それから
***クリーヴ
僕が養子になってから二年の間にロータス父上はバハルマ王国と旧シタールに加えて北の王国を傘下に置いた。
そしてカラスティア王国をカラスティア帝国へと発展させ、ロータス皇帝が誕生した。
「お前からだと言ってクリビアにこの香水を贈ってくれないか、クリーヴ」
「いいですけど……」
どうせばれると思うけど。
父上から手渡されたのはこの大陸一番の高価で希少な香水で、まだ誰も手にしていないと自慢げに言われた。
北の国にのみ生息する希少な動物の排泄物から取れる最高品質の原料から作られているらしい。
この原料を手に入れることができたのは、カラスティアに莫大な借金を背負っていた北の国の新国王がカラスティアの支配下に入ることを選択したからだ。
それによって借金は帳消しとなり、代わりにカラスティアは北海の漁場とこの香水の原料を手に入れることができたのだった。
父上のお母様への執着具合はエリノー公爵から耳にタコができる程聞かされた。
お母様の事となると帝国の皇帝の威厳はどこへやら。
そんな父上が可愛くもあり、哀れにも思えてくる。
僕としてはサントリナにいる両親の仲を邪魔して欲しくないんだけど。
まあそういう父上の庇護下だから僕はのびのびとここで生きることができている。
エリノー公爵が言うには、皇帝に睨まれたら命が危ないとみんな勝手に思っているから嫌がらせなどできないだろうって。
しかも僕が暮らす宮殿で働くメイドたちは皆、旧シタールの王宮で働いていた者たちで、その中でも古参の者を選んだらしい。
だからメイドたちにお母さまが幸せに暮らしていることを話すと涙して喜んでいた。
そんなこんなで、僕がここに来る前にカラスティアで辛い目に遭わないかととても心配していたお母様に、香水を送るついでに心配しなくていいと手紙を書いた。
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十五歳になってカラスティア帝国の皇太子となった僕にはできることがぐんと増えた。
そこで、ずっとやりたかったことに手を付けた。
一つはお母様がやっていたこども塾みたいな施設を大陸中に建設すること。
そこでできた僕のともだちと同じように、大陸中の平民の子どもたちも格安で、もしくは無料で勉強できる場があればいいと思っていた。
そしてそれを活用できるような社会にしていけたらと思っている。
もう一つ、奴隷制の廃止。
マリウスやアナスタシアの身分を回復したい。
サントリナにいる分には問題ないけど、そんな肩書き無い方がいいに決まっている。
マリウスは僕とここにいるから尚更だ。
実は父上に奴隷制の廃止を宮廷会議で議題に乗せてもらったことがある。
しかしこれには反発する貴族が多く、まだその時期ではないとして数年先まで持ち越された。
だから僕の考えに賛成する若い貴族を集めて、着々と足場を固めている所だ。
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二十五歳になった僕はカラスティア帝国の皇帝に即位した。
僕が力を入れているのはシナバス王国との交易だ。
ランス父上からこの国の食に対する知識や考え方を聞いていたため、それを帝国に取り入れたらより多くの人々が健康になるのではと思っている。
そのシナバス王国から、若きリュウエン国王の使者が帝国へやって来た。
献上品として、最高級の梅干しと梅酒、スパイスや数多の薬膳料理の材料などを持って。
側近が僕に耳打ちした。
「現在シナバス王国は内政が不安定で、リュウエン国王の異母兄が国王の座を狙っているとの情報が入っております。もしかしたら、そのことで何か話しがあるかもしれません」
支援を求めに来たのだろうか。
それもやぶさかではないが全く違っていた。
使者が帰って行った後、我々はシナバス王国に帝国の傘下に入るよう宣戦布告した。
勝敗は決まっている。
ダキアが先頭となって攻めてきたことに恐れをなしたシナバスはすぐに降伏した。
そのダキアのリーダーは私だ。
皇帝になったのと同時に父上から魔剣を受け継いで二代目リーダーとなった。
マリウスもダキアの一員となり、エリノー公爵の魔剣は彼へ渡った。
その後、傘下に入ったシナバスの国王にリュウエンを指名したのだが、実は使者こそがリュウエン国王であり、この戦争を提案した張本人だったのだ。
シナバスを支配下に置くことは帝国にとって大きな利益であり、断る必要もないため我々はすぐに行動に移したというわけだ。
大陸では帝国の傘下に入っていないのはシナバス王国だけだった。
これによって奇しくもカラスティア帝国は大陸を統一することになった。
ただ、ガルシア宗教国だけは独立して存在している。
ここは不可侵だから仕方がない。
次回、最終回です。




