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命を救う魔剣(四)

 ***クリビア


 私を包む薄暗い空間。


 思い出した。

 ここは美砂が死んで蓮司のもとへ行く前の一瞬の間に居た空間と同じ。

 嫌だ。

 私はまだ死にたくない!


 その時頭の中に稲妻のような光が走り、誰かが私の名を呼ぶ声が脳内に直接聞こえてきた。

 どこかで聞いたことのある声……。


 《私はガルシア お前の命は今私の力によって繋ぎとめられている》


 ガルシア神!? 

 私はガルシア神だと知って、居ても立ってもいられず叫んだ。


「ガルシア神よ、私はまだ死ぬことはできません! どうかもとの世界へ戻してください! お願いします!」


 《クリビア よく聞きなさい 蓮司は前世で果たせなかったことをこの世界で果たすことになる その対価として私は彼の願いを聞くことにした》


 蓮司の願いが一体何だと言うの?

 神の言っている意味わからない。

 すると頭の中に蓮司の声が響いた。


『美砂、来世では必ず一緒になろう。どんなに離れていても必ず見つけ出すよ』


 これはトリス川で溺れた時に見た……。

 え、もしかして彼のこの思いを神は叶えることにしたということかしら?

 じゃあ私はまだ死なないんだわ。


 神の言葉とわざをそう解釈した私はクリーヴとまだ一緒に居られると思って段々落ち着いてきた。


 続けて言葉が頭に入って来る。


 《クリビア よく聞きなさい ロータスは前世で愛を裏切り多くの人間に負の影響を与えた その結果彼は今世で愛する者と引き裂かれる運命を背負っている だが今世で大きな犠牲を払ったため私は彼の心から愛する者との間に子どもを授けることにした 彼は大きな愛でクリーヴを慈しむだろう 彼は皇帝となる運命なのだ》


「なんですって……」


 せっかく安堵したのに、とんでもないことを聞かされた。

 クリーヴを皇帝……え? 国王じゃなく? ――どちらにせよ私はロータスの跡を継がせる気は無いのにそれが運命と言われても困惑するばかりだ。

 でもゆくゆくは彼にクリーヴを奪われるのだろうか。

 どうしよう。

 そんな未来考えたくもない。


 《クリビア よく聞きなさい お前が不幸と思っている人生は必然だった それはランスと出会い使命を果たすため》


「使命なんて、私などにできることは何もありません。私はただ、多くの人と同じように、普通に生きていければそれでいいのです。大それた人生など望んでいません」


 ガルシア神の言葉は返ってくることなく、脳内が静まり返っていく。


 そして孤独で静寂な空間に戻り少し不安を感じ始めた頃、再び神の声が聞こえてきた。


 《どうやら時が来たようだ ロータスの負っている前世からのカルマは清算されお前は目を覚ますだろう》


 聞き逃さないように神経を集中した。


 《クリビアよ 己の使命を果たせ そしてクリーヴを手放す勇気を持つのだ――》 




 ***ランス伯爵


 クリビアが毒矢に倒れてから一週間と二日。

 依然として意識は戻らず死の空気が彼女の周りを漂っている。

 私とアスター王子、マリウスのそれぞれは心もとなげに距離を取って椅子に座っている。


 ノックする音がして椅子から立ち上がり急いで扉を開けると薬師だった。


 毒の特定ができたと言うので喜んだのも束の間、薬師の暗い表情に鼓動が早鐘を打つ。


「毒はバハルマの銀鉱山にのみ咲くノクリスという花の毒でした。これにやられるとほとんどの者が一週間以内には命を落とすらしいので、直ちに解毒剤を作る必要があります」

「とっくに過ぎているじゃないか!」

「生きているのは奇跡です」

「伯爵、解毒剤を作るのが先だ。で、その材料は?」

「ノクリスの根です。ですが一般には出回っておらず銀鉱山まで取りに行かなくてはなりません。ただ、手に入れても作るのにまた日数がかかるので間に合うかどうか……」

「今からバハルマに行ってくる」

「伯爵、念のため城の薬師にノクリスの根があるか聞いてみる。それから私も兵を連れて行く。大人数で手分けして探した方が早い」


 そうして私とアスター王子がそれぞれの行動に取り掛かろうとした時、扉が勢いよく開いて以前街で見かけた銀髪の男が息遣い荒く部屋に入って来た。




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