第36話
翌朝の午前10時。
国際会議が行われる、大雪山インターナショナル・リゾートホテルの前にアフリカの首脳が乗った最後のリムジンが到着した。
4つのドア全てが一斉に開くとすぐにスーツ姿のボディガードが降り、それに続いて民族衣装を着た人物がゆっくり後部座席から出てくる。
突然、リムジンを大きな影が包んだ。
ボディガードが異変を感じて見上げると、上空には銀色に輝く楕円形の宇宙船が浮いている。
首相とボディガードが顔を見合わせ、何やら叫び始めると、
「───私達は地球の危機についてお伝えする為に別の銀河からやって来ました。5日後の午前8時、危機の内容を説明しますのでここへ科学者を集めて下さい───」と宇宙船からシニアの落ち着いた声のメッセージが響いてきた。
メッセージが繰り返された頃、警備を担当する制服の警察官やイヤホンを耳に着けたスーツ姿のSPがあちこちから駆け付けてきた。
警察官の1人が上空に向けたメガホンに口に当て何か言おうとした時、銀色の宇宙船は上昇を始めてみるみる小さくなり、雲に紛れて見えなくなった。
国際会議はその2分に満たない出来事により、議題を変更して5日後にやってくる宇宙人への対応を話し合わねばならない状況となった。
付き添いの次官達は自国の科学者を招集する為の連絡と調整に追われて右往左往し、加えて各国のメディアが取材で駆け回っていたからホテルの廊下やロビーはごった返していた。
会議場自体は関係者以外入れないように警備されていた為、混雑はなかったが各首脳は自分の席には着かずにあちこちで数人毎のグループを作り、興奮した様子で何やら話し合っていた。
会議の議長を務める日本の首相が全員に着席を求めたが誰も席に戻る気配がなく、やむなくその場の挙手にて議題の変更を問うと全会一致で可決された。
会議場があるホテルの上空で高度を上げ続けた宇宙船は大気圏外へ出ると月を目指して進み、地球からは見る事が出来ない裏側に着陸した。
栗原の計画では再び会議場へ現れるまでの5日間、月の裏側に着陸したまま待つことになっていたのだ。
各国の軍隊はその宇宙船をレーダーで懸命に追尾したが途中で見失ってしまった為、『UFOは電波の届かない月の影を利用して遠くの銀河へ飛び去った…』と発表していた。
ニュースのアナウンサーがそう告げると、栗原はホッと胸を撫でおろした。
電波が届かない月の裏側を正確に攻撃するのは不可能と思ってはいたが、着陸している事を知ったら何を仕掛けてくるかわからないので、どこかへ飛び去ったとされたのは都合が良かった。
「思った通り、レーダーに追尾されずに済んだな…」栗原が思わず呟くと、
「5日後もきっと、上手くいくわね!」由紀子が元気よくそれに応えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
5日後の午前6時、ホテルに8つある大きな宴会場はどれも世界中から来た科学者とメディア関係者で溢れ返っていた。
一方の会議場は急遽演説用のステージが作られ、すでに集まった各国の首脳達が再びやってくる宇宙人を迎えようと緊張の面持ちで待っている。
ホテルの周辺には大勢の人や様々な団体が宇宙人を見物しようと世界中から集まり、近づけないように規制線を敷いた機動隊と小競り合いをするなど、興奮が高まっていた。
時計の針が8時を指した頃、ホテルの車寄せに小さな楕円形の影が現れて徐々にその大きさを増していく。
銀色の宇宙船が空から音もなく降下してきて一瞬、眩しい朝日を反射すると、底面に大雪山の雪景色を映しながら徐々に大きくなり、上空30メートルのところで止まった。
5日前とは違い、既に待機していた警備の警察官やスーツ姿のSPが見上げる中、上空の宇宙船からシニアの声が響き始める。
「───宇宙船を着陸させて地球の危機についてお話しいたします。芝生広場に中継用のテレビカメラとマイクをセットして全員ホテルの中で聞いてください。科学的な根拠に基づいているとご理解頂けるよう、皆さんがお持ちの画面全てに調査資料を配信します───」
それを聞いたテレビ局のディレクターはすぐに作業員へ指示を出し、三脚が付いたテレビカメラとマイクを5台ずつ芝生の上に据えさせると両腕で頭の上に丸印を作って準備完了を伝え、ホテルの中へ下がっていく。
周辺に集まった人々は初めて見る宇宙船に大きな歓声を上げていたが、シニアが配信すると告げた資料を見ようとスマートフォンの画面にくぎ付けになっていた。
5分程すると宇宙船は広場の中央へ向かって移動し始め、その後4つの脚を出しながらゆっくり降下して芝生の上に着陸した。
銀色のボディーのどこにそれがあるのかわからない部分から音もなくエレベーターが降下し、スロープが伸びて地面と繋がる。
開口部を塞いでいる白い球体が並ぶ壁から3人の宇宙人がプニュッ、プニュッと押し出されるように出てきてスロープを下り、カメラの前に並んで立つ。
その頃、ホテルの中や周辺にいる人々が持つデバイスの画面にはジュシス人のルーツを示す動画が既に配信されていた。
動画が終わるのを待っていたシニアがおもむろにマイクの前に立った。
「それでは先ず、わたし達についてお話しいたします」穏やかな声で静かに告げ、
「わたし達は只今ご覧頂いた動画の通り、3000年前に地球を脱出して別の銀河の星へ移り住んだ人類です。ここへ来た目的は故郷である地球への帰還について話し合う為なのですが、その前に先ず、環境破壊を食い止めなければなりません」
「なぜなら…、このまま環境破壊が進めば、50年後には人の住めない星になってしまうと判明したからです」
「わたし達は数百年に渡り、ここで地球の環境保全に取り組んできましたがそれを凌ぐスピードで破壊は進み、手に負えない状況となってしまいました…」
「地球の環境を元に戻すには皆さんと共に取り組む必要があり、その為の協力をお願いしに参りました」そう話すと、地球上に古代からある高度な建築物は自分達の祖先が造ったものだと説明し、地球上に伝染病が流行り出した為、自分たちがここを脱出しなくてはならなくなったと話して終えた。




