った広場で

「ジュニアちゃん!」と由紀子が叫びながら駆け寄る。


 その姿を再び追って宇宙船の近くまで行くと、音もなくエレベーターが降下してスロープが伸びてきた。


 白い球体が並ぶ壁からプニュッ、プニュッとシニアとスリムが出てきたのを見て、

「ジュニアは? ジュニアちゃんは?」手に持った救急箱を差し出し、2人の顔を代わる代わる見ながら由紀子が訊くと、

「ジュニアは意識を喪失しています…」スリムが告げて下を向いた。


 2人がかなり落ち込んでいるように見えた栗原はジュニアが(おそ)われた場面を思い返してみる。

 テレビ越しではあるが暴漢は殴る寸前に取り押さえられたように見えたし、マイクのコードで転んだとはいえ柔らかそうな芝生の上だったから、いくら肉体的に弱い彼らでも深刻な傷は負っていないと思えた。

 たとえ()(どころ)が悪かったとしても、彼らの高度な医療によってすぐに回復出来るだろうと思っていた栗原はその落胆ぶりが全く理解出来なかった。


 すると、宇宙船の白い球体が並ぶ壁から四角いベッドのようなものが出てきて、スロープを音もなく(すべ)り下りてきた。

 ベッドの上に横たわっていたのはジュニアだが、意識がないのか大きな目を(つぶ)ったまま動かないでいる。


「ジュニアちゃん! 大丈夫?」由紀子が近くに行って声を掛けても全く反応がない。

「ジュニア!」栗原も声を掛けてみるがやはりピクリともしない。


「殴られたりしなかったのに、どうしてこんなことに?」ジュニアを見て栗原が呟くと、

「数日前から何かの病気に感染していたようです。避難する際に転んでしまったのも、めまいが起きたからのようです…」シニアが答える。


「病院よ! じゃあ、病院に連れて行って!」由紀子は必死な形相でシニアとスリムに迫ったが、

「わたし達の星に病気を治療する病院はないのです」シニアが残念そうに言った。



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