第34話
次の日の夕方、いつものように由紀子を乗せた軽トラで自宅に戻ると、それを待っていたかのように敷地の裏の藪からジュニアが飛び出してきた。
急いで助手席から降りた由紀子をめがけ、
「由紀子さん、また来たよー!」と走りながら右手を伸ばし、オレンジ色のガーベラを一輪差し出す。
「ジュニアちゃん!!」由紀子が広げた両腕をめがけ、ドンッ!と勢いよく飛び込んで顔を埋めた。
「あっ、」と後ろへよろけた由紀子が「ジュニアちゃん、元気だった?」嬉しそうな笑顔を向けると、
「うん、由紀子さんに会いたかったよ!」ジュニアはその顔を上げて言い、「広場で一輪だけ摘ませてもらったんだ、由紀子さんにあげる!」手の中のガーベラを見せて腕を一杯に伸ばす。
後からやって来たシニア、スリム、大臣の3人が栗原の前に立つと、
「辰則さん、ご無沙汰してます。また会えて嬉しいです!」先ずシニアがそう言って頭を下げ、
「こんなに早く再会できるとは思っていませんでした!」スリムもお辞儀して言った。
会っていない間に3人共さらに感情が成長したらしく、以前より表情が豊かになっていて、三者三様の笑顔を見せていた。
それぞれの笑顔を見た栗原は皆の成長が嬉しくて、
「話し方だけでなく表情にも個性が出ていて驚きましたよ。また、みんなの元気な姿を見られて嬉しいです」とシニアとスリムに満面の笑みで応えた。
4人を早速リビングへ招いてソファに腰掛けてもらったが、ジュニアは離れたくないのか由紀子が座る椅子の横に手をつないで立っていた。
皆を前にして栗原が切り出し、
「計画についてお話する前に先ず、ジュシスの人達が戦う手段を持っているのか教えてください。それが計画の成否を左右するかも知れないのです」と大臣の方へ顔を向けると、
「協力への話し合いに戦う手段が必要なのですか。我々は戦う事に論理的な利益を見出しておらず、そのようなものは何も持っていません」すぐにそう答えた。
「何もないの? 地球より遥かに進んだ軍隊があると思っていたのに…」と由紀子が驚いたように言い、
「ジュシスがある別の銀河へ地球人が辿り着けるようになるのは何百年も先のことだからまだ、軍隊など必要ないと思うのも分かりますが…」栗原もその意外な答えに、思わずそう呟いた。
すると大臣が
「我々が宇宙船でここへ来るのに必要な科学技術はとてもシンプルなものです。地球人がダークマターを発見し、それが固有引力を持つことさえ理解すれば数年でジュシスへ辿り着けるようになるでしょう」すぐにそう応える。
「じゃあ何故、軍隊を持っていないの? 地球みたいな星から攻められたら、みんなをどうやって守るの?」大臣を責めるような口調で由紀子が言うと、
「守る必要がありますか。何の為にですか」大臣が感情を全く感じさせない口調で返した。
「何もしなければ…、ジュシスが占領されてしまうじゃない…」決して戦争を勧めている訳ではないと言いたいのか由紀子が声を落とすと、今度はシニアが話し出した。
「わたし達にとって、戦う事は失う事に過ぎないのです。わたし達はどんな理由があろうとも、先祖が積み上げてきたものを失ってしまうような事はしません。だから今のように科学技術を発展させることが出来たし、それを地球より遥かに進んだものにすることが出来たのです」大切なものを無駄にしたくないという感情が栗原と由紀子にひしひしと伝わって来る。
「もし絶滅したら、積み上げたものを全部失っちゃうのと同じゃない?」由紀子がそう反論すると、
「戦いにおいて最も大きな損失はどちらかが全滅する事ではなく、相打ちで双方が滅んでしまう事なのです。片方が武器を持っていなければそうならずに済みます」シニアはわかりやすいようにゆっくり話したが、
「相打ちで両方が滅びるなんてことはあり得ないでしょ?」由紀子が食い下がった。
するとシニアが静かな声で、
「今の地球を見てそう言い切れますか?」と告げる。
それを聞いた栗原は背中に冷たいものを感じながら、シニアの言う通りだと思った。
どの国もお互いに核ミサイルと共に対峙し、その数は地球を10回以上破壊することが出来る程で1度何か起これば相打ちで地球は全滅してしまうかも知れないのだ。
由紀子も同じことを考えて反論できなくなったのか、それっきり黙り込んでしまった。
全員が何かを考えていて、しばらく沈黙が続いたが、
「地球人が攻め入ってジュシスが滅亡しても構わないと、本当に考えているのですね?」栗原が再び確認したくなって訊ねると、
「わたし達は自然に抗う考えを持っていませんので、いつかは必ず絶滅するでしょう。これから100世代続いたとすれば絶滅は約2万年後になりますが、宇宙の歴史から見たらそれはほんの一瞬です。今、地球に攻められて滅亡するのと大きな違いはありません。それに、わたし達が反撃しなければ地球は生き残ります」すぐにシニアが答えた。
ジュシス人の余りの潔さに思わず反論したくなった栗原が、
「大臣が言ったように地球が50年持たないなら、人類が生き残ったとしてもすぐに終わりが来てしまい、知的生命体がこの広い宇宙からいなくなってしまう…」そう呟くと、
「わたくし達が考える知的生命体は数え切れない程います。地球にいる殆どの動物や植物もコミュニケーションを取りながら生きている知的生命体で、人類が滅亡した後も一部は生き残るでしょう」スリムがすぐに応えた。
「植物も知的生命体と言えるようなコミュニケーションを取っているのですか?」栗原が驚きながら訊くと、
「地球人はその方法を失ってしまったようですが、ジュシス人は今でも動物や植物とコミュニケーションを取り、様々な情報を得ています」今度はシニアが答えた。
その後、再びスリムが
「わたくし達には動植物と自分達が同じ生命体であるという認識しかありません。すべてのものはあくまで自然の一部で互いにコミュニケーションを取りなが生きており、別の場所で単体として存在する事はできないのです。そして、それは惑星の中だけの話ではなく、宇宙全体のことなのです」と感情を込めながら語った。




