第25話
宇宙人達が帰ってしまった後、由紀子は花瓶に挿した一輪のガーベラを見つめて、
「私が必要とされる場所がハッキリしたわ。彼らの感情を完全に蘇らせ星に伝わる謎を解き明かせるよう手助けすること、それが今の私に求められている事だわ」そう呟いて栗原に笑顔を向けた。
その後、再び花瓶の花を見つめながら、
「別の銀河にある星の名前もわからない人達に感情を芽生えさせたりなんて、今まで想像すらしなかったことが起きるんだから、彼らを手助け出来ると考えたって変じゃないわよね? 彼らには私達が必要だと思ってもイイのよね?」自分の頭の中を整理しながら話す。
由紀子が何を言おうとしているのかは分からなかったが、
「誰にも姿を見せない彼らがここへやって来るのは僕たちを選んだからだと思うよ。だから、君がそう考えるのは間違いじゃない」栗原はそう言って安心させ、「そろそろ陶芸を教えてみようかな? 粘土を捏ねればもっと別の感情が芽生えるかも知れないし、僕も彼らの役に立ちたいからね!」と笑顔を向けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから数日後、栗原はアトリエの真ん中に据えてある自分用のろくろに向かい合うようにベンチ置き、その前に3つのろくろを準備して由紀子と3人の宇宙人を招き入れた。
3人をベンチに座らせると、地球人より筋力がないのを考慮して用意した柔らかめの粘土をそれぞれのろくろに載せて自分用のろくろの前に座る。
「先ずはこうして粘土を捏ねてみてください」栗原はそう言って先ず、土を練って見せた。
3人は粘土を触るのが嫌なのか目の前の塊を見て、ためらっているようだったが由紀子がジュニアの手を取って粘土にそっと添えると、
「※R×§Δ%ΓΘΦΨΠ───!」驚いたように3倍速の早口で何かを口走る。
1度触るともう迷いは無くなったのか、少年の口調と楽しそうな笑顔で
「つめたーい! これ、おもしろーい!」と言いながら粘土を掴んでゆっくり握り、指の隙間から溢れ出る感触を楽しみ始めた。
「そうそう、上手ね!」それを見た由紀子が楽しそうに声を掛けると他の2人も同じようにする。
「不思議な感じがするわ…」その言葉通り不思議な表情でスリムが言うと、
「うん、こうゆう感じなのか…。なるほど…」シニアは何かを考える表情で独り言を呟いた。
芽生えた感情が手助けしているのか3人共、教えたばかりの表情にもかかわらず仕草とぴったり合っていた為、栗原と由紀子は意図的にそうしているとは思わなくなっていた。
「そのまま捏ね続けてもイイですが、頭に浮かんだものや感じたことをそのまま形にしてみてください」
しばらく適当に粘土を捏ねた後、栗原が皆に言う。
すると何か思いついたのか、シニアが粘土を2つに分けた。
それぞれの大きさに意味があるらしく丸い塊にして並べた後、食い入るように見比べながら粘土を足したり引いたりしている。
やがてその手が止まり、それ以上何もしなくなった。
完成だと思った栗原がシニアの所へ行くと、
「わたし達の星と地球です。質量の違いは正確ではありませんが、大きさの差は正確に再現出来ていると思います」大小となった粘土の球体を両手で示しながら満足そうに告げた。
栗原はシニアが粘土を分け始めた時、何かインスピレーションが湧いてきたのかと思い、宇宙人のひらめきがどんな作品を生み出すのか興味を持って見守っていた。
だから、実在する惑星を2つ作ったと聞いて少し拍子抜けしていた。
しかし、彼らの星が地球の半分程だと知っていても、立体にするとその大きさが思ったより違って見えることに興味を持ち始める。
「あなた達の星と地球はこんなに大きさが違うんですね?」栗原が訊ねると、
「地球のことはちゃんと名前で呼ぶのに、3人が住むところを『あなた達の星』と呼ぶのは変だわ…」すぐに由紀子が割って入り、「…かといって、あの星番号じゃ長過ぎて覚えられないし…」と困った表情になる。
「確かに『あなた達の星』と呼ぶのは違和感があるし、よそよそしい感じがするね。もう僕たちは知らない間柄じゃないんだからね」栗原が同意して言うと、
「だったら、3人の名を取って…」由紀子はそう言ってすぐに何やら考え始めた。
「ジュニ…、シニ、ス…」しばらくの間、1人でブツブツ呟いてから、
「ジュシ、ス…。そう、ジュシスと呼ぶのはどうかしら!」皆を見ながら大きな声で告げ、
「ジュニアの『ジュ』とシニアの『シ』、スリムの『ス』と繋げて『ジュシス』。3人の星の名前よ!」と嬉しそうに説明する。
栗原が黙って頷くと他の3人も同じようにして
「じゃあ、ジュシスで決定ね!!」由紀子はガッツポーズをして見せた。
「地球とジュシスか…、この2つの粘土の間にはどれだけの距離があるんだろうか…」栗原が呟くと、
「このサイズに換算してもジュシスは太陽系の外に置かないとならないでしょう」シニアがすぐに計算して答える。
それを聞いた栗原は粘土に顔を近づけて
「そんな気の遠くなるような距離を越え、このアトリエで一緒にいるなんて僕たちは何かの運命で繋がっているとしか思えないな…」本当にそんな感じがして言った。
ジュニアの方は由紀子と2人で一生懸命何かを作っていた。
「これと同じものを作ればイイのね?」由紀子が言うと、
「うん。沢山作ってね!」一緒にいるのが嬉しそうなジュニアが応える。
それを聞いて作品の完成が大分先のように思えた栗原はスリムの作業を見守ることにした。
スリムは10個に分けた粘土をそれぞれを違う大きさの立方体にしていくと、隣に置いたり重ねたりして1つの造形物を創り上げた。
何が出来たのか、興味津々でスリムのもとへ行くと、
「これがわたくし達の星、つまりジュシスにある家の一般的な形です」由紀子が付けたばかりの星の名前を告げて、詳しい説明を始める。
「それぞれの家は用途別に作られたブロックと呼ばれるユニットをいくつか組み合わせて造ります。そのブロックの数は必要に応じて変更することが可能で、全体の面積を簡単に調整出来るのが特徴です。各ブロックは環境を汚染しない素材を用いて数年で自然と融合するように作られている反面、1000年以上繰り返し使うことが可能な耐久性も持ち合わせています。わたくしの家は最近1ブロック追加したので、10ブロック住居になりました」スリムはすでに出来上がっていた造形物にブロックの粘土を追加して見せた。
その説明を隣で聞いていた由紀子がやって来て、
「家族構成や生活スタイルの変化へ簡単に対応出来る上、1000年も繰り返し使えて廃棄物を出さないなんて、人にも自然にも優しい理想的な建築だわ」粘土の造形物を見て言うと、「ブロック自体のデザインやブロックの配置計画は誰がやるの?」と専門的なことを訊く。
「ブロックは自然の景観を壊さない事が最も優先されているのでデザインはありません。大きさの違いこそありますがどれも同じ立方体で表面は植物の育成に適した素材になっており、数年の内に自然と一体化するようになっています。配置計画については3メートルの樹木を超えないようにする為、大きなブロックの下部は地中に埋設されますが、地中についても2メートル以上掘る事は殆どありません」と専門的なことについてもスリムが詳しく説明した。




