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第33話

 それから1週間、2人はあまり言葉を交わすことなく、常に頭の中で何かを考えながら過ごしていた。


 夕食の静かな食卓で由紀子が口を開く。


「今、私達に出来ることってあるのかしら…?」


 同じことをずっと考え続けていた栗原は

「地球が破滅(はめつ)しないように努力することなんだろうけど…、一体なにをすればイイのか…」呟くように言い、「いまさら僕達に出来ることがあるんだろうか…」力なく話し終えた。


 しばらく何かを考えていた由紀子が

「今、私達に出来る事はあの移住・環境大臣を手助けすることくらいかしらね…」そう呟き、「あ、いつかスリムが教えてくれたじゃない…、必要とされる事をやるのが最も社会に貢献することだって…」そう言ってゆっくり顔を上げ、「そうよ! 私達を必要としてるのはあの大臣じゃない、ジュシスの皆が私達を必要としているのよ!!」少し大きな声になって言うと栗原をじっと見つめた。


 栗原もその言葉にハッとして

「そうか! 今やらなければならないことは地球の為じゃない。ジュニア、シニア、スリムの3人やジュシスに住む人々の為でもあるんだ。地球の破滅を食い止めるのは無理でも大臣の手助けなら出来るかも知れない!」早口でそう言うと、「よし! どうやったらその話し合いが上手く行くか考えてみよう!!」椅子から勢いよく立ち上がった。



 次の日、休めない由紀子の為に栗原が売店へ出向き、どうしたら大臣が地球の協力を得られるか2人で考えて、全世界へ同時に訴えるのが最善策(さいぜんさく)だという結論に達した。


 どんなことを訴えるかについては彼らの考えを聞いてからまとめることにして、それを地球でやる時にどのような方法があり、どんな工夫(くふう)が必要かを2人で色々と考えていく。

 それらをノートにまとめて自宅に帰ると、敷地の裏の藪にジュシスから来た大臣が立っているのが見えた。


 大臣に手招きしてアトリエに入ると、すぐに後からやってくる。


「こんばんは、またお会いしましたね!」由紀子が挨拶したが大臣は大きな目で2回瞬きをしただけだった。


 そのまま黙っている大臣を見て、栗原は前置きなしで話し出す。


「先ず、話が理解しやすいようにここだけの呼び方を決めておきます」そう断りを入れると、「今も地球に住む人達を『地球人』、地球から脱出した人達を『ジュシス人』と呼び、あなたの事は『大臣』と呼ばせてください」そう言って本題に入る。


「お分かりかと思いますが環境問題は地球規模なので、すべての国々と話し合わないと意味がありません。しかし、国ごとにコンタクトすればそれぞれの政治力が働いてしまい、地球規模の一致した協力は得られなくなってしまうでしょう。大臣が望むような協力を得るには世界へ同時に働きかける必要があり、それには国のトップが(つど)う国際会議などを利用するのが良いと思います。環境問題を話し合う場ではありませんが近々、日本で開催される予定の会議がありますので、そこで(うった)えるのが良いでしょう。その際に地球がこのままでは50年も続かない事を証明する科学的なデータを示す必要がありますが、可能ですか?」大臣を見て栗原が訊く。


「データならシミュレーションを含めて沢山ありますが、私はそれが役に立つとは思えません。有史上(ゆうしじょう)だけでもどれだけの動植物(どうしょくぶつ)絶滅(ぜつめつ)させてきたか地球人は良く知っています。それなのに環境破壊を止めないのなら、今更(いまさら)それを(しめ)すことに意味があるのかと(うたが)います」大臣は事務的な口調だがハッキリと言い切った。


 その指摘(してき)が自分へ向けられたもののような気がして一瞬、栗原は動揺(どうよう)したが、

「データは訴える内容に科学的な根拠(こんきょ)があることを示すのが目的です。地球人がそのデータを解析(かいせき)できるのかや、見せる意味が有るのかはあまり重要ではありません」そう言うと、「何よりも大切な事は地球人の心に訴え掛ける事だと思います。心を動かすことが出来なければ地球規模の大きな潮流(ちょうりゅう)を生み出す事が出来ず、効果的な協力も望めないでしょう」そう話して大臣の反応を伺った。


「地球人は感情に訴える必要があるのですね」大臣はそう言った後、腕を組んで黙ったので栗原は話を続ける事にした。


「感動を呼び起こすのは難しいことかも知れませんが、逆にそれさえ出来れば協力を得たようなものです。地球人と同じように自然に対する(いつく)しみの愛情を表現し、ジュシス人も地球に発生した人類だと思わせる必要があるでしょう。同じ人類からの純粋なメッセージとして受け止めて貰うことが最も重要だと考えていますが、ジュシス人の論理的な発想だけでそれをなし得るのは難しいと思います」栗原はそこで再び大臣の反応を伺う。


「論理的な説明は効果がないと考えていましたが、地球ではそのような手段が必要で地球人の心とはそういうものなのですね」感情のない口調で言って再び黙った。


 大臣が十分に理解していることを確認した栗原は

「それを成功させるには子供のような純情(じゅんじょう)さで訴えるのが良いと考えていますが、具体的には純情な心を持ち、子供の口調で話せるジュニアの協力が必要です。科学的な事については感情を交えながらシニアとスリムに説明して貰えば地球人にも受け止め(やす)いものになるでしょう」と話し終えた。


大臣はそれを聞いて、

「では早速、3人を地球へ呼び寄せます。1週間程時間をください」と言い、アトリエの出口へ向かった。


 大臣が藪の中へ消えるのを見送った由紀子は

「また、3人に会えるのね!」と嬉しそうに目を輝かせた。


   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 次の日から3人がやってくるまでの6日間、栗原は具体的な計画を()ることに専念(せんねん)した。


 計画を作成する上で最も危惧(きぐ)したのはどこかの国が彼らの進んだ科学技術を独占(どくせん)しようとすることで、それが強硬手段(きょうこうしゅだん)ならジュニア、シニア、スリムは拘束(こうそく)されてしまうかも知れなかった。

 そうなれば3人の命が危険にさらされてしまうだけでなく地球の環境破壊を食い止めることも不可能となり、ジュシス人の故郷への帰還(きかん)(かな)わぬ夢となってしまうのだ。


 栗原が考えた、世界の首脳が揃っている場所に登場するというのは北海道で開催される国際会議なので国内ということを考えればそこまでの危険はなさそうだが、ひとたび降り立った宇宙人を地球人が簡単に帰すとは思えず、日本以外の国が軍事行動に出る可能性まで考えると計画の作成はかなり難しかった。


 彼らが地球上の武力を(はる)かに(しの)ぐ程の軍隊を持っているなら、それを見せるだけで誰も手出し出来なくなるだろうが、ジュシス人には力ずくで何かするという印象はないのでそこまで強力ものは持っていないかも知れない。


 好戦的(こうせんてき)で破壊することが得意な地球人と(わた)()うには万全(ばんぜん)()して(のぞ)む必要があり、それが計画を成功させるカギであることは間違いなかった。



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