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第13話

「そうだ! 一緒に雑草取りをして、愛情や友情について学びませんか?」栗原は3人の顔を順番に見ながら訊いてみる。


 実は3人の顔を見ても昨日の人達かどうかは判らず、背が低い人と細身の人がいるという理由で勝手に同じ宇宙人だと決めつけていたのだった。


 宇宙人達は互いを見た後、

「それが愛情の勉強になるならやります」年長者に見える人が答え、すぐに(まわ)りの雑草を抜き始めた。

 その言葉で昨日の宇宙人達だと判ったが作業を見ていると、3人は筋力がないのか一度では地球人の半分程しか抜く事が出来ず、しかも太い雑草はそのまま残っている。


 しばらくすると、手に負えずに残ったものを見つめながら3倍速の早口で相談を始めた。

 栗原がその雑草を引き抜いて見せると再び3倍速の会話をして作業に戻ったが、太いのは栗原用に残すと決めたのか細い草だけどんどん抜いていく。


 それを見た栗原は効率や合理性を最も優先する彼らの社会で、どれだけ役割分担が徹底しているのかわかった気がした。

 合理的な方法だけが彼らにとっての最善なんだと判り、協力してやれば何か違う考えが生まれるかも知れないと思って、

「太い雑草を1人で抜くのが無理ならば2人で、それでもダメなら3人でやってみてはどうですか?」と提案してみる。


 宇宙人達は栗原が言っている事を素直に聞き入れて3人で太い雑草を引き抜いたが、すぐに抜いたものを前にして会議を始めてしまい、今度は5分経っても作業に戻ろうとしない。


「何か問題でもありましたか?」見兼(みか)ねた栗原が訊ねると、

「これは誰の労働によって得た成果(せいか)なのか皆で考えているのです」年長者が答える。


「3人が力を出し合って…、ということですよね?」言っていることの意味が分らずに訊くと、

「我々が今、問題にしているのは雑草のどの部分を持ったかによって作用点に対する力のベクトルが変わってしまうことです」と年長者が詳しく説明してくれたが、

「ベクトルが変わる…という意味は良くわかりませんが、それが問題なんですか?」再び疑問を投げかけると、

「雑草は個体によって長さが違い、3人が(つか)む位置は抜く度に変化してしまうのです。力学的な計算が複雑になる上、どれくらいの力を出したのかは個々の感覚に頼らざるを得ないので分担した仕事量を明確にするのは不可能です」今度は背の低い宇宙人が感情のない話し方で説明する。


「ただの雑草なんだから…そう、(むずか)しく考えずに…。う~ん、どう言ったらいいのか…3人で協力して得た成果には出来ないんですか?」栗原は宇宙人達の考え方が理解出来ず、どう説明すれば分かってもらえるのか悩んでしまった。


 そんな栗原を見た細身の宇宙人が

「雑草を抜く度に誰の成果かわからないものが生まれてしまい、作業が効率的に行われたかどうかの検証を不可能にしてしまいます」そう説明をした後、再び3人で会議を始めてしまう。


「じゃあ、僕の為に雑草を抜く、としては?」と栗原がその会議に割って入っても、

「ロボットを使って時間を掛けずに終わらせなければ、誰かの為とは言えません」と全く受け入れず反論してくる。


 その発想がどこから出たのかわからなかったが、とにかく取り合ってもらえないので、

「じゃあ、僕の作業を楽しくするために…」と言おうとしたが、それが理解出来れば最初からこうはなってないと思って止め、「僕の成果(せいか)とするのはどうですか?」と言ってみる。


 すると、3人の宇宙人は栗原をじっと見つめた後、

「あなたの成果にするということは、我々が得たものを譲渡(じょうと)しろということでしょうか」と益々(ますます)意味不明なことを言う。


 どうすれば良いのかわからなくなった栗原が、

「自分の成果を譲渡することが、ここでは愛情というものなんです」と破れかぶれで言うと、

「我々は全ての物事について詳細まで明確にし、検証することで合理的な社会を築いてます。誰もがうやむやにしておくのは良くないと考えますが、うやむやなことが愛情であるなら、そのように理解して進めます」細身の宇宙人が応え、3人は呆気(あっけ)なく作業に戻った。


 価値観(かちかん)のあまりの違いを目の当たりにした栗原は再び雑草取りを始めた宇宙人達と自分の間にどうやっても埋められない(みぞ)があるように感じていた。

 栗原の為に雑草取りをすれば他人(ひと)を想う愛情という感覚が、そしてひとつの事を皆でやれば仲間を気遣う友情という感覚が目覚めるのではというアイデアは全く通じないのだと気付かされたのだった。



 雑草取りはかなり大変な作業で、栗原は1時間程で腰が痛くなってくる。


 両腕を上げて身体を反らすように伸びをしながら宇宙人達の姿を探すと、20メートル位離れた場所で2人が足元に横たわる年長者を見下ろしながら何か話していた。

 栗原には声が届いていなかったが、少し前からそうしていたようだった。


「どうしました?」その場所まで行って訊ねると、

「3人で引っ張った雑草が抜けずに途中で切れた為、後ろに倒れて頭を打ちました。フィジカルモニター(・・・・・・・・)を見ると脳震盪(のうしんとう)の警告を表示しています」年長者の腕にあるスマートウォッチの画面を見て背の低い宇宙人が告げた。


「大丈夫ですか…?」栗原が前屈みになって年長者の様子を伺うと、大きな目を(つぶ)ったままで動かない。


「警告が消えれば、雑草取りを再開できます」再び背の低い宇宙人が告げたが、

「作業の事より、この人…気を失ってるじゃないですか」様子を見て(あわ)てた栗原は「縁側(えんがわ)に寝かせましょう」そう言って倒れている年長者を両腕で抱き上げる。


 2人はそこに立ったまま要領(ようりょう)を得ない顔をしていたが、年長者を日陰になっている縁側まで運ぶとそっと寝かせ、リビングから持ってきたクッションを頭の下に敷く。


 元いた場所で栗原のことを不思議そうに見ている2人を呼びよせて、

「どうですか、警告の表示は変わりませんか?」と訊ねてみると今度は細身の宇宙人がスマートウォッチの画面を確認し、

「現在は回復傾向(かいふくけいこう)と表示しています。もうすぐ意識が戻るでしょう」と感情のない話し方で告げる。


 目の前の(いま)だに意識の戻らない年長者を見て栗原は心配で仕方なかった。



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